28.王都脱出 sideA
「居たか!」
「誰も居りません!」
「こちらも居りません」
「どういうことだ……」
テラリューム教から派遣された斥候部隊の聖堂騎士は狼狽した。
第三独立小隊の聖騎士が去った後、件の家に乗り込んでみたが蛻の殻だったのだから。
前日から見張り続け、新しい聖女が抜け出す隙などなかった。
「いったいいつ抜け出した……やはり早朝に第三独立小隊の連中が来たときか?そんな気配全くなかったが……」
「おい、念のため王都の西・東・南の各門に問い合わせしてみろ!あと第三独立小隊が出ていく際に他に誰かいなかったか聞いておけ!」
聖堂騎士団長は爪を噛みながら聖女が消えた理由を考える。
だが皆目見当がつかなかった。
「あのー、これ何の騒ぎですか?」
そう尋ねられ声の方を向くと、魔術師とエルフの少女と少女が困り顔で団長を見ていた。
「お前たちには関係ない、邪魔だから去れ!」
「いや関係ないって……ここ私達の家なんだけど……」
「なに?」
「昨日格安の居ぬき物件が不動産屋に売り出されてたから即金で買ったんですよ、今日から住めると聞いていたんですけどね?」
「で、皆さん人の家で何やっているのですか?見たところ聖堂騎士さんのようですが……」
寝耳に水の話に理解が追い付けない聖堂騎士団長。
「それは本当なのか?何か証拠はあるか?」
言われて魔術師とエルフの少女は建物の権利証を渡した。
昨日の日付で所有権が変わっているのを確認する。
そうこうしている間に各門に聞きに行った聖堂騎士達が戻ってきた。
しかしそれらしい人物の通行はなく、今朝出発した第三独立小隊にも不審な点はなかったそうだ。
「…………」
「まー、そちらも仕事なんだろうし部屋を見て回るくらい別にいいけど、物には触らないようにして下さいね。」
そう言って魔術師とエルフの少女は商店街の各店舗に挨拶にまわった。
もちろんこの二人は魔術師シーナと魔法剣士ケスである。
「わからん、何がどうなっているんだ……」
王都を出た第三独立小隊は、途中で二手に分かれる。
アイザック・カル・リュック・マーク達4人は西に向かいミンバリ特別自治区を目指した。
ヨシュア・カーシャ・ユーコ・フランソワーズ達4人は東に向かい、王都の外にある森に向かった。
*
王都に近い東の森――
この森には複数のダンジョンがあり魔物の住処となっている。
ダンジョンは冒険者やハンターの恰好の稼ぎ場であり訓練場でもある。
その森の中をすぐ入った最初のダンジョンの前に召喚勇者小西道夫のパーティーが野営していた。
「わずか一日で……というか5時間程度で3つもレベル上げるなんて無茶苦茶だよぉ」
「さ、流石にムチャぶりすぎたか……」
「そんなこと言ったって仕方ないじゃん、Lv1の亜空間収納が思ったより狭かったんだから。もう少しレベル上げなきゃ二人分のスペース確保出来なかったし」
「それはそうだけど……うう、もう生物殺したくないよぉ……」
ヨシュア達は道夫達と話し合いの中で、斎藤真美のステータスウインドウを見た。
もしかして『空間収納のスキルを持っているのでは……』そう期待していたが残念ながら無かった。
そうそうご都合主義的な話は無いものかと思いはしたが、よく見れば次のレベルで獲得できるスキル一覧の中に亜空間収納Lv1とあった。
ヨシュア達は真美に無理を承知で頼んで、レベルアップした上で助力願えないかと頼んだところ快諾してくれたわけだが……
話し合い終了後、道夫達は速攻で東の森のダンジョンに向かい、魔物討伐をしてレベルアップを果たした訳だが問題が起きた。
Lv1亜空間収納は思ったより空間のキャパが無く、使い物にはならなかったのだ。
道夫達は慌てに慌て、普段は潜ろうとはしないダンジョンに入り、手あたり次第に魔物を討伐してレベルを上げた。
それでもう一段階レベルが上がったが、彼らが思う空間キャパにはまだ少し足りなかった。
レベルが上がったことにより戦闘力は当然向上し、次のレベルもなんとか短時間で到達し、どうやら必要な亜空間収納を獲得できた。
その後、ダッシュで王都に戻りユーシス達の家に向い、他の召喚勇者同様に聖女を略奪…………の振りをして、亜空間にユーシスとアリサを収納し、東の 森に舞い戻ってきたわけだ。
「あ、どうやら来たみたいよ」
女忍者の巽麗子が、ヨシュア達の気配を察知した。
「じゃあ、二人を亜空間から出すね」
空間がチャックのように開き、ユーシスとアリサがふら付きながら出て来た。
軽い亜空間酔いを起こしているようだが大したことはなさそうだ。
「ごめんね、狭かったでしょ」
真美は出て来た二人を見て心配そうに言った。
森に戻ってすぐ出してあげたかったけど、万が一誰かに目撃される事を恐れ、二人をギリギリまで亜空間内に隠したのだ。
「大丈夫です……あっ……」
アリサがよろめき思わず道也に倒れ掛かってしまった。
「おっと、大丈夫かい?」
道夫は飛び込んできたアリサの肩を持ち、極めて紳士的に振舞う。
「はい、ありがとうございます」
アリサの表情が少し朱に染まる。
(((あいつ誰やねん)))
道夫のパーティーメンバー、佐藤真美・西村真奈美・巽麗子は冷ややかな目で道夫を見ながら胸中そう思った。
「待たせてすまない」
ヨシュアとカーシャが声をかけ、道夫達と合流を果たした。
ヨーコとフランソワーズは森の外で騎乗して来た馬と共に待機中だ。
「君たちには一度ならず二度までも助けてもらった。この礼は必ずする。本当にありがとう」
ヨシュアとカーシャは深々と道夫達に頭を下げる。
それを見てユーシスとアリサも頭を下げた。
「いや、そんなこと気にしないで下さい。それよりこれから何処へ向かうんです?」
「ミッチー、それは聞いちゃダメ!秘密を知る者が増えれば、それだけこの子達の危険が増すでしょ!」
うっかり聞いてしまった道夫を真美が叱りつける。
「すまなかった、配慮が足らなかったよ」
バツ悪そうに道也は頭を掻いた。
「あのー、カーシャ様にお願いがあるんですけど……」
おずおずと麗子が割って入った。
「ん、なんだい?っていうか“様”付けはそろそろよしとくれ、私達はもう友達みたいなもんだろ?」
「あ、じゃあ“さん”付けで……カーシャさん、ちょこーっと皆にヒールを掛けてもらえませんか?レベル上げで皆けっこう怪我しちゃって……」
よく見れば道也パーティーの面々は擦り傷だらけだ。
「それ、どうした?」
「実は……」
道夫が余計なこを言うな!と言うのを無視して、麗子は無理してレベル上げしたことを話した。
それを聞いたアリサは、胸中色々な思いが行きかい、感激してまたもや目を潤ませる。
「あいわかった、それじゃ……いや待てよ、アリサ、ちょっとおいで」
カーシャがヒールを掛けようとして思いとどまりアリサを呼んだ。
「私は彼女達にヒールをかけるから、あんたは道夫君にヒールをかけてあげな、ちゃんと手を持って感謝の気持ちで掛けるんだよ」
そういうとカーシャは真美達にヒールを掛け回復させる。
「道夫さん、ありがとうございました。感謝の気持ちを送りますね」
そう言ってアリサは感謝の気持ちを乗せて道夫にヒールをかける。
キラキラと輝く金色の粒子が道夫を包み、同時にアリサの感謝の気持ち、温もりと優しさが癒しとなり道夫を回復させていく。
「はい良くできました。その感覚忘れるんじゃないよ、今のが聖女の魔法、セイクリッドヒールさ、道夫君、アリサの初めての聖女魔法はどんな感じだった?」
「はい……凄く……優しくて……温かくて……癒されました……」
心ここに有らずの道夫だったが、すぐ我に返り紳士らしく振舞う。
「ありがとう、助かりました。 ところで皆さんにはすぐ追っ手がかかるはず、 名残惜しいけど、もう行かれた方がいいでしょう」
そう言って道夫はユーシス達に出発するのを促した。
最後まで出来る勇者を演じる道夫君だった。
「そうするよ、あまり長くいると君たちにも迷惑をかけてしまうからね」
「ありがとうございます!皆さんのことは一生忘れません!ありがとう道夫さん!真美さん!皆さん!」
アリサはもう一度道夫の手を強く握りお礼を言った。
そして一行は去っていった。
残された道夫パーティーの面々……
「あ~、やっと終わった~!」
「早く帰ってお風呂入りたいねー」
「あーそれダメだわ、朝に戻るって届けて出てきたから、今夜はこのまま野宿なのよ」
「えー、そんなの聞いてないよー、 道夫君なんとかならないの?」
「…………」
「道夫君?」
「うへ……」
「「「(うへ!?)」」」
「俺が、俺がアリサたんの(聖女魔法の)初めての男に……」
「「「…………」」」
「あのセイクリッドヒールの優しさと温かさと癒し、最高だ!最高すぎる!」
「「「(あー、またか)」」」
「うおおおおおおおおおおお!」
「「「(びくっ)」」」
「もう俺は一生風呂には入らん!シャワーもだ!」
「あかん」
「やっぱり道夫君は道夫君や」
「……」
真美は無言で道夫の背後に回り、“ぴょん”と飛んで“子泣き爺”のように張り付いた。
「ちょ、おまえ何やってんの!?アリサたんの温もりが汚される!」
「バーカ!聖女の残滓なんざ私が消してやるぅぅ!」
道夫パーティーのギャーギャーと煩い声が、朝まで東の森に響き続けた。




