27.召喚勇者vs女聖騎士
王都東通り商店街 ユーシスとアリサの店の近く
午後2時頃、王都東通り商店街に一行は到着した。
ユーシスとアリサの店(家)の周りは一応は落ち着きを取り戻しているように見えた。
幸い神殿や教会の使いや召喚勇者達は一見いないようだった。
だからと言って安心は出来ない。
必ず何者かに監視されているはずだからだ。
二人はまず近所の顔見知りの人たちに挨拶し、近いうちに居なくなることを告げて回った。
「聖女だから仕方ないのかなぁ」
皆アリサが神殿に行くものだと思い別れを惜む。
一通り挨拶回りが終わり、ユーシスとアリサ、その他一行は一旦ユーシスの店(家)に戻った。
ダンとの争いで荒れていたはずの部屋は、昨日のうち第三独立小隊の隊員達の手で片付けられており、昨日皆で食べるはずだったアップルパイも、奇麗に掃われ戸棚の中に置いてあった。
「みんなありがとう、なんとお礼を言っていいのかわからないけど、俺、皆と知り合えて本当によかった!」
「ありがとう、ありがとうございます、私、御恩は絶対忘れません!」
アリサは涙をボロボロこぼし泣き崩れそうになり、ユーシスは彼女をそっと支えた。
「そんなこと気にするな、俺達は仲間じゃないか!」
「本番はこれからだ、頑張れユーシス・アリサ!」
隊員の皆がそう言って励ましてくれる。
ずっと耐えていたユーシスの涙腺が一気に緩み、涙が溢れだす。
そんなユーシス達の流れを切るようにカーシャが皆に激を飛ばす。
「みんな、感情に浸っている時間は無い、ここからは時間との勝負だ!」
「全員気をつけ!」
ヨシュアが号令を掛け、隊員達は“ビシッ!”と直立不動の姿勢を取る。
「大切な仲間、ユーシスとアリサ・リースティンの門出を祈って、全員敬礼!」
― “ザッ!”
統制の取れた凛々しい敬礼、
隊員達はユーシスとアリサに向けて送る。
そして一人ずつ激励してから彼ら隊員は去って行った。
ただ警護のユーコとフランソワーズはそのまま残る。
「ユーコ、フランソワーズ、後は頼む。奴ら必ず仕掛けて来るだろうから油断するな」
「ユーシス、必ず召喚勇者達が襲撃してくる。絶対にアリサを召喚勇者に合わすな、お前が傍にいて守れ、いいな」
ヨシュアとカーシャは報告のため兵舎に戻っていった。
「ユーシス君、アリサさん、家のことは私達に任せといて!いつ帰ってきても大丈夫なように守ってるから!」
シーナとケスは二人と強く握手を交わしながら約束した。
「あんたら、これ持って行きな」
そういってダーシュはなぜかハリセンを渡す。
「師匠、ちょっと空気を読んで下さいよ、こんな時にハリセンって……」
「でもそのハリセン、昨日ワムちゃんをしばいたヤツですよね?」
「その通り、気が付いてる人もいるだろうけど、これは私が作った状態異常を解くハリセンだよ、精神攻撃、パニック状態、催眠攻撃など瞬時に正常に戻す」
一同、意外な効果にハリセンを食い入るように見る。
「そして勇者の魅了もね」
「 ! 」
「こいつは使い方によっては武器にも防具にもなる。色々試してみるんだね」
そう言ってハリセンをユーシスに渡し、ダーシュはシーナとケスと共に去って行った。
皆が去り半刻ほど過ぎ――
ユーシスとアリサの旅路の準備が終わった頃、最初の襲撃者が現れた。
「ユーシス君、お客さんよ!」
「君はアリサちゃんの傍にいて!」
ユーコとフランソワーズの緊張した声が飛んだ。
二人と対峙しているのは一見してすぐ分かる衣装の男、恐らく召喚勇者の誰かと、その連れらしき女だ。
「さっさと聖女を渡せ、勇者様の命令だ」
「たかが聖騎士の分際で私達に敵うとでも?」
上から目線で挑発する召喚勇者達。
女の方は帯剣しているところを見ると、剣士系のジョブらしい。
東洋系の顔立ちと黒髪から察するに、女も召喚者なのだろう。
「勇者?そんなの何処にいるのかなー?まさか君じゃないよねぇ?」
「逆にパチモン勇者が本物の聖騎士に敵うとでも?超ウケるんですけどー」
ユーコとフランソワーズも負けてはいない。
こちらも上から目線で挑発する。
「……テメー、肉奴隷決定だぜ」
「バカな女達ね、後で聖女ともどもベッドでヒィヒィ言わせてあげるわ」
「へー、そりゃ楽しみ、想像するだけでドキドキしちゃう♡」
「アリサちゃんとベッドでニャンニャンかぁ、うへへ……悪くないかも」
召喚されてから、この世界の全ての者は逆らわずに召喚者達に媚び諂らってきた。
自分達はこの世界の頂点の存在だと自負している。
それがたかが女の聖騎士如きに不敬な態度をとられ、召喚勇者は激怒する。
―― 勇者に向かってなんたる態度、不敬極まりない!すぐに勇者の魅了で堕として後悔させてやる……いや、洗脳下では後悔はできないか。まあいい、その体たっぷり堪能してやろう ――
まだ17歳前後と思われる召喚勇者は、聖騎士達を舐めるように眺め、改めてその美しさに満足し歪な笑みを浮かべる。
「あいつら面倒くさいわ、さっさとアレやっちゃってよ」
「そうだな、それじゃ……勇者の魅了!」
勇者の眼が大きく開かれ、禍々しいオーラがユーコとフランソワーズを襲う!
しかし……
― チンっ……
一瞬で目の前の聖騎士達が消えた――
と思ったら勇者達の後ろで剣を鞘に納める音がした。
「 え? 」
勇者が振り向こうとするとバランスを崩して倒れた。
いや、正確には体の各パーツがバラバラに外れた?
そう、勇者は体の四肢を一瞬のうちに切断された。
音のした方向には、ユーコとフランソワーズがゴミを見る目で勇者を見下していた。
「な、うわぁあああああああああああ!!!!!」
「うそ、なんで?なんで勇者の魅了が効かないの?」
聖騎士の二人はユラリとこちらを向き、コツコツと足音をたてて勇者達に近づく。
「く、来るな!おい、なんとかしろ!」
「ち、近づかないで!」
剣士風の女は抜剣しガタガタ震えながら構える。
二人とも首を傾げながら“にたぁ”と笑い一言こう言った。
「「正当防衛だ!」」
そしてドヤ顔を一発ビシっ!。
「こえー!でも正当防衛ってホントなんなん!? 」
「あの二人、まさか召喚者とはいえ勇者を瞬殺するなんて……これが神託を受けた真正聖騎士の力なのかぁ……」
ユーシスとアリサは一瞬で勝負を決めた二人を驚愕の眼で見ていた。
彼らの視線に気づいたユーコが満面の笑みで軽く手を振ってきた。
ギャップが凄い。
「で、あんたはどうする?」
ジロリと剣士風の女を睨む。
「う、うわぁあああああああああああ!」
女の剣が突如炎を纏う!どうやら敵の女は魔法剣士のようだ。
ほとんど錯乱しながらユーコを袈裟斬りしようとするが――
― ガキン!
ユーコが鞘から剣を引き抜き一閃すると、炎を纏った剣は鈍い音を立てて折れた。
さらにフランソワーズが、女の喉を貫き
「動くな、少しでも動けば頸動脈が切れて死ぬぞ……」
抑揚のない声で静かに脅す。
「ひっ……(強さのケタが違い過ぎる……)」
女の股間から尿がしたたり落ちモワモワと湯気が立った。
「で、オマエ達はこれからどうされたい?」
女魔法剣士の首から剣を引き抜きフランソワーズが問う。
「た、たしゅけてくだひゃい……」
「お、俺達が悪かった、助けてくれ!」
召喚勇者達は無様に命乞いするしかなかった。
今まで勇者はこの世界の頂点の存在であり、誰も自分達に敵わないと思っていたのが、まさか女の聖騎士如きに負けるとは夢にも思わなかっただろう。
しかも圧倒的な実力負けである。
「いいだろう、その男を連れてさっさと消えろ。今なら神殿にでもいけば、その手足もなんとかなるだろう」
「あ、ちょっと待って」
フランソワーズが呼び止める。そして転がっている勇者を前にして剣を一振りした。
― ザンっ
「ぎゃぁああああああああああああ!め、目がぁああああああ!」
両の目を失い悶絶する勇者。
「貴様の目は実に不愉快だ、さっさと行け!」
「ひゃ、ひゃいいいい!」
どこから調達したのかわからないが、大八車にバラバラにされた勇者を乗せて、魔法剣士の女はすっ飛んで逃げていった。
一仕事終えた二人の聖騎士は、それはそれは爽やかな笑顔でユーシスの店に戻ってきた。
「やっほー、撃退してきたよー!」
「ユーシスくーん、アリサちゃーん、褒めて♪褒めて♪ー」
二人のギャップの酷さにビビりながら、ユーシスとアリサは顔を引きつらせて労った。
その後も2組の召喚勇者パーティーの襲撃があったが、聖騎士2人は難なく撃退した。
またテラリューム教の聖堂騎士も来ていたが、召喚勇者達がいともアッサリ返り討ちされている様子を見て、これは勝負にならないと判断し偵察に徹していた。
その他、王宮の密偵、憲兵隊から病院職員まで、ユーシスとアリサは監視されていた。
夕方、召喚勇者小西道也のパーティーが訪れたが、店の前で大立ち回り(喧嘩・乱闘)をしたあと、彼らは東の森に夜の魔物討伐に向かった。
早朝4時分頃、ユーコとフランソワーズは、馬に騎乗して迎えに来た第三独立小隊の面々と合流し、一緒に来ていた憲兵隊2人に警備を引き継ぎ、王都東門からミンバリ特別自治区トリコロールの街の視察に向かった。
朝8時頃、様子を伺っていた聖堂騎士達が様子がオカシイと感じ、憲兵隊を無視してアリサとユーシスの家に踏み込んだ時には、すでに蛻の殻だった。




