26.不安と怯え
「どっへぇ、疲れた、マジで疲れたわ~」
「高校入試の面接より緊張した~」
「ほんと疲れた~、甘いものが食べた~い」
グッタリとしてるのは先ほどまでヨシュアとカーシャの相手をしていた斎藤真美、巽麗子、西村真奈美だ。
「はぁ~、それにしても道夫君頑張ったよねー」
「ほんと、最初コイツ誰?って思ったし、真美も惚れ直したでしょ?」
「べ、別に惚れてねーし、まあでもミッチーにしては頑張ったと思うよ」
「…………」
「ミッチー?」
「うへ♪……」
「「「(うへ!?)」」」
「アリサたんが、アリサたんが僕のことを覚えてくれてたなんて……」
「あの、道夫君?」
「それで僕の手をギュって握りしめてくれて……ふひ♪」
「「「(ふひ!?)」」」
「それにあの何とも言えん甘い香りがタマランかったぁ……」
「「「キモ!めっちゃキモ!マジキモイ!」」」
「うおおおおおおおおおお!」
「「「(びくっ)」」」
「俺はもう一生この手を洗わん!」
「あかん……」
「やっぱり道夫君は道夫君やったわ」
「…………」
真美は無言で道夫の手を取り、ズリズリズリっと自分の手と擦り合わせた。
「ちょ、おま、なにしてんの!?」
「へ、上書きしたった、バーカ!バーカ!」
唐突に二人の追いかけっこが始まった。
“あははは、待て~、こいつぅ♡”
“うふふふ、捕まえてごらーん♡”
なんてゆるふわで愛らしいのじゃなく、
「調子に乗るなよ、バーカ!バーカ!」
「テメー、絶対ぶっ殺す!アリサたんの温もりを返しやがれ!」
とガチギレの道夫君。
此処まで道夫がキレているのはちょと見た事が無かった。
「あの子らが相思相愛になる日は、まだまだ遠そうねぇ」
「今の道夫くんじゃ、まだちょっと応援できないしねぇ」
「まあでも「仲良きことは美しきかな」だね」
「そうだね」
麗子と真奈美はジト目で燥ぐ二人を眺めながら溜息をついた。
……
……
……
と、台本書きパートは終わり、続いてダンの屋敷では……
*
加藤ダンの屋敷 1階食堂
食堂にはヨシュアとカーシャを始め独立第三小隊の面面、大魔術師ダーシュと魔術師シーナおよび魔法剣士ケス、そしてユーシスとアリサ。
隊長のカーシャが今後のことについて説明する。
まず今回の事件の詳細をまとめ(調書込み)速やかにダンを憲兵隊に引き渡す。
召喚勇者小西道夫とはお互いに情報交換すこととなったので、定期的に連絡を取り合う。
絵心のあるカルに王都を出奔したという召喚者の似顔絵を作製させる。
アリサとユーシスを一旦自宅に送り、ユーコとフランソワーズを警備に付かせる。
神殿にはアリサを引き渡さず、理由を付けて引き延ばす。
明日までには、事件前から王令の出ていたミンバリ特区のトリコロールに視察に出発する。
「聖女アリサ・リースティンとユーシスは安全のため王都を脱出させる。方法についてはこの後説明する」
カーシャはそう言って一旦話を切ると、皆からの質問等を受け付けた。
ユーシスとアリサが王都を出ることについては、皆も予想していたので驚きなどは特になかった。
「隊長、アリサとユーシスの店舗付きの家はどうしますか?脱出後は恐らく国に接収されてしまいますが」
「いつか帰って来たときに家が無いのは可哀そうなんじゃないかと・・」
アイザックとフランソワーズから質問とも嘆願とも言える意見が出る。
「ありがとう、でも俺達は覚悟の上だから気にしなくていいよ」
「戻って来ることがあるなら、その時に考えるから大丈夫です」
ユーシスとアリサは気遣いをありがたく思いながらも申し出を断った。
「あの、その家よかったら私達に貸して貰えませんか?」
おずおずと提案したのは意外にもシーナだった。
シーナは別にユーシスとアリサの家の心配などしていない。
ただ自身が基本冒険者宿住まいだったので、住所不定扱いでいろいろ不遇があったのと、少しでもヨシュアとの繋がりを持ちたかったからだ。
結局ユーシスとアリサは家をシーナとケスに売却した。
代金の方はヨシュアとカーシャが捻出、不動産会社を間に入れた売買取引だ。
売買代金は貰えないと断る二人だったが、長旅にはお金は絶対必要だからと押し付けられた。
その後、ユーシスとアリサの王都脱出計画を皆に説明して、各々が撤収作業に入る。
「なあ、ちょっといいかい?」
アリサは背後からふいに声を掛けられ振りむく。
声を掛けたのはダーシュだった。
「あ、はい……いいですけど、ダーシュ様……ですよね?」
アリサはダーシュを見て“あれ?”と思い躊躇した。
40代中頃くらいに見えたダーシュの顔つきは30歳前後の若々しい肌艶の顔に変化!
少し垂れた巨乳も明らかに張りが増し20代前半の瑞々しい肉体に若返っているように見えた。
「どう?私、奇麗になった?」
「え、あ、はぁ……凄く美しいですけど……え?」
混乱するアリサに満足し、ダーシュは彼女を連れて3階に上がった。
「ダーシュ様、ここって……」
ダーシュはダンの拘束されている例の部屋の前で一旦止まり部屋に入るように促す。
「い、嫌です、入りたくありません!」
アリサの体がガタガタと震えだす。
少しだけ治りかけた心がまた壊れそうになる。
心も体もこの部屋に入ることを全力で拒絶する。
視界がグニャリと歪み呼吸が荒くなる。
昨日の悪夢が鮮明に浮かび上がる。
自分が何を「見て」「して」「された」のかを!
「い、いやああああああああああ!!!!」
パニックに陥り悲鳴をあげそうになるアリサの口を、ダーシュの手が塞いだ。
「大丈夫だから、アリサにはどうしても報告しなきゃならない事があるんだ、だから、ね?」
ダーシュは震えているアリサをそっと抱きしめ落ち着かせた。
そして自分の着ているローブの内にそっとアリサを包み部屋の中に入った。
ベッドの上にダンが横たわっていた。
体は2割ほど縮み、黒かった頭髪は真っ白に色が抜け、朧げな目で空を眺め、不気味な微笑を浮かべ、ダンは完全に壊れていた。
「こいつの心は私が壊しておいた」
「…………」
「昨日のことを誰かに話すことは絶対にないだろう」
「…………」
「もう不安に思うことはない、安心していい」
「う……うう……」
「安心していいんだ、アリサ……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
昨日の出来事をダンに言いふらされるのが怖かった。
それがいつかユーシスの耳に入るのが怖かった。
ユーシスに拒絶されるのが怖かった。
昨日からずっとアリサは怯えていたのだ。
気丈に振舞っていたアリサの姿を見て、男たちは安堵して喜んだ。
でも女たちは違った。アリサが必死で隠そうとする怯えに気づいていた。
ダーシュも、カーシャも、ユーコも、フランソワーズも、親しい女たちは皆気づいていた。
いつの間に部屋に入って来たのか、アリサは彼女達に囲まれていた。
そして優しくアリサを抱きつつみ、不安を散らし癒すのだった。
一通り撤収作業を終え、一行は全員ダンの家を出た。
途中召喚勇者小西道也のパーティーとバッタリと会った。
彼らはこれから東の森でレベルアップのため、魔物討伐に向かうところだった。
王都の外にある東の森は割りと近所なので、召喚者達が日帰りでレベルアップするのには最適な場所だ。
召喚者だけでなく冒険者やハンターも、訓練や魔物の魔石目当てによく訪れている。
ヨシュアは道夫達に「よろしく頼む」と挨拶して、王都東地区を目指した。




