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21.召喚勇者の条件

 長い夜がやっと明けた。


 独立第三小隊の隊員達は、深夜中に元奴隷の関係者宅を訪問し、彼女達の身元引受人として迎えに来て貰えるようお願いして回っていた。


 もちろん彼女達の夫や家族、恋人たちは大喜びで承諾した。


 エントランスホールは元奴隷達と、その関係者でごった返している。皆、一様に歓喜していた。


 奴隷商(という名の人材派遣業)を経営していたキューリーも、自分に店の権利関係はそのままであることを知らされ安堵していた。


 また身寄りのないワナは、キューリーの元で奴隷でなく正社員といて働くことになった。



 もう一人身寄りが見つからなかった元奴隷メイドのニナだが、彼女のメイドとしての能力を買われ、キューリーの店で雇われることになった。


 もちろん奴隷ではなく正社員として。



 シーナとケスは元々冒険者だったこともあり、ダーシュが身元保証してくれたおかげで即解放となった。



 元奴隷達は全員が無事解放されて行った。





「あの人たち、解放されてよかったね」


「ああ」



 ユーシスとアリサは寄り添いながら、ぼんやりと眺めていた。


 それからふと視線を違う方向を向けると――!?



「やりすぎました……」


「反省してます……」


「ごめんなさい……」 



 仁王立ちのヨシュアの前で正座して、何やら謝り反省しているカーシャ、ユーコ、フランソワーズの三人の姿が……



「なんか珍しい光景だな」


「あんなカーシャさん初めてみた」



 どうやら3人は昨夜の正当防衛についてヨシュアにコッテリと絞られているようだ。


 元々ダンに勇者の魅了(チャームアイ)を使わせ、それを理由に正当防衛として少々痛めつけ「奴隷解放の宣言」を言わせるだけだったのが、なぜか終わりの見えないリンチになってしまった。


 彼女達も勇者の魅了(チャームアイ)に対しては、過去に色々あったこともあり、妙なスイッチが入ってしまったのだろう。



 それから暫くして、憲兵隊と神官達が押しかけてきた。


 憲兵隊は自分達のメンツがあるため事件の引継ぎを強引に迫ったが、相手が第三独立小隊だと知ると急に尻込みした。


 応対した隊員のアイザックは、事件を詳細をまとめ必ず憲兵隊に渡すからと約束し、一旦お引き取り頂いた。


 それに対し、神官達の方はゴネにゴネてゴネまくり、聖女アリサ・リースティンの引き渡しを強く迫った。


 本来であれば、聖女と発覚した者は、直接女神の神託(聖女として何をすべきなのか告げられること)でも下されていない限り、神殿入りして聖女としての身の振る舞いや知識を徹底的に教育される。


 そして神託がある日までテラリューム教直属の聖堂騎士の護衛の元、軟禁され完全に自由を奪われる。


 当然神殿に聖女が軟禁されていることが発覚次第、召喚勇者達がこぞって聖女を奪いに来るのだが、護衛の聖堂騎士達では全く歯が立たたず、毎度いいように聖女を略奪されていた。


 最近では、召喚勇者対策として神殿ではなく辺境地の教会で聖女を軟禁するようになったが、それでも聖女ミルーシャが召喚勇者田中炎皇斗(タナカカオス)に略奪されるまでわずか一週間しか掛からなかった。


 応対するアイザックは折れない神官に辟易し、溜まらずヨシュアとカーシャに振った。


 神官達は最初のうちは相も変わらずゴネたが、相手が現役の真正勇者と真正聖女であることが分かると急に余所余所しくなった。


 当然だろう、彼らは本物の勇者と聖女それに聖騎士であり女神テラリュームの御使いであり使徒なのだから。


神官達は額に汗を流し、落ち着いたら必ずアリサを神殿にお連れするよう重々に頼み帰って行った。


 もちろんヨシュアもカーシャも承諾などしていない。





 ダンの屋敷内がある程度落ち着いてきた頃、



「ヨシュアさん、ちょっといいですか?」



 とアリサが話しかけてきた。



「おはようアリサ、少しは落ち着いたかい?」


「ええ、おかげさまで……えっと、大事なお話があるのですが……」





 アリサに促され、ヨシュアとカーシャ、それにユーシスは食堂に移動する。


 食堂でカーシャが目についたティーセットで人数分のお茶を入れる。


 各々が席に着き、まずは紅茶を口にして、落ち着いたところでヨシュアが切り出した。



「それで何かな?」


「はい、昨日助けて頂いた召喚勇者様の件なのですが……」


「ああ、条件とか言ってたね、何を言われたんだい?」


「はい、条件は2つあります」



 ユーシス・ヨシュア・カーシャは身をズイと乗り出してアリサの言葉を待つ。



「一つは、召喚勇者様と握手すること」


「「誰が?」」



 ヨシュアとカーシャがさらに身を乗り出し、アリサの顔をのぞき込む。



「私がです」



 ガタっとユーシスが思わず立ち上がる。



「それは一体どんな意味が……油断して何か呪いをかけるとか?」


「握手しながら告白するとか?」



 ガタタっ!


 またユーシスの椅子が鳴った。



「真美さん、えっと私を助けてくれた時空魔術師さん?に聞いた話だと、どうもその召喚勇者様は私の店の常連客で顔見知りらしいのです。で、自分で言うのもアレですが私のファンだったとか……」


「…………」



 複雑な顔のユーシス。



「だからアリサを助けたのか」


「ま、まあいいんじゃない?お客さんは大事にしないと」



「で、もう一つは?」


「はい、こちらが本命です。握手の方はオマケみたいな感じ……かな?」


「オマケなら無視してもいいじゃん……(小声)」


「ユーシス、ウジウジするな、ちょっと握手するくらいで女々しいぞ」


「話の腰を折らないの!で、もう一つとは?」


「はい、ヨシュアさんとカーシャさんを紹介して欲しい、引き合わせて欲しいとのことです」


「俺達と?」


「はい、すみません勝手に約束しちゃって……」


「いや、構わない。彼らは恩人なのだから」


「俺も同席してもいいか?」



 ズイーっとユーシスがアリサに迫る。



「ちょ、近い!……それは問題ないと思うけど」


「なんだろうな、一体……」


「見当も付かないね」


「まあ会ってみれば分かることだ。おーい!誰か隣の召喚勇者の小西さんだっけ?アポを取りに行ってくれ!」




「それと、これは今の話とは別なんですが……」


「「なんだい?」」




 アリサは一旦小さく息を吸い、決意を込めて口にした。







「私たち、王都を出ようと思います……」


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