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19.正当防衛

残酷な表現があります。

ご注意下さい。

 召喚勇者小西道夫の屋敷――



「怖かった、ほんと怖かったよぉぉぉ!」



 顔面を涙と鼻水でグジュグジュなった召喚勇者小西道夫が、エグエグと震えながら泣いていた。


 召喚勇者小西道夫、かれは生粋のヘタレである。


 彼は先ほど隣屋敷に住む同じ召喚勇者である加藤ダンと、囚われの聖女を救うために時間稼ぎの喧嘩をして帰ってきたところだ。


 一応召喚前の世界では親の勧めで空手と剣道を習い、身体機能だけなら県内トップレベルの彼だったが、心はドウシヨウモナイほどチキンで試合の結果も芳しいものではなかった。


 召喚当時、級友男子達が次々と絶世の美女達にハニトラにあい、童貞を卒業し懐柔されていく中で、彼はビビッてベッドの下やクローゼットの中に身を隠しトラップを回避しつづけ童貞を守り切った。



 道夫が生粋のヘタレなのには理由がある。


 道夫の幼馴染である斎藤真美は、どこか不甲斐ない彼の心を鍛えようと幼少の頃から過剰に精神修行と言う名の言葉責め――すなわちパワハラを続けた。


 その結果、道夫は心に壁を作って心を完全に閉ざしてしまい、社交性が失われボッチになってしまった。


 こと此処に至り、自分のして来たことが間違っていたことに気づいた彼女は、一生彼の面倒を見ることを心に決め、彼が少しでも更生するようにと日々道夫に纏わりついた。


 そんなある日、突然異世界転移させられ、真美は道夫と親友の巽麗子・西村真奈美、さらにすでに袂を別れてしまった西城祐樹・松本朱里と共に、学級もろともティラム世界にやってきたのだ。



「道夫君エライ!今日は凄く頑張ったよ」


「今まで一番根性見せたよね、かっこよかったよ!」



 真奈美と麗子は(一応は)自分のチームリーダーである道夫が頑張ったことを心から褒めた。



「まあ、ミッチーにしてはよく頑張ったわね、おかげで聖女さん助かりそうだし良かったじゃん」



 真美は一生に一度の勇気を振り絞ってダンとやり合った道夫に対して、心の底からメチャクチャに喜んだ。



「で、真美の方はどうだった?」


「ダンの股間をキッチリ吹き飛ばしてやったわ」


「さすが時空の魔術師!」


「まあ、ほとんど聖女さんがやったけどね」


「こっちの条件は?」


「受けてくれたよ、あと追加でミッチーと握手してくれるよう頼んでおいたよ、感謝しな」


「え、マジ?頑張った甲斐があったよぉ」


「そっか、条件飲んでくれたか、少しでも帰れる情報得られたらいいな・・」


「早く帰りたいね、元の世界に……」


「「「「うん……」」」」


 四人は手の届かない故郷を思い互いを慰め合った。





*





 ダンの屋敷、三階例の部屋――


 カーシャの微感電(ボルト)により目覚めたダンは、自分の股間が失われている事に改めて驚き錯乱状態になった。


 宮廷魔術師に元に直せる方法を探させると持ち掛けたところで落ち着きを取り戻し、続いて今回の聖女誘拐事件及び違法な奴隷所持の調書に入ったのだが……


 ダンは自分の手柄を自慢するように下品な笑いを交えながら供述した。


 彼の行った数々の犯罪、そのどれもが吐き気を催す鬼畜の所業だった。



 女性に対する容赦ない異常な性癖。


 女性の精神を徹底的に破壊する巧妙で執拗な手口。


 キューリー、シーナ、ケス、ワム、他の奴隷達にしてきたこと。


 そしてアリサも……



「ああ、最後の聖女様は最高の女だったぜぇ、ちゃんとヤレなかったのが本当に残念だったがな!」



 下品な笑いを浮かべ、心底残念そうに悔しがった。



「貴様!」



 ヨシュアがダンに掴みかかろうとする。



「お、なんだ?無抵抗な人間を殴る気かよ、やってみろよ、国王にチクってやんぜ、そうすりゃオメエらは死刑間違い無しだ」


「ぐぬ……」


「へへへ……」


「…………」


 カーシャも怒りに肩が震えている。



 しかしダンは勘違いしていた。


 ヨシュアは確かに王国騎士団に所属しており王国の駒の一つではある。


 そんなヨシュア達のことを、ダンは騎士の一人や二人、国に頼めば簡単に死刑に出来ると思っているようだが、実はそうではなかった。


 ヨシュアを含めて第三独立小隊のメンバーは、王国の騎士であるとともに、その全員が女神テラリュームの御使い扱いであり、ヨシュア達に弓を引くということは、女神テラリュームに弓を引くというのと同じ意味なのだ。


 なので国王と言えども迂闊にヨシュア達に手出しは出来なかった。


 下手をすればヨシュア達に国を滅ぼされる可能性だってあるのだから。


 その上、国王と第一王子以外の王族や貴族は、ヨシュア達に対して丁寧に敬語で応対している。


 これがまた国王と第一王子に憎悪を増大させる大きな要因にもなった。


 そして、そんな彼らを国王は疎ましく思い、できるだけ出張させ近くに置かないようにしたが、彼らの能力の高さ故、出張してもすぐ戻ってきてしまった。


 ヨシュアがダンを殴らなかったのは、単に「犯罪者だとしても、職務中に無抵抗の怪我人は殴らない」的な「職務規定」に従っだけの事なのだ。



「そろそろいいかい?」



 ダーシュが護衛のユーコとフランソワーズと共に部屋に入ってきた。


 カーシャはさりげなくユーコとフランソワーズの傍に移動する。



「あんたが加藤ダンかい?あたしゃ魔術師のダーシュ、初めまして」


「へえ、歳は少々いってるがいい女じゃないか、四十路の女も結構いいものだな」



 ダンはダーシュの全身を舐め回すように眺めた。


 実際彼女はいい女だった。


 年齢は40歳中頃に見えるが、本当の年齢は何歳なのかはわからない。



「おや、ありがとう、でもガキに褒めてもらっても嬉しくもなんともないよ。」


「へ、言いやがる。おばさんの事は知ってるよ、王国で一番の魔術師なんだろ?」


「私の事を知ってかい?なら話が早い。実はアンタに頼みがあってね、あんたの奴隷達を解呪するのに奴隷解放の宣言が欲しいんだ、一言「全ての奴隷を開放する」って言ってくれないかね?」


「へ、俺がそんなこと言うとでも?」


「言わないとでも?」



 そう言いつつダーシュは特に意味もなく場所を移動し言葉を重ねる。



「今言わないと面倒なことになるんだけどねぇ……」


「誰が言うかい、どうしてもって言うなら俺が納得できるモンを差し出しな」



 そう言ってダンはカーシャとユーコ、それにフランソワーズを見て嫌らしい笑みを浮かべた。



「いやぁ、人には分相応ってもんがあるだろう、自分の顔を鏡で見てごらんよw」



 そうダンを小ばかにしながらダーシュはヨーコとフランソワーズの後ろに立ち、彼女らの肩にポンと手を載せた。



「てめぇ……だが待っていたぜ、この位置関係を!」


「な、なに!?しまった!」



 顔をこわばせるダーシュ!



「遅え! 勇者の魅了(チャームアイ)!」



 ダンの眼が怪しく光り、禍々しいオーラが4人の女性達に襲いかかる!



「きゃあああああ!」


「うははは、おめえら今から俺の下僕だ、まずはそこの男を殺せぇ!」



 支配下においた女性全員に命令するダン!しかし……



「「「「なーんて、う・そ・☆」」」」


「なっ!?」



 女性陣がニッコリ笑みを浮かべたあと、カーシャ・ヨーコ・フランソワーズが抜剣!


 一閃のもとにダンの四肢を切り落とす!


 何が起こったか一瞬理解できずにいたダンだが、一拍置いてから



「ぎゃああああああああ!俺の腕とぉおおおお脚がぁああああああああ!」



 絶叫し芋虫のように転げまくった。



「「「正当防衛だ!」」」



 ダンの四肢を切り落とした三人はキリっとした表情で言い放った。



「てめえら……なんで……なんで勇者の魅了(チャームアイ)が効かねえ!?」


「そんな外法、私達に通用するものか!」


勇者の魅了(チャームアイ)使うもの、全て死すべし!」


「さあ、楽しい正当防衛の始まりだぁ!」



 そう言ってまずユーコがダンの腹をブスリと剣で刺す。


 もちろん急所を外して。



「正当防衛♪正当防衛♪」



 ササクサクと刺しまくるフランソワーズ、もちろん急所を外して。



「これはアリサの痛みだー!じゃなくて正当防衛!」



 ―パシッ!ガラガラガラ! ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!



 雷撃を乗せて滅多切りにする、当然急所を外して。



 ブスブス、サクサク、ザックザク、


 死にそうになったらヒールで少し治療して、


 またブスブス、サクサク、ザックザク、


 あれも正当防衛♪これも正当防衛♪みんな正当防衛♪


 うふふフフフ♪……



「ヨシュアもやる?」



 嬉々とした鬼気な表情でカーシャが尋ねた・



「あ、いや俺はいい……(女って怖いな……)」



 さっきまでダンをぶち殺したいと思っていたヨシュアだが、今はちょっと引いていた。



「た、助けてくれ!わかった、言う、宣言する!」



 たまらずダンが助けを乞うように言った。



「おまえはそう言って、助けを乞う者の頼みに応じたことがあるのか!正当防衛!」



 ―ザクリ!



「ぎゃああああああ、なんで!?宣言するって言ったろ!」



「まだ言うな、もっと正当防衛させろ!」


「私達の正当防衛は、まだまだこんなもんじゃない!」


「簡単に正当防衛が終わると思うなよ……」



 カーシャ・ユーコ・フランソワーズの三人は、いずれも過去に召喚勇者の

勇者の魅了(チャームアイ)によって、辱めを受けた経験がある。


 カーシャなどは集団で召喚勇者の勇者の魅了(チャームアイ)を食らい、洗脳下においてヨシュアを刺殺してしまったトラウマを抱えて生きている。


 勇者の魅了(チャームアイ)に対する憎悪はヨシュアが想像する以上に深いのだ。


 そんな彼女達が興奮状態に陥り、切る!斬る!刺す!



「ああ、殺したい、勇者の魅了(チャームアイ)を使う全ての勇者を殺したい」


「私もよ、もう殺しちゃおっか?いいよね?いいよね?ああ、今すぐ殺したい!」


「私もだ、この首を刎ねたらどれほどスッキリすることか……もどかしい!」



「「「殺しちゃダメ?」」」



 興奮した狂気の三人娘がヨシュアとダーシュに首をかしげておねだりする。



「「ダメです!」」



 即答するダーシュとヨシュア。


“ちぇー”、と言って正当防衛を再開する三人娘。



「あの子ら、相当闇を抱えているね」


「この世界の住人で、闇を抱えていない人なんて子供達くらいですよ」



「た、たしゅけて……」


「「「まだまだー!正当防衛!」」」


「ストーップ!、正当防衛はそこまで!このままじゃいつまで経っても終わりゃしないよ!」



 流石に痺れを切らしたダーシュが一括したことで、永遠に続くと思われた正当防衛は終わった。



 その後、ダンが奴隷解放を宣言し、ダーシュが奴隷紋の一斉解呪を行い他の者がテキパキと働いて奴隷紋解呪は無事終了した。


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