01-1.最後の日常 前編
男主人公視点――
「おはよう、ユーシス」
「おはよう、アリサ」
俺を起こしてくれたあと、彼女はいつものように朝食の準備をする。
階下から美味しそうな匂いが上がって来て、釣られるようにベッドから出る。
階段を降りると食卓の上には朝食一式が準備されている。
スクランブルエッグに薄く塩コショウで炒めたベーコン、それにレタスのサラダと軽く炙った食パンにコーンスープ。
いつもより少し贅沢な我が家の朝食。
そして零れるような笑顔で迎える愛しいアリサの姿。
「遅いよユーシス、早く食べないと冷めちゃう」
遅いとは思わないけれど、少しでも温かいうちに食べて欲しいと思う彼女の優しさなのだろう。
栗毛色のセミロングで艶やかな髪、14歳というには余りにも不相応な大きな双丘と引き締まったボデイライン。
そしてアースアイの瞳は整った目鼻立ちをさらに引き立てる。
あどけなく癒しに溢れる魅力的な少女……
俺の大切な家族であり幼馴染でもあるアリサだ。
「明日の成人の儀、昼には戻れそう?」
「たぶん大丈夫だと思う。帰ってきたらお祝いしてね?」
明日はアリサの誕生日、この国では15歳からが成人で、教会や神殿に出向いて成人の儀を行うのが習わしだ。
その時に今後の人生を左右するかもしれない【女神の祝福】を授かる。
「あれから4年か」
「もうそんなに経ったのね……」
4年前のあの日、俺達の身に悲劇が襲った。
そして悲劇は、同時に二人の運命をより強く結びつけた。
「そろそろ行こう」
「ええ、ユーシス」
俺達は食事を終え第三独立小隊の訓練場所、スラヴ王国王都のすぐ近くを流れる一級河川、ヴォルガ川河畔へ向かった。
*
「や!はぁっ!」
― キンッ!ガキン!
「いいよ、アリサ!剣の走りが鋭くなった!そこから雷撃魔法を!」
「ギガボルト!」
― ガラガラガ、ドッシャーン!
アリサの放った雷撃魔法が、スラヴ王国騎士団・第三独立小隊隊長カーシャ・リースティンを穿つ!
「ストライバー!」
― キンッ!キンッキンッ! バシュッ!シュゴゴゴ……
その雷撃魔法を、カーシャは聖女の防御魔法で完璧に防いだ。
カーシャ・リースティン――
輝く金色の長髪、狂いの無い目鼻立ちに少し細めのアースアイ、さらに暴力的な双丘を伴う完成されたプロポーション、まさに完璧の美を誇る女性騎士……
彼女は5年前に神託を受けた聖騎士でもあり聖女だ。
神託以前には、雷撃系の魔法を駆使した剣技を得意としたことから「雷帝」と呼ばれていた事もあり、今でも地方では彼女の事を雷帝と呼ぶ者は多い。
「何をよそ見している!」
― ガッ!ガツッ!
「ギャッ!いててて……アニキ卑怯だぞ!よそ見しているスキを討つなんて!」
「女の尻ばっかり見ているからだ!いくぞ必殺の魔王彗星斬!」」
― どっご~ん!シュババババ!
剣圧による衝撃波が水面を走る!
「な、なんだよ、勇者なのに魔王とか!? それに彗星斬ってカーシャの技名と名前が被ってんぞ!」
「いいんだよ、カッコいいし夫婦だから。そ~れ、竜王昇竜剣!」
ボコーン!
「今度は竜王かよ、しかも"竜"がダブってんぞ、ていうか地面にアナ開けといて昇竜は無いだろ!つーか死ぬ!死んじゃうから!たった17年で生涯が終わってしまう!」
「うははは、死ねーー!」
「死ねって言ったぞ、この勇者!?」
俺を嬉々としてイジメ……修行を付けてくれるこの藍色髪の男――
スラヴ王国騎士団・第三独立小隊副隊長ヨシュア・リースティン……これでも勇者だ。
第三独立小隊は隊長カーシャ、副隊長ヨシュアの他に6人の隊員がいる。
皆、女神テラリュームから祝福を受けた本物の聖騎士だ。
そしてその勇者ヨシュアに嬉々としてイジメ……修行を付けられているのが俺、ユーシス。
武具・鍛冶屋の倅……というか今は俺が店主だけど。
俺とアリサは自宅兼店舗が隣同士の幼馴染。
アリサも亡くなった両親の店を継ぎ、花屋を営んでいる。
俺達は4年前、自宅を強盗団に襲われ、巡回していたヨシュアとカーシャの助けにより一命を取り留めた。
しかし残念ながら両親達は……
以来、ヨシュアとカーシャは何かと目に掛けてくれるようになった。
そして俺達の「強くなりたい!」「身を守る力が欲しい!」という我儘に応えてくれた。
それからは第三独立小隊の朝の訓練に「たまたま居合わせた」という事にして、共に参加するようになったわけだ。
そのおかげで、現時点で俺とアリサは4級冒険者を凌ぐくらいの力は付けていた。
「ふぅ、よし今日はこれくらいにしとこう」
「ほ、本気で死ぬかと思った……」
スッキリ顔のヨシュアのアニキとゲッソリ顔の俺の顔が対照的すぎる。
「なあアニキ、今日ちょっと相談があるんだけど……」
「なんだ?」
「アリサのことなんだけど……」
ぼんやりとした表情で遠くにいるアリサを眺める俺に、アニキはすぐピンと来たようだ。
「いいぜ、おまえもいい加減に腹を決めないとな」
アニキは俺の肩を叩きながらニヤリと微笑を浮かべた。
「全員集合!」
副隊長ヨシュアの号令とともに皆がワラワラと集まる。
「皆お疲れさま、本日の訓練はこれにて終了だ。では隊長、いつものアレお願いします」
「では……ホーリーウォッシング!」
カーシャの聖女魔法ホーリーウォッシングが発動してキラキラと金色の粒子が全員を包み込む。
これは聖女の初級魔法で、対象者や対象物の汚れを瞬時に落とす、風呂いらず洗濯いらずの凄く便利な洗浄魔法だ。
なんでも上位互換に〔ホーリーピュアファイ〕なるものもあるらしい。
「アリサ、明日誕生会するんだろう?私達も代表でお邪魔していいかい?」
「もちろん大歓迎です!いいよねユーシス」
「聞かれるまでも無いよ、ちゃんとアニキとカーシャの席は準備するぜ!」
明日、アリサの成人の儀のあと、俺の店でアリサの誕生パーティーを行う予定なのだが、そのとき俺はどうするべきか悩んでいる。
動くべきか、先送りするべきか……
「ユーシス、帰ろ?」
背後からアリサに声をかけられ、油断していた俺の身体にビクリと電気が走る。
「ごめん。俺ちょっとヨシュアのアニキと話があるから……」
「そう、それじゃ先に戻るね」
踵を返し帰っていくアリサの背中を見ながら、俺は深い溜息をついた。
「なんだい?今の表情とため息は」
ニヤニヤしながらカーシャが耳元で囁く。
「うおぅ!?」
「そんじゃ話、聞こっか」
「あ、はい、て、カーシャも一緒なのか!?」
「そんな弄くられオーラ満開のアンタを私が見逃す訳ないだろう、むふふ」
訓練が終わりキリっとした表情が崩れ、カーシャは残念な美人モードに入ったようだ。
「まあいいじゃん、面白い話は皆で共有しないと!」
そーだ!そーだ!と隊員の聖騎士達まで騒ぎだす。
「あんたらは帰れー!」
『ちぇー』とぼやきつつ、それでも聖騎士達は帰ってくれた。
さてと……




