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09.救いのない残酷な世界で愛しい人の名を叫ぶ




 ユーシス……私の大切な愛しい人、


 あなたのへの想いが、愛が、消える、消えてしまう……


 ああ、ユーシス……怖い、消える、消えちゃう……全部無くなっちゃう……


 いやだ、いやだよ!……ユーシス……ユーシス………………ユーシス?


 ……


 …


 ― ユーシスって誰だっけ? ―








「ごめんね、ユーシス。」



 ――え、何を謝っているんだ?

 どうしてそんな申し訳なさそうな笑みを浮かべているんだ?――



「アリサ……?」


「ほんと、ごめんなさい。私もう、あなたのことは好きじゃないみたい」


「…………!」


「だからもう、これで一生お別れね、ばいばい、ユーシス」



 アリサは酷く冷めた口調で別れを告げた。



「待ってくれ、アリサ! アリサー!」


「ぷっ、くふふ……はははははは!」


「ダン、貴様―!」



 立ち上がって殴りかかろうとするも、下半身が全く言うことを利かず立つことすらままならない。



「ははははは、いいぜ、いい! その表情が見たかった!」


「もう、ダン様、こんなヤツほっといて早く行きましょ、私もうさっきから身体が疼いて堪らないのぉ♡」



 もうアリサの心は、ダンに愛されること以外何も考え無くなっていた。



 「アリサ、頼むからそんなこと言わないで、正気に戻ってくれ!」



 ユーシスの涙腺が一気に崩壊した。



(ああ、アリサ、愛しいアリサが……)


「ははは、おら、聖女様、こっちこいよ、キスしてやっから」


「はい、ありがとうございます!」



 満面の笑みでダンの元に向かおうとするアリサ。

 


「おい、特別サービスで見学させてやるんだから、感謝しろよ、テメエの女がキスされて奪われる瞬間をよぉ」


「もう、ダン様ったら悪趣味ですぅ」



 ユーシスの心はもう壊れる寸前だった。



 (いやだ、そんなところ見たくない!)



 ググッと両の拳に力を魔力をためるユーシス、そして……



 「ファイヤーボール!」



 ゴウ!と轟音をたてて火球がダンを襲う!



「ふん!」



 バシュ!



 初めて帯剣していた剣を抜き、一閃のもとに火球を切り裂いた。



「おいおい、オマエ魔法まで使えんのかよ、マジで何者だよ?」



 余りにも意識外の攻撃だったせいでポカンとするダン、だがすぐユーシスの元に近づき、



「そんな手癖の悪いヤツにはお仕置きだな」



 スッとダンが剣を振った。



 ―“ボト”



 ユーシスの両腕が床に転がった。



「うわあああああああ!」



 街中にユーシスの絶叫が響き渡る。



「キャー!」


「な、なんだよあれ!?」


「あれ、アリサちゃんとユーシスだよな、どうなってんだ!?」


「ちょ、誰か憲兵隊と救命隊呼べよ!」


「バカヤロー!なんてことしやがるんだ!」


「てめえ、いい加減にしやがれ、ユーシスが死んじまうだろうが!」



 いつの間にか集まってきた野次馬があまりの惨劇に悲鳴と罵声を上げる。



「うるせーぞゴミ共、俺は王国の勇者、加藤ダンだ、文句のある奴は前に出ろ!」



 背後からの罵声に振り返り、恫喝するダン。



「…………」



 野次馬達は一瞬で静まった。


 その背を向けた瞬間、



「だありゃああああ!」



 背後からユーシスが渾身の飛び蹴りを食らわせた!



「!?」



 虚を突かれたダンは流石に無様に前のめりに倒される。


 そのすぐ横にユーシスもドサっと転がった。



「こいつ、なんてことすんのよ!」



 ゲシ、ゲシ、と横たわるユーシスを蹴りまくるアリサ。



「へ、へへへ、これでもう流石に終わりだ、アリサ……ああ、アリサ、すまない、君を救えなかった……師匠達、あとは頼みます……」



 アリサの蹴りを感じながらユーシスは意識を手放した。



「こいつ、死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!早く死んで!」



 ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、ゲシ、



 ドン引きする周囲をよそにアリサは両の眼を吊り上げながら蹴り続ける。


 たちの悪いことに「魅了」されると、徹底的に想い人嫌うようになってしまう。


 愛が深ければ深い程、殺したくなるほどに嫌悪する気持ちが強くなるのだ。



「いててて、テメエよくもやりやがったな……て、もう伸びてんのかよ。つまんねぇ、…………おいおい聖女様もパねえなぁw」


「えへへへ、褒められちゃった♡」


「誰も褒めてねーよw、それにしても、そんな癖の悪い脚、これもいらんわなぁ」



 ダンの刀が揺らいだかと思うと


 ― ザンッ


 ユーシスの両の脚が切断された。


 が、ユーシスに反応は無かった。



「け、やっぱり面白くねーやつだな」



「キャー!」


「む、惨い」


「なんであんな奴が勇者なんてやってんだよ……」


「アリサ……好きだったのに……」


「勇者の魅了ってやつだ、どうしようもない……」



 状況を見守ることしかできない野次馬達、助けようと思っても何もできない自分達に嫌悪してしまうがどうしようもない。相手は勇者なのだ。



「さあ、そんじゃトドメを刺して帰るとするか……」


「そうしましょ、私もう蹴り疲れちゃったわ」



 ユーシスの首元に剣の刀を当て……



「…………」


「どうしたの?こんな目障りなやつ、さっさと殺してよ?」


「いや、このまま殺すのは俺のポリシーに反するんでな」


「どういうこと?」


「こいつ連れて帰ろう、そいでもって俺たちの行為を散々見せつけて、死ぬほど悔しがらせてから殺そうぜ!」


「やっぱりダン様って悪趣味ぃ、まあ、私はダン様に愛されるならそれでも・・」


「そうと決まれば、おい!」



 それまで空気だったダンの従者たちが集まってきた。



「おい、お前ら、コイツ適当に手当てしてから屋敷に運べ、いいな?」


「はい……」



「さあ、早くいきましょ!もうさっきから身体が疼いて疼いて限界だわ!」


「ああ、わかったわかった、散々手こずらしてくれた分たっぷり可愛がってやるよ」


「きゃあ、嬉しい♡」



 ダンはアリサの腰に手を回して去って行く。



 トキメキを感じ、ダンの傍を歩くアリサ。


 笑みを浮かべ、幸せそうに、物欲しそうにダンの顔を見つめる。


 だが彼女の瞳からは、なぜか涙が滴り落ちた。


 ダンはアリサの腰に手を回して去って行く。



 トキメキを感じ、ダンの傍を歩くアリサ。


 笑みを浮かべ、幸せそうに、物欲しそうにダンの顔を見つめる。


 だが彼女の瞳からは、なぜか涙が滴り落ちた。



2020.12.07 改行調整

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