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劇的なる浪漫詩集および抒情詩集 Dramatic Romances and Lyrics  作者: ロバート・ブローニング Robert Browning(翻訳:萩原 學)
17/22

少年と天使 The Boy and the Angel

英雄対句で書かれたバラッド。天使が人間に化身するモチーフは、昔話『シチリアのロバート』に由来する(Woolfoad & Karlin)。この話の戯曲は見つからないが、ロングフェローの詩があるので、そのオマージュかもしれない。但し、ロバート王の傲慢を罰するため王に化けた天使が玉座を奪うという原曲とは対照的に、ブローニングの書いた天使は神を讃える少年の身代わりを務める穏やかな存在。ハッピーエンドではないのだが。

あしたゆふべに、昼そして夜と、

「神を讃えよ!」と歌うはテオクライト。

乃ち貧しい稼ぎを振り返った、

そこから日々のかてを得ていた。

MORNING, evening, noon and night,

“Praise God!; sang Theocrite.

Then to his poor trade he turned,

Whereby the daily meal was earned.


懸命に働いた、長く良く。

その仕事の跡には巻き毛散り。

Hard he laboured, long and well;

O’er his work the boy’s curls fell:


いつまでも、いつの季節になっても

立ち止まっては歌った、「神を讃えよ!」

But ever, at each period,

He stopped and sang, “Praise God!”


すると、するすると巻き毛は戻った、

快活に向き直り、また一から働いた。

Then back again his curls he threw,

And cheerful turned to work anew.


ブレイズという、聞いていた僧侶は言う「悪しからず。

 しかし子よ、そなた聴かれて居らずにや?」

Said Blaise, the listening monk, “Well done;

“I doubt not thou art heard, my son:


 そなたが声の今日大いにあります程には

 神を讃えてあること、教皇ののりにも及ぶに。

“As well as if thy voice to-day

“Were praising God, the Pope’s great way.


 この復活祭の日、教皇はローマにて

 神を讃えん、ペテロのドームより。」

“This Easter Day, the Pope at Rome

“Praises God from Peter’s dome.”


テオクライト答えて、「神おはしますに我あります、

 いざ讃えましょう、大いなる哉、死を迎えるまでも!」

Said Theocrite, “Would God that I

“Might praise him, that great way, and die!”


夜は更けゆき、陽は輝いた

テオクライトは逝ってしまった。

Night passed, day shone,

And Theocrite was gone.


神におかれてはまた1日のこと、

千年一日例の如く。

With God a day endures alway,

A thousand years are but a day.


天国にて神(のたま)はく「昼と言わず夜と言わず

 これに我が喜びの声有れかし。」

God said in heaven, “Nor day nor night

“Now brings the voice of my delight.”


即ち大天使ガブリエル、虹1柱の立てる如くに、

その両翼広げ給うや、地に降り立ちぬ。

Then Gabriel, like a rainbow’s birth,

Spread his wings and sank to earth;


受肉し給うは虚ろなる小部屋に

生活始む、演ずるはたくみを巧みに

Entered, in flesh, the empty cell,

Lived there, and played the craftsman well;


朝に夕に、昼そして夜と

神を讃えた、テオクライトの代わりにと。

And morning, evening, noon and night,

Praised God in place of Theocrite.


少年の姿から、青年となり。

やがて青二才の色も払拭され。 

And from a boy, to youth he grew:

The man put off the stripling’s hue:


盛りを迎え、それも過ぎ

衰退期へと落ちていったが

The man matured and fell away

Into the season of decay:


幾つになっても稼ぎに精出し、

いつも地上の事物に構い続けた。

And ever o’er the trade he bent,

And ever lived on earth content.


(彼ぞ神の意志を為す。自身に、全てに

 地上に在ろうと日中に在ろうと)

(He did God’s will; to him, all one

If on the earth or in the sun.)


神曰はく「褒め歌のひとつ我が耳に有り。

 そに疑いはなし、恐れもなし。」

God said, “A praise is in mine ear;

“There is no doubt in it, no fear:


「いざ歌え古きよりの世界を、また

 我が脚元より立てる新世界を。」

“So sing old worlds, and so

“New worlds that from my footstool go.


「高らかに愛しがり響け如何様にも。

 我が幼子が褒め歌の恋しき。」

“Clearer loves sound other ways:

“I miss my little human praise.”


するとガブリエルの翼弾け飛ぶや、落つ

やつし身のままに残らざるを得ず。

Then forth sprang Gabriel’s wings, off fell

The flesh disguise, remained the cell.


復活祭の日のこと、飛び来ったはローマ、

停まったは聖ペテロのドーム。

’Twas Easter Day: he flew to Rome,

And paused above Saint Peter’s dome.


楽屋にて、隣接するは

大いなる外部廻廊に、

In the tiring-room close by

The great outer gallery,


聖なる法服その身に纏い、

新教皇テオクライトの立てり。

With his holy vestments dight,

Stood the new Pope, Theocrite:


その来し方のことごとくが

まっさらに帰す今や、

And all his past career

Came back upon him clear,


少年ひとりが稼ぎに通った頃から、

その病の膏肓に入るに至るまで。

Since when, a boy, he plied his trade,

Till on his life the sickness weighed;


小部屋の匠に迫り来る死に、

ときの声上ぐ夢中の天使。

And in his cell, when death drew near,

An angel in a dream brought cheer:


かく鬱々たる病から立ち直り

司祭となって、今や是に立ち。

And rising from the sickness drear

He grew a priest, and now stood here.


褒め歌以て東へ臨むや、

その視界に天使燃え落ち。

To the East with praise he turned,

And on his sight the angel burned.


「汝が職房より我そなたに生れて、

 是に汝を据えた。もはやこれまで。」

“I bore thee from thy craftsman’s cell,

“And set thee here; I did not well.


 虚しく我が天使仲間から去り、

 過ぎ行くは汝が夢の久しき。

“Vainly I left my angel-sphere,

“Vain was thy dream of many a year.


 汝が声の褒め歌弱く。墜ちた……

 天地創造の合唱も止んだ。

“Thy voice’s praise seemed weak; it dropped—

“Creation’s chorus stopped!


 引き返せ、再び讃えよ

 昔ながらに……我残れるうちに。

“Go back and praise again

“The early way—while I remain.


 我等が恥より小声もて、

 創造物の立ち止まる緊張を解せ。

“With that weak voice of our disdain,

“Take up Creation’s pausing strain.


 帰れ小部屋に貧しい稼ぎに

 戻れ職人に少年に!」

“Back to the cell and poor employ:

“Resume the craftsman and the boy!”


テオクライトよわい重ねるはホームに

新教皇住まうはペテロのドームに。

Theocrite grew old at home;

A new Pope dwelt in Peter’s dome.


片方消えたはもう片方の死して

揃って神を求め隣り合って。

One vanished as the other died:

They sought God side by side.

MORNING, evening, noon and night,:詩篇55篇17 夕べに、あしたに、真昼にわたしが嘆きうめけば、主はわたしの声を聞かれます。

Theocrite:人名。night, Might, dight と押韻。『ローマ教皇テオクライト』は見当たらず、古代ギリシアの詩人テオクリトス(Theocritus)をネタにした架空の人物と思われる。

Rome:英語読みで dome と押韻。日本語では当地読みを尊重して「ローマ」というので、やや合わない。

curls:「巻毛が落ちて散らばる」というのは、落ちた髪の毛がそれぞれ丸まっただけかもしれない。

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