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一筋目

書き出し祭りの「『呪い』と『祝福』は紙一重」の改稿&連載版です。よろしくお願いします。

 仕上がった筋肉をしならせ、いつものように森の木々を拳でへし折っていたはずだ。

 それなのにどうして、俺はこんな薄暗い洞窟に立っているんだろう。


「やった、成功だ!」


 ……いや、ここどこ? 灯りのおかげで至る所に辺り一面に岩肌が見えるから洞窟なのはわかるんだけど、それ以外はわからない。

 それにこの金髪碧眼のちびっ子はいったい何者? 敵? 敵かな?

 そのまま何が起きたのか理解出来ないままぼーっとしていると、俺の状態に気づいた少年が話しかけてきた。


「えーっと、新渡戸にとべ力也りきやさん、ですよね?」


「そうだけど……あっ、ちょっと待って」


「えっ、どうかしましたか?」


「頭がクラクラする。吐きそう……。何これ……?」


 木を折ってる時は何も無かったはず。ここに来る前に変な空間にいた気もするからそこのせいかな?


「……ふぅ。だいぶ治まってきた。で、君は誰かな?」


「僕はリシ! あなたを転移させた張本人だよ!」


 あっ、あの空間は転移特有のものだったんだ。なるほど。そういえば俺って転移した事ないから慣れがなかったのか。それで酔っちゃったと。

 うん、とりあえずなんだ。


「──くたばれ」


 拳が空を切り、地面にめり込む。避けられたか。

 でも大丈夫、俺なら次は外さない。確実に拳をぶち込もう。


「待って待って! なんで唐突に攻撃してくるの!?」


「はっはっは。ちょっとした筋肉ジョークだよ。それにどうせたぶん君は俺の敵だから問題無い? と思う」


「筋肉ジョーク!? お兄さんのそのほっそい身体……ってムキムキになってる!? いや、それよりたぶんで僕を攻撃したの!? とりあえず話を聞いてよ!」


「うーん、じゃあ君が下手な事したら即攻撃するから覚悟してね?」 


「召喚する人を間違えた……? えっと、掻い摘んで説明すると──」 


 曰く、この世界と似た道を辿たどった世界線を探して、その中でも自分の魔力でも呼べる一番強い人を召喚して、この世界の戦争を終わらせる手助けをして欲しいらしい。

 それと、敵に捕まった同胞どうほうの二人を出来れば助けて欲しい、と懇願こんがんされた。


「話は終わったね? 目を瞑って歯を食いしばって」


「さすがに理不尽ですよね!?」


「理不尽なもんか。むしろそれはこっちのセリフでもあるんだから」


「そんなムキムキの状態のまま言われても説得力無いですよ……」


 出来るだけ優しい笑顔を浮かべつつ手を招くと意を決したのか歩み寄ってきた。

 よしよし、しっかり衝撃に対する体勢がとれてるな。それじゃあ。


「おりゃっ」


 ピシッと快音が鳴り響く。ふむ、我ながら良い加減をした。


「痛い〜……」


「デコピンで済んだなら儲けものだぞ? それとなぁ」


 相手の事情とかを考えず、勝手に異世界から人を呼び出したことに関してお説教を始めようとすると、破壊音と共に振動が伝わってきた。

 ……誰だ邪魔する奴は。


「もうバレたの!? 逃げなくちゃ!」


 手馴れたように身支度を始めるリシを見下ろす。正直何が起きてるのかわからないので何も出来ずただ突っ立っていることしかやることが無い。


「あっ、転送に必要なのでお兄さんの魔力、もしくはエーテルをお借りしてもいいですか?」


「俺はそういうの無いぞ?」


「…………えっ?」


 しょうがないだろ。そういう体質なんだから。だからそんな絶望し切った顔しないで。なんか申し訳なくなる。

 でもそうだよな。強い人を呼び出したはずなのに魔力無しの人間が来たらそりゃこんな反応になるよな。俺でもそうなる。


「どうしよう……。これじゃあ跳べないよ……」


「そっか、なら君だけでも逃げなよ」


「いやいや! ダメですって! 呼んでおいて置いて……って、どこに行くんですか!」


 そんなリシの声を遮るように、俺は音が響く方に歩く。怒鳴り声が聞こえるけど気にしない。


「隊長! 指名犯とその仲間と思われる男を確認しました!」


 先遣隊かな? 五人パーティーが俺とリシを見つけるなり後ろから敵の戦力が俺の前に立ち塞がった。


「でかした! 各自詠唱及び対魔法障壁の用意! 転移される前に一気に攻めろ!」


 洞窟崩れないそれ。折角俺達を殺せたのに生き埋めになって帰れませんじゃあかっこ悪いよ? ていうか俺もそうなりたくないから出来れば遠慮して欲しいかな〜って……。叶う事の無い願いだとはわかってるけど、とりあえず祈るだけ祈っておこう。魔法の使えない俺は結局──


 ──物理でどうにかしないといけないんだから。


 自分の筋肉を更に膨張させ、隊長と呼ばれていた男との間合いをゼロにし、渾身の力を拳に込めて顔面を打つ。

 ゴシャッ、と男の顔から鈍い音が反響する。なんか硬いもの被ってたけど、普通に壊せるもんなんだね。


「な、なんだコイツは!? さっきと身体付きが違うぞ!」


「しかも今のは『空間転移』の類じゃないのか!? なぜ通り抜けられてる!?」


「魔法なんか使ってないからその障壁も意味ないんだよねっ!」


「ぎゃっ!」


 ついでに近くにいた奴らを片っ端からぶん殴る。安心しろ、ギリギリ生きてる!


「怯むな! 相手は一人だ! 前衛! 抜剣し、後衛の魔法の完成の時間稼ぎをせよ! 遊撃部隊! 詠唱破棄の速攻魔法で前衛の手助けだ!」


 指揮官潰してるのにこれか……。前衛が二十人ちょいと後衛が十人、遊撃が五人いないくらいか。多いな。一人じゃ無理じゃないかこれ……。


『溶ける事無き凍てつく世界よ。我らが声を聴き存在を知ら示せ』


 十人で集団詠唱!? 何それどんな魔法!? 洞窟崩れますけど!?


「うわっ!?」 


 前衛の一人がよくわからないものを降ってきたので受け止めようとけど、嫌な予感がしたので横っ飛びで回避する。するとそれは地面を斬り裂いている。更にそれをよく見ると膜のようなものが張られていた。なるほど、あれは魔道具に似た何かなのか……。


「ファイアーボール!」


「ッ! おらぁ!」


 地面にヒビが入るほど足の踏ん張りを効かせ、腕を全速で振り抜く。それによって繰り出した拳圧が魔法を相殺する。多少驚かれたがすぐに新しい魔法が飛んでくるから容赦無く吹き飛ばす。なんなら拳圧を魔術師にまで届かせて戦闘不能にさせる。

 しかし攻撃を避けながら一人ずつ倒すが、敵が多い! 捌ききれない! リシはいったいどこから狙われてるんだ!

 それより魔法が来ちゃう! この世界の魔法とか未知数で、魔道具の事もあるから出来れば受けたくはない!


『──地獄の冷気をもって永遠の眠りに誘え』


「総員退避! 巻き込まれるな!」


 っ! 無理だったか! まず──、


永久アイス──』


「えいっ」


 まずい、そう思ったタイミングで戦場の上を凄まじいスピードで何かが駆け抜ける。戦闘中だというのに誰もがそれに目を奪われた。

 次の瞬間だった。


「…………は?」


 とんでもない破砕音が洞窟の中に響き渡る。そしてその破砕音の真下には魔法を顕現させようとした奴らの上に崩れた岩壁が落ちてきて悲鳴をかき消すように潰されていった。


「……あの、リシさん?」


「お兄さん! 今です!」


「可愛いポーズをとって今ですじゃねぇよ! 何したの今!? 下敷きになった人達絶対死んでるよね! 掛け声とギャップがあり過ぎてこの中で一番お前が怖いわ!」


 右手を突き出して格好をつけているかもしれないけど、見た目からしてちっちゃい子だからほんわかする。こんな状況じゃなかったらな!


「大丈夫です! たぶん!」


「たぶん!? たぶんは信用ならないんだけど!」


「お兄さんだってたぶんで僕を襲ってきたじゃないですか!」


「そうだった! じゃあ何も言えないや!」


 リシとギャーギャー言い合いながら呆然としている残党を申し訳ない気持ちでしばき倒した。

 未知の魔法や道具があってかなり怖かった……。一番怖かったのはリシのアレだけど。


「お兄さんどんな身体してるんですか。『身体強化』の魔法……じゃないですよね? どんな原理ですか?」


「ん……。まぁ、俺の世界で言うところの『祝福』のお陰だな」


「『祝福』……?」


「簡単にまとめて言うとそいつにしか扱えない魔法みたいなものだ。三歳になった子供は必ず魔法協会に連れていかれて『祝福』の能力を鑑定されるようになってるんだ」


「へぇ……。お兄さんの世界にはそんなものがあるんですね」


「まぁな。それで俺に与えられたものがこの『筋肉』だ。さっきから身体を大きくしたりしてたのはこれのおかげだな」


 もっと細かく言うと筋肉を極限まで抑えて皮と骨だけみたいな体格にすることも可能だ。服がまともに着れなくなるからやらないけどね。


「そのせいで魔法、というより魔力を身体に貯めておくことが出来ないんだ」


「えっ、そういう事があるんですか?」


「いや、本来ならありえない出来事でね。協会の人達からは神からの寵愛だのなんだの言われたけど、実際原因不明だし。大変だったよ。魔法が使えないと生きていけないレベルの世界だったからね」


 魔力が一切無いことが発覚してからしばらくの間、あらゆる手段で外部から魔力を注がれたけどすぐに霧散するんだもん。もうどうしようもないよね。


「魔法至上主義のあの世界だと俺って異常、っていうか腫れ物みたいなものだったんだ。だから腕っ節はあっても魔法が使えないから人の世界でまともに生きていくのは無謀だったし、誰も近づかない森の奥へと追いやられちゃってさ」


 この力のせいで辛い事が沢山あった。

 だからこそ、自分に宿った『祝福』を強く呪った頃もある。

 だからこそ、使うまいと思っていたのに、『祝福』を使わないとまともに身を守れないような立場にいた。否が応でも使いこなせる、なんて皮肉じみた状況になってたけど。


「だから、この力は『祝福』なんてものじゃない。少なくとも俺のいた世界ではそうだったよ」


 昔の事を思い出して気分が沈んでしまったが、人にそんな状態を悟らせるわけにもいかないので無理矢理笑顔を作る。


「……っ」


 リシは何も言わず、顔を伏せながら俺に近づき、あろうことか俺に腰の辺りを抱きついてきた。

 理解が追いつかない。

 なぜ、このタイミングでリシは俺に抱きついてくる?

 物心がついてから触れられてこなかったが、恐らくこれが子供の力なのだろう。その気にならずとも、ほんの少し手で払い除ければ離れさせることが出来る程だ。

 でも、どうしても力ずくで引き剥がそうだなんて思えなかった。

 少しした後、リシは顔を上げて俺と目を合わせた。


「お兄さんの力は、紛れもなく『祝福』です。その力があれば、大勢の人が助かります。もしその気がなければ、すぐにでも元の世界に帰します」


 だから選んで……か。

 目線を俺から外すことなく、矢継ぎ早にリシが言う。

 いつもの俺なら「そうですか、じゃあさようならだね」と、言っているところだ。

 でもね。


「どうせ戻っても生きにくい世界なんだ。折角だからお前の頼み、引き受けるよ」


 初めて人から頼られたからかもしれない。

 純粋すぎる眼差しに、応えたいと思ってしまったのかもしれない。

 そして何より嬉しかったのは、俺の『祝福』を肯定してくれたこと。

 それだけでも、俺はリシの願いを聞ける。 


「だが、俺は君と一緒に行くことは」


「出来ませんよね。解ってます」


 先に帝国近くのアジトで待っています。そこでまた会いましょう。と続けた。

 リシに礼と別れを告げてすぐに洞窟を出る。その先には前の世界ではあまり目にすることが無かった荒らされた痕が遺っている。

 今更怖気付くことも無いけど、俺程度がこの世界のあれこれをどうにか出来るとかたぶん無理だろうな。

 約束を違えることになるかもしれない。だけど、俺に出来る事を少しずつ、慎重にねじ伏せよう。

 どんな世界であれ、俺にあるのは筋肉だけだからな。




 ……ところで、帝国ってどこにあるの?

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