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アニメのお仕事

アニメのお仕事・蛇足

作者: 万卜人

 PCのモニターの前で、市川は大きく伸びをした。

 凝りに凝った背中の筋肉が、バキバキと音を立てるようで、市川は思わず顔をしかめた。

 手元にはタブレット端末があり、右手にはタブレット・ペンを握っている。

 ちらりと壁に貼られた計画表に視線をやると、まだスケジュールの余裕があることを確認して、作業机から立ち上がった。

 市川が作画に、動画用紙を使わなくなって久しい。紙に直接、鉛筆で描いていた頃がなつかしい。こうして端末に直接線描するのは、いまだに感覚的になにか間違っているような気がしてならない。しかしこの方が、データを残せるし、回線を使って直接送信した方が、後々の作業の効率がいいことは、判り切っている。


 あの「蒸汽帝国」のドタバタがあって、続編の話があったが、いつの間にか立ち消えになって数年。総監督をつとめた木戸は、アニメ業界から身を引き、イラストレーターの道に進んでいる。

【タップ】社長の新庄は、金銭上のトラブルで(闇金に手を出したという話もある)、アニメ界から消えて、いまは行方不明である。噂では、タイかフィリピンか、あるいは聞いたこともないアジアのどこかの国に身を隠しているらしい。


 コーヒー・メーカーで一杯のコーヒーを注ぐと、一息入れて市川は再び、作業机にもどった。

 ペンをタブレット画面に走らせると、市川の描線が、するすると綺麗な曲線となって残る。最近のソフトの発展はめざましく、自動的にクリーン・アップした線になる。市川の癖もソフト側でのみこんでいるので、作業効率は以前とは段違いだ。

 しばらく市川は作業に熱中していたが、ふと、その手を止め、今までの作業を保存すると、新しい画面を呼び出した。


 いたずら書きを始めた。


 すいすい、とペン先を走らせ、あらたなキャラクターを描き出していく。

 細面の男性の顔が、タブレット画面に現れた。どことなく気弱そうだが、気品がある顔立ちで、どこかの王子のように見える。

 画面を見詰め、市川は少しの間、ぼうぜんとしていた。


 なんでこんなキャラクター、描いてしまったのだろう?

 仕事中に気分を変えるため、全然関係のないキャラを描くことはよくある。

 その時はたいてい、可愛い女の子だとか、ロボットとか、あるいはモンスターなどだが、今回のようなキャラを描くのは初めてだ。

 いったい、こいつは誰だ?

 と、画面のキャラクターがふいに動き出し、その唇がぱかっと開いた。

「市川さん! ぼくです、三村です!」

 市川は仰天した。

 それはそうだろう。

 ふとしたいたずら書きで描いたキャラが、あろうことか勝手に動き出し、市川の名前を呼んだのだ。

 市川は狂おしく、部屋を見回した。

 何が起きている?

 これは誰かのいたずらか?

 と、再び画面のキャラが声を上げた。

「市川さん、大変な事が起きているんです。あなたの助けが必要です! すぐ、こちらへ来て欲しいんです」

 市川は思わず返事をしていた。

「な、な、なにを……俺に、なんの用事があるんだ……?」

 三村と名乗ったキャラはぐっと市川を見詰めると、静かに答えた。

「蒸汽帝国が危機なんです」

「蒸汽帝国? そ、そりゃ、俺が担当したアニメのタイトルだが……、それが何だってんだ?」

「あなたにこっちへ来ていただきたいのです」

「え? どういうこと?」

「ぐずぐずしていられません!」

 画面の三村は叫ぶと、ぐいっと上半身を市川の方へ伸ばした。

「ひええええっ!」

 何と、画面のキャラクターがタブレット画面から飛び出し、市川の首筋を掴んだのだ。

 そのまま市川は首筋を掴まれたまま、強引にタブレット画面に引っ張り込まれた。


 さて、この後どうなるのか?

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