プロローグ 太陽が好き
「上半身は人間の体、下半身は魚の形をする。それを人魚という。ジュゴンという哺乳類の動物と見間違いから始まったんだって!」
説明を参加しているのは大人でもなく、物語を聞かせる子供でもない。ましてや人間ではなかった。聞いているのは目を輝せた元気な小魚だった。
「私が好きな作品アンデルセンの人魚姫が有名ね!私も泣いちゃた...私はハッピーエンドだと思うお話...」
そう人魚と人間が恋をするお話...
「でどんなお話かと言うとね....」
1匹の小魚に内緒話でだれにも聞かれないようにコショコショと話す。
「...面白かった?」
魚はくるりと回転する。
「ふふっよかった♪」
人魚は嬉しそうに笑った。うんよかった。
「そして私も....」
人魚姫は最後まで口にはしなかった。これだけは聞かれたくない。知られちゃったら恥ずかくて目も合わせられない。
「ねぇ♪えーちゃんに分からないけど私のための歌を歌うね♪」
~ プロローグ 太陽が好き ~
海から涼しい風が吹く。もうじき白を連想させる季節がやってくる。
海に沢山やってくる人間達はシーズンを過ぎて皆山を登りバーベキューする季節である。山菜が沢山採れ、紅葉の葉の香りがする秋の季節でもある。
この時期は受験で夜遅くから勉強して忙しい季節でもあり、お別れの季節でもあり、それに喜ぶ楽しい季節でもあった。
しかし!周りには秋を感じさせるものがない。紅葉のいい香りすらしない。山でバーベキューをなんか今していない。そして俺は振られてお別れの季節なんてとっくに過ぎていた。
夏のシーズンが過ぎた太陽にキラキラと反射した海に飛びこんだ。
「イヤッッホォォォオオォオウ!!」
ドボーン!
うわっ冷てえ。振られて狂って飛び込んだわけではない。一人寂しくテンションを上げていた。......ウッ泣きそうになる
そろそろ謝ったほうがいいかもしれない。嫌でも思い出す。昨日の出来事みたいで記憶が鮮明だ。俺は騙され振られた。
そろそろ決着しないと。客観的に見るとストーカー気質を持ち合わせているんだろうな。
「~~~~~~♪」
海の中から女性の歌声が透き通るように耳に入る。
普通は水中の中で声を出すと泡でかき消されて水中に響かない。イルカも鯨も鳴くとき同時に泡を出さない。というより呼吸器官が異なる場所についている。
うっそろそろ息が持たない。砂浜から結構離れた。
「ぷぱぁ...!水中で会話できないのは辛いもんだな」
息を吸いもう一度潜って歌の元へ泳ぐ。ダイビング機器を装着しとけばよかったと後悔する。装備なしに潜るのは限界もある。
「〜~~~♪」
歌の音が徐々に大きくなり聞き取れるようにもなった。
海中に照らされた太陽の光で奥まで見える。光のカーテンが拡大したり消えたりして面白い。しかし肝心の音まではまだ遠い。
今は口を閉じても塩を無理やり飲まされている。ダイビング機器を装着するにも陸なら結構離れている。
「ぱぁ!....仕方ない取りに帰るか」
あいつに頼るのも良くないな。ダイビング装備なくてもいいのだが...あいつに悪いしな
顔を少し赤らめて、海の底を観察する。冷たかった海が温かい。太陽が真上に昇って肌に日焼けするくらいに強く当てているのだとと言い訳をする。
「~~~ ~ 」
歌の音が薄れやがて自分が泳いでいる音しか聞こえなくなった。太陽が真上にいるのに水温が冷たくなったような気がする。
冷たいし急いで戻るか。まだ先は遠い..はぁ
珊瑚礁を眺めていると何かにビビって巣に帰るものや、何故か魚が俺と競走するかのように追い越したものまでいる。なんでや俺と競走したいんか。そうか、よしやったろ!1番とってやる。
うぉぉぉお!!全速力だぁぁ!
しかし魚らは俺を追い越していく。くそっダイビング装置さえあれば..
魚達は俺を気にすらしていないようでむしろ何かに追われているようだった。
後ろに鮫か?だとしたらやばい。競走どころじゃない!やべえ喰われる!怖くて振り向けねぇ。
まだ砂浜までは遠い。くそっまだか!。音を立てず全速力で泳ぐ。
焦りすぎて気管に塩水がはいってしまった。ゴホッと海中に咳をついてしまいより気管の中に..
バタバタともがいてしまった。だめだ喰われる!身体が空気を求めている。チラッと大きな尾が見えたんだけどまじでやべぇ!
水が大量に入ってしまった。体内にある泡が抜ける。だめだ...こんなところで
ああまただ暗い海だ。深い海にいて冷たく、苦しい。苦しんだり不安になるとこんな現象が起こる。
「ーー!!ーー!」
海中から声が聞こえてくる。
薄らと目を開けると銀の髪がちらりと見えた。太陽の逆光で顔は見えなかった。
一気に海水が冷たくなった。暗い海に沈められていく。上を見ても光がないどこも真っ黒だ。
冷たい...息が....
永遠に底がないように更に沈む。今回は泳げない。体内に海水が入ってしまった。
暗い...手を伸ばした先も暗い。
一抹の微かな光が差し込んだ。
冷たく暗い海中からぬるい、いや温かい感触がする。
体、手、そして唇も温かい何かに触れた。
誰かが俺の体にぎゅっと抱きつけられて苦しいが何より安堵する。上昇して海面を目指しているようだ。何故か怖くはなかった。ああもしかして...
すみません。いやありがとう...
「ゴボボ...」(人魚姫さん...)
泡になって伝えることができなかった。
-----
「ゴホッゴホッ...」
乾いた砂のベッドでむせて目を覚ました。
「ハァハァここは?あれ?死んだんじゃ....」
うっ明るい。オレンジ色の光でも明るかった。周りがまだ見えない。夕日に目が当たらないように手をかざす。
「ん?」
突然ガバッと逃がさないように抱きつけられる。柔らかくて、布越しに温かい感触がする。
「ふぇ!?どうしたの?.....人魚姫様?」
銀髪の美少女は俺の肩に顔をうずめて抱きついていた。俺の足の上に金魚色の鰭が乗っていた。
「ちょっ!胸当たってますよ!もう大丈夫ですから!」
グィーと引き離そうとしても離れない。さらに強く抱きしめられる。今日巫女服は着ていないから外からみたら絵面が少し危ないいやどちらも危ないか...
「もう大丈夫ですから...助けてくれてありがとう....海月..」
暗い海から助けてくれたんだった。ここならお礼が言える。
人魚姫は泣いていた。声を出さないように。誰にも聞かれないように必死に声を我慢していた。
「もう少しこうしていましょうか....」
片手で優しく絹の髪を撫で片手で体重を支えて夕日を眺めていた。
地平線の先にオレンジ色の太陽が半分海に沈み、半分空気に晒していた。
昔は太陽は海に沈んでいるのかと思った。海が沸騰しちゃうんじゃないかとお魚を心配したこともあった。
ザァーと音を出して二人は波に打ちつけられていた。晩秋を感じさせる季節風が吹いて気持ちいい。
太陽が全て海に沈むと人魚姫が好きな光の砂粒が現れる。人魚姫は太陽が苦手である。
「このままでいいですから星空を見ましょう」
独り言のように言った。人魚姫はまだうずめていて動かない。
人魚姫は抱きつきながら心で囁いた。
《私ね....大陽が好き》
夕日に伸びる二人が映る長い暗い影が引き剥がされないよう更に強く抱き締めた。