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テスラ

町の娘は自分の家に越前を案内してくれた。木製の家具が並び、やや薄暗い部屋の中を蝋燭の炎が暖かく照らしている。

「テスラ」濃い髭を生やした男が若い娘をそう呼んだ。

「おはようお父さん。これ、今日の分だよ」若い娘は持っていた肉塊をドサッとテーブルの上に置いた。

「そいつは誰だ?変な格好の」娘の父が越前を顎で指す。

「越前進だ、ダムドから来た」

「ダムドから?…」娘の父は娘をチラと見てから何かの作業を再開した。


そういえば、越前は異世界の人とも当たり前のように日本語で会話出来ている。運のいいことだ。

テスラと越前は自然とテーブルの椅子に座った


「ブフフガワハハハハハハ!!!」


突然娘の父が笑い出した。越前進はビビって立ち上がった。

「変な格好の男が来たと思ったら、ダムドからだと?あの呪われた地から?すまないなエチゼン、これはおかしい…ワハハ…」

異世界にもツボるという現象があることに越前は強烈な安心感を覚えて、笑った

「ハッハッハッハ、そうだよ、俺は何故だかダムドから来た…理由は俺にもわからん…」

テスラがニコニコと微笑んで、越前と娘の父の顔を交互に見た。

「まぁ、これを食べましょうよ」


町の娘、テスラは持ってきた肉塊を金属製の大きなボールのようなものに入れて、その中に水を溜め、笛?を器用に操って火加減を調整した。


「テスラ、肉を料理しているのか?直接鉄板とか、フライパンの上で焼かないのか?」

「鉄板、フライパン、聞いたことないね。皆肉はこうやって調理してるじゃないか。低音調理って言って、こうすると肉がすごい柔らかくなるんだよ」

低音調理。小林銅蟲が漫画で書いていた肉の調理方法。60℃くらいの温度で肉を長時間温めると中まで熱が通って肉が柔らかく美味くなる。

越前は低音調理には興味があったが低音調理用の機械が買えずに結局やったことはなかった。


「低音調理…」

「まあ時間はかかるけどね、それまで話でもしましょうよ。ねぇ、あんたダムドにいて本当に平気なの?」

「ああ、まあ、身体は特に異常は無い…」

「カノン様も知らないのにかい?」テスラが皮肉っぽく笑った。少し目つきのキツいテスラの顔によく似合う表情だ。そういえばこの娘は割りと整った顔立ちをしている。

「そうなんだ、カノンについて知りたい、それと、ダムドに何があったのかも…」

「ダムドはな、ザハルカに焼かれた村だ、呪われた村だよ、エチゾン」娘の父が言った。

「エチゼンだ」

「すまないな、エチ…エチゼン。ダムドは秘密の3つの数字で焼かれたのさ」

「秘密の数字って何だ」

「それはウチらにも分からないのよ」

「焼かれたっていうのは、炎でか?それとも魔法か何か…」

「詳しくは分からん。焼かれた光景を見たわけではないからな。とにかく3つの秘密の数字でだ、ダムド出身者はそれしか言わない」


越前はなんとなく、666という数字が紫色の炎を放ち、村を焼く光景を思い浮かべた。それは回想ではなく、純粋な想像だった。


「カノンというのは」

「これのことさ」

テスラが部屋の奥から袋のようなものを持ってきた。


それは抱きまくらだった。

あの、オタクがよく持っている、二次元美少女のイラストが印刷された、あの抱きまくらカバーの被さった、抱きまくらだ。


書かれているキャラクターは、kanonの名雪。


「名雪じゃねえか!」

「違うよ、これがカノン様さ、この町『テスリス』を守護する天使様だよ」

「テスラはな、この町で産まれた。だからテスラと名付けた」

「こういうのもあるよ」

テスラが今度はタペストリーを持ってきた。やはり名雪と、kanonの別のキャラクターが書かれている。


「やっぱり名雪じゃねえか、あとこのキャラは知らないな…」

「ナユキ…それがカノン様の本当の名前なのかい?」

「いや、わからん…でも、多分そうだ…」

テスラとテスラの父は互いに顔を見合わせた。

「ひょっとしてアンタ、カノン様がどう産まれたのかを知っているのか…!?」

「kanonやったことないけどkanonっていう作品自体は知ってる、この女の子は名雪っていって、kanonっていうエロい?ゲームのヒロインなんだ、でもkanonにはこの名雪ってキャラだけじゃなくて、ほら、いるだろ?別の美少女も出てくるんだよ」


「…」

テスラとテスラの父は驚きの表情を浮かべて、黙ってしまった。

「待て、今スマホでググる」

越前はその時初めて、ポケットの中にスマホがあることに気が付いた。


バッテリーは60%だったが、スマホ単体は何も問題なく機能していた。時刻が表示され、ロック画面。解除し、グーグルクロームを立ち上げる。


が…駄目…!

当然この世界にはネット環境どころか電波さえ無い。ネットに接続することは出来なかった。


「ああ、くそっ」

「…それは何だ?」

「これはスマホっていって、とにかく便利なんだ、俺のいた世界では必需品だったんだよ、これが無きゃ何も出来ない…」


越前は生前、異世界にスマホを持ち込んで活躍する異世界転生モノがあることを知っていた。アニメもやっていたがちゃんと見たことは無かった。だから少し期待していたが、そう上手くはいかない。


「…まぁ、俺の知っていることはこんな所だ、お前たちの間ではカノン様ってのはどういう扱いをされてるのか教えてくれ」

テスラがハッと我に返り、話し始めた。

「カノン様ってのはね、このテスリスを守ってくれているんだよ、ザハルカの目からね」

「守り神みたいに奉っているってことか?」

「守り神?そうだね、守ってくれているのさ」

「その、ザハルカっていうのは?」

「さっきも言ったが、ザハルカはダムドを焼き尽くした何かだよ、俺達もザハルカを見たわけじゃないから詳しくは知らん」

テスラの父は自然なモーションで煙草(銘柄は多分マルボロだ)を取り出して、ライターで火をつけて吸い始めた。


どうもこの世界は中途半端に現代の地球の文化が取り入れられている。もしかして、俺以外にも異世界転生者が何人もいて、少しずつ元の世界の文明を持ち込んだ結果、所々に元の世界の文化が根付いたのかもしれない、と越前は思った。


その後は他愛も無いことを話した。

テスラが生まれる前にテスラの父親はこのテスリスにやってきて、結婚した。テスラが産まれたがテスラの母親は突然居なくなってしまった。

テスラの見た目は20歳くらいだから、20年くらい前のことだ。

テスラの父親は服の職人で、テスラは家事や父の手伝い。休みの日には教会に行ってカノン様に祈りを捧げて、町で売られているカノン様の印刷された物品を買い集めている。

カノン様の印刷されたグッズがどう供給されているかは不明だが、テスリスにはカノン様のグッズが溢れているらしい。


暫くはテスラの家に泊めてもらえることになった。

越前はこれから何をすればいいのかを頭の中で整理しながら、よく眠った。

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