氷の国
越前、姫姫姫、アレスの三人は、徒歩での移動を強いられた。襲撃してきた寄生虫の男は線路を紙のようにくしゃくしゃに潰した。もう汽車に乗って移動することはできない。
だが汽車は既に国境を超えていた。
北国、フロストへようこそ。
暫く北に向かって歩いていくと、周囲に冷気が漂い始めた。
「姫姫姫、なんか寒くなってきたぞ。防寒具を買おう」
「そうね。薄着じゃ耐えられない」
「しかし国境超えた瞬間に不自然なくらい一気に寒くなったな」
「フロストの守護龍が冷気を司っているのかも」
「守護龍って何でもアリなんだな…」
越前達は近くの服屋に入る。暖かそうな服が並んでいる。
「いらっしゃい」
「おっさん、コートを二着欲しいんだけど…」
「まいど。そこから好きなのを取ってくれ」
越前は自分に合いそうなサイズを探して試着する。
姫姫姫もアレスに服を選んでもらっている。
「おっさん、これにするよ、支払いは…」
「あぁ、ここに頼む」
服屋の男は越前に手のひらを差し出した。そこには緑に光る魔法陣と、『THE PAY』という文字が浮かんでいる。
「ザ・ペイ…?なんだこれ」
「どうしたの越前」やや大きいコートを着た姫姫姫が近付いてくる。
「いや、姫姫姫。ザ・ペイって知ってるか?なんだこれ」
「………越前、一旦外に出よう」姫姫姫は羽織っていたコートを脱いで棚に戻し、越前のコートも脱がせて店に置いた。
「???」
また薄着で店を出る。越前は寒さにキレそうになった。
「越前、ザ・ペイっていうのは、多分フロスト独自の支払いシステムよ」
「電子マネーみたいなものか?よく分からん」
「多分ね。ザ・ペイで支払いを行ったら、私達がフロストに居るってことがフロストに知られることになる」
「待て待て、別にお前の国はフロストと戦争なんかしてないんだろ?別に良いじゃないかバレたって。ザ・ペイを使わなくたってバレる時はバレるって!」
越前はとにかく今すぐコートが欲しかった。
「駄目よ、何があるか分からないんだから。コートは無し。我慢するよ越前」
「マジかよ…」越前は膝から崩れ落ちた。
フロストの中心地に向かうに連れて、温度は下がり続ける。
「姫姫姫、やっぱり無理だろ、凍え死ぬぞ俺」
「死んだらまた白魔法で生き返す」
「………お前はいいよな、アレスにひっ付いてれば暖が取れるんだから」姫姫姫はメイド姿のアレスに抱きつきながら移動している。
「守護龍は温かいのよ。巨夜を呼んだら?もうすぐ夜でしょ」
「そっか、巨夜ー!!」
星空から星の光が消え、一瞬洞窟のように真っ暗になる。
越前の前に巨夜が現れる。
「なんだ」
「巨夜、あのさ…」
越前は巨夜を前にしたら、突然緊張してきた。
巨夜の姿、肉体をこんなにゆっくり見たことが無かった。
背が高く、胸が大きく、大人の女性のしなやかさがある。
「あ、あ…」
越前は生前、女性への耐性をつけたいという動機で、妹に土下座して妹を抱き締めさせてもらった事がある。
その時の妹の、冷めた目を思い出した。
巨夜の目も冷たい。これはいつものことだ。
「やっぱ駄目だ!俺にはできない」
「越前!寒いんでしょ!恥を捨てろ!」姫姫姫が後ろから叫ぶ。
越前が地面にうずくまり、震える。
巨夜は、何かを察して、越前の手を取る。
「あ…巨夜…」
越前の手を握り、巨夜は静かに目を閉じる。
「私がお前を守ってやる…私は、お前の守護龍だからな」
穏やかな、聖母のような笑顔。
越前は、巨夜のその表情を初めて見た。
夜が明けるまで、巨夜は越前の手を握り続けた。
氷の国、フロスト。
その中央にそびえる巨大な塔で、本が孤独に脈を打つ。
姫姫姫達を追い抜いて待ち伏せする男は、フロストの塔で新たなnayukiを発見する。




