エルム
「越前、こっちよ」幼女が雪道を走りながら言う。
「ふー寒…」白い息を吐きながら歩いて幼女を追いかける越前。
「…」無言でついてくるメイド。
「…この世界にも鉄道があんのか…」
「グランドコロスとフロストの間だけね。グランドコロスとその周辺だけ文明のレベルを若干上げてあるの」
蒸気機関車よりも雑なデザインの鉄の塊。それもやけにでかい。
「移動なんて、転移魔法で一瞬で行けるんじゃないか?その、呪術師の異世界転生者の所に…」
「実はその転生者とは会ったことないのよね」
「行ったことある場所にしか行けないパターンの魔法か…」
機関車に乗り込み、席に座る。
「この世界にも冬があるんだな」
「そうね」
「…」
「アレスをメイド姿のままにしておくのは何か意味があるのか?」
「あんまり不審がられないかなと思って」
「騎士でもメイドでも変わらない気がするけどな…」
同時刻。ある場所。窓から差し込む日の光が長いテーブルに落ちて、その奥に、椅子に深々と腰をかけている黒髪長髪の男。
男は錆びて変色した短剣をテーブルに投げる。短剣は黒猫の尻尾に変わり、黒猫に変わり、テーブルの上でゆらゆらと尻尾を揺らす。
「………」
男は黙っている。
長テーブルの横の影の中から、六人の男女が現れる。
「………」
男女も黙っている。
長身の眼鏡の男。少女。アンドロイド。料理人。黒いマントを着る男。看護婦。
長髪の男が手を差し出すと、男女はカードに変わって長髪の男の手札になる。
「エルム」猫が言う。
「………」
「お前は強すぎる。今国を捻り潰そうと思えばそれは容易く行われるだろう」
「………」エルムと呼ばれた長髪の男は、ゆっくり顔を上げ、黒目から眼光を放つ。
「国を滅ぼさない理由があるのだな?」
「………あぁ………」
「あの姫か」
「………」
エルムは椅子から立ち上がると、椅子に触れた。椅子は水晶に変わり、割れ、中から折りたたまれたパイプ椅子が出現した。
「………」
「妹と呼んでね〜お兄ちゃん〜」
「!」
エルムは唐突に歌い出した。
「お兄ちゃんと〜私の仲でしょ〜」
「…」
「前世から〜ずっと〜会う約束してたの〜」
エルムは黒い猫から無数の触手を伸ばし、部屋中に貼り巡らせた。職種は部屋の隅々まで張り付き、部屋を水晶化していく。
「お兄ちゃん!どこ行くの!そのアコは!魔女なのよ!」
水晶化が終わり、部屋が本当の姿に還っていく。
「お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない〜」
部屋には換気扇、ブラウン管のテレビ、赤いカウンター席。カウンターには割り箸や胡椒やティッシュが置かれ、カウンターの奥にはラーメン屋の店主もいる。
部屋の壁には醤油ラーメン、塩ラーメン、味噌ラーメンと、手書きのメニューが貼り付けてある。
「………」元に戻った黒猫がエルムを見る。
「………」エルムは再び黙った。
そして呟いた。
「………妹を、取り戻す………」




