再会
ヘルメザに着いた越前と馬。
高い城壁の巨大な鋼鉄の門。それは固く閉ざされ、声さえも向こう側に届きそうにない。
鳥だけが城壁を越えてヘルメザへと入っていく。
テスラから聞いた話と違う、もっと部外者に寛容な街だと聞いていた。
「馬、ここ本当にヘルメザか?なんか城っぽいんだけど…」
「私の脳内地図は人間の百倍は正確だ。ここがヘルメザで間違いない…城壁があったかどうかは覚えていないが」
「どうやって入りゃいいんだ」
ヘルメザを取り囲む城壁をぐるりと回りながら、開いている門を探す。
城壁は無限に続いていた。
「ん」馬が何かに気付いた。遠くに黒い雨雲が見え始めた。
「人間、もうすぐ雨が降る」
「雨くらいどうってことは無いけど、出来れば街に入りたいな…」
五つ目の門の前に立ち、越前は門を叩き始めた。
「誰かいるか?声が聞こえるか?この門を開けてくれないか」
鉄の門は、その門の中も鉄なのではないかというほど、音も響かず、ただ冷たく、微動だにしない。
「開けてくれ、エチゼンという者だ」
その時。
鉄の門の中心が『揺れた』。
越前は目の錯覚だと思った。しかし、鉄の門の中心の揺れは門全体に拡散していく。
門は見えないほど小さな黒い粒子になって消え、門の中心には大きな丸い穴が開いた。
その向こう側にはヘルメザの街の光景と、
全身黒い衣服に身を包んだ、2mくらいの女が立っていた。
「お前、俺の守護龍だな?」
越前は、女の目を見ただけではっきりと分かった。
「そう。我が名は、巨夜。越前、お前を助けに来た」
巨夜と名乗る美しい女は、異常に長いレイピアを越前に向けて、名乗った。
人の形をしていながら、明らかに雰囲気がただの人間とは違う巨夜に、馬と越前は少し戸惑いながらついていった。
「助けてもらって悪いけど、お前があの守護龍で間違い無いんだよな、お前何なんだ?」
「さっきも言っただろう、我は巨夜だ」
「巨夜、とは何だ、人間と龍と、何が違うのだ」馬が口を挟んだ。
「…」巨夜は馬の質問には答えない。
「そうだ、我はお前が守護龍と呼ぶ、あの巨夜だ」
「巨夜、とは、」
「この日を、待ち望んでいたぞ、越前」巨夜が突然言った。
「…」
「馬、どうやらこいつは俺としか話をしないらしい」
「…」
「俺にもよくわからない、気にするなよ」
「ヒヒン…ブルルル」
「馬…?」
「…」
「どうした、アグロ」
ヒワァァァァアアアアアアア
突然、馬がいなないた。
ブルンブルンと首を振るい、越前を叩き落とし、そのままあの門の穴からヘルメザを出ていってしまった。パカラ、パカラ、パカラ、パカラ、ヒヒーン。
「痛え…なんだ、どうしたんだ?」
「獣とは話すな、越前」
巨夜が振り返り、睨んだ。
「あの馬は、アグロはどうしちゃったんだよ」
「我が解呪した」
「解呪…解呪って」
巨夜が越前を抱き締めた。
「我だけを信じろ、我がお前を守ってやる」
越前の頭の中で、この世界に来てから今までの記憶が突風のように吹き、元の世界のコンビニバイトの記憶や、それよりずっと前、28年間の様々な記憶が現れては消え、越前の頭は真っ白になってしまった。
越前は静かに泣き始めた。
「分かった…信じる…お前だけを信じる…」
気が付くと越前は、ヘルメザの路地裏で一人、鉄のガラクタを抱きかかえていた。鉄は冷たく、越前は素早くガラクタを手放した。
ガラクタはバラバラと崩れて形を失い、何でもないゴミになった。
越前は顔を拭うと、越前の衣服には涙が染み込んでいた。
そうだ、俺の名前は越前進だ、何かを知るためにヘルメザに来た。
越前は人生で初めて、冷静になれた気がした。




