第78話 想定外
こうしてアカネ達は特に危ない場面もなく、聖域に入るための扉、その近くまで来ていた。
「……やっぱり、門番が多いわね」
アカネは廊下の角から様子を見る。
いかにもな雰囲気を自然と漂わせる翡翠の装飾が入った巨大な扉。その前には、誰も通さないように兵士が十人、完全に武装した状態で見張っていた。
「さすがは計画が進んでいるだけのことはある。絶対に通さないという意志が伝わってくるわ」
「ですが、あそこをどうにか突破できれば、ボク達の勝ちです」
「そうね……問題はどうやって突破するかだけど【式神招来・天狐】」
アカネは静かに天狐、コンを呼び出す。
『どうかなさいましたか、お母様』
「ちょっと警備の者に手間取ってね。申し訳ないけど、コンには陽動を頼めるかしら?」
『かしこまりました。とにかく派手に暴れればよろしいですか?』
「ええ、それで大丈夫よ。適当に暴れたら、一度異界に戻って次が来るまで待機しておいて。……何か、嫌な予感がするのよ」
『……ふむ、お母様の予感は外れませんからね。わかりました。戻り次第、皆には警戒態勢を命じておきます』
「悪いわね」
『いえ、お母様のお役に立てることが何よりの幸せでございます故、どうかお気になさらず。それと、久しぶりに暴れたい気分でしたので。……ふふっ、私の弟子がいい戦いを見せてくれたおかげです』
その言葉に、リーフィアは恥ずかしそうに顔を赤くして下を向く。そんな可愛らしい姿を、コンとアカネは微笑んで見つめる。
『――っと、時間が惜しいですね。では、行ってまいります』
「行ってらっしゃい。よろしく頼むわね」
コンは狐の姿で器用にお辞儀してから警備の兵士に向かって走る。
『最初から本気で行かせていただきます――【狐火・惨禍】』
コンの得意技である【狐火】、猛々しい炎の渦が警備兵の半数を焼き殺し、その熱気はアカネ達の元まで届いた。
『まだまだ行きます【狐火・衝刃】』
前脚を振り下ろすと、そこから五本の刃が飛び出して近くにいた兵士を切り裂く。
「クソッ! 何なのだこいつは――ガァアア!!」
兵士の一人が焦った声を出すが、次の瞬間にはコンの作り出す炎の餌食となって焼け死んだ。一瞬にして門番を全滅させたコンだったが、アカネはまだ立ち上がろうとしない。
「いたぞ! 侵入者……侵入狐だ!」
「魔物ごときを侵入させるなど、外の者は何をやっているんだ!?」
騒ぎを聞きつけた巡回兵が助けに駆けつけ、あっという間にコンを取り囲む。今までどこに隠れていたのか、その数は二十を超えている。
『私は魔物ではないのですが……まあ、今回は許してあげましょう。……しかし、さすがにこの数は厳しいですね。なので、戦略的撤退を致します【狐火・鳳仙花】』
コンを中心に爆発が起こり、兵士が怯んだ隙に大きく跳躍して頭上を通り過ぎる。そして、優雅に逃亡を図った。
『ふふっ、人間というのは脚が遅いですね』
「クソッ!」
「追え! 絶対に逃がすな!!」
そしてあっという間に扉の前は誰もいなくなった。もう大丈夫だろうとアカネは立ち上がり、他も後を追う。
「さすがは上位妖。凄まじい強さですね」
「あら? コンの力はあんなものじゃないわよ。本気を出せば、あの五倍くらいの威力は出せるわ。ここを吹き飛ばさないように、という配慮なのでしょうね」
「うわぁ……リフィの師匠は規格外ね」
シルフィードが先程の【狐火】の技の数々を思い出し、改めて妖の脅威を知る。
「シルフィード、君の師匠である翁の方が規格外だよ。あの人なら、コンの放った斬撃くらい、適当に腕を振っただけで出せる」
「…………ま、上位妖は常識で考えちゃダメってことよ。ほら、お話はこれで終わりよ。皆、気を引き締めてちょうだい」
アカネは中にいる者の反応を探るが、幾重にも認識阻害の魔法が張られているのか、正確な数がわからなかった。
そのため、アカネは何にでも対応できるよう、慎重に扉を開ける。
そして、想定外の光景に目を見開く。
その中に待っていたのは――――
「おやおや、遅い到着ですね」
丸い眼鏡をかけた細い男性と、教皇らしき五十代の老人。
そして、純白の鎧を纏った十二の騎士達だった。
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夕飯食べすぎて気持ち悪くなっている私です




