第77話 聖王宮侵入
アカネ達は地下通路を歩いていた。
目的はもちろん聖王宮への侵入。そして聖域の破壊、神降ろしの中断。
アカネが呼び出した上級妖『天邪鬼』によって、全員の気配は空気同様に消されている。
少しは会話をしても問題ないのだが、作戦任務というのが初めてだったシルフィードとリーフィアは、緊張から一言も口を開かなかった。
コノハも多少の緊張はしているが、言葉を話せなくなるほどではなく、彼女は常に周囲の気配に気を配っているため、ずっと無口になっていた。
アカネはというと、誰も話し相手になってくれないため、めちゃくちゃ暇そうに天邪鬼の後をついていく。
いくらアカネであろうと狐人族の索敵能力には劣る。なので、コノハが警戒してくれているなら、アカネはやることが全くないのだ。
「アカネ様、角から四人、こちらに歩いてきます」
「……おそらく見回りの兵でしょうね。天邪鬼、幻術で壁を作ってくれるかしら?」
「わかった!」
通路は横幅が狭い。アカネ達は気配を消しているとしても、実体まで消すことはできない。
そのため、狭い通路ですれ違いになって接触するより、こうして壁を作って別の進路に行かせるほうが安全なのだ。
目の前に本物の壁のようなものが出来上がる。触れられると解除されてしまう隠し通路のようなものだが、もし触れられてしまった場合は、瞬時に無力化すれば問題ない。
ここの通路は些細な音でも響く。だから接触はなるべく避けるし、見回りの兵が戻ってこないというのも怪しまれる。
「なんだぁ? こんなところに壁なんてあったか?」
見回り兵の一人がそう言う。
「ここは迷路だからな。どこに通路があるかなんて忘れちまったよ」
「全くだ。……おい? というと帰りはどうするんだ? 俺達は帰れるのか?」
「ばっかお前、来た道くらい覚えてるに決まってるだろうが」
「ははっ、そうじゃなきゃ、俺達の未来はないだろうよ」
兵達は笑いながら元来た道に戻っていく。
ガシャガシャという鎧の擦れる音が遠ざかっていくのが、アカネ達にも聞こえた。
「…………もういいわね」
アカネは幻の壁に触れる。それは歪み、やがて存在があやふやになり、霧となって消えた。
「アカネ様、後どれくらいで目的地に着くのでしょうか?」
「……ふむ…………」
アカネはその場で女郎蜘蛛達からもらった地図を広げる。
「ここをこうして、こっちに曲がれば……その後ここを左に……十五分ってところかしら?」
アカネ達が地下通路に侵入してから、すでに二十分の時間が経っている。
それだけこの通路は入り組んでおり、更に安全を最優先にしてゆっくりと歩いているので、それなりの時間がかかってしまう。
「今頃、上では朝のお祈りでもしてるんじゃないかしら?」
ちょうどアカネ達は、日々沢山の教徒共がお祈りをする大聖堂の真下にいた。ここで最大火力を上にぶちかませば面白いことになるが、今はそれをやっている場合じゃない。
警備が一番厳しくなるのが、人が多く集まるお昼時。その前にケリをつけなければならない。
「このまま進むわよ……コノハは変わりなく周囲の警戒を、シルフィとリフィちゃんは、はぐれないようにちゃんとついてきてね」
「ハッ!」
「わかったわ」
「了解、です」
引き続きゆっくりと通路を進み、やがて上へと繋がる階段がアカネ達の前に現れる。
「コノハ」
「……扉の向こう側には誰もいません。巡回兵もいないようです」
「……ありがと」
アカネが先行して扉を少しだけ開ける。そして、その隙間から何もいないのを確認して、手招きで先に皆を行かせる。
ひとりでに扉が開かれると、誰もがそこを警戒する。だからこそ、こういう時は細心の注意を払って行動をする。
聖域がある二階に昇り、アカネ達は何の問題もなく無駄に広い廊下を進む。
「……おかしいわね」
「何がおかしいの?」
立ち止まったアカネに、シルフィードが問いかける。
「……兵の数が妙に少ないのよ」
聖王宮は広い。そのため、普通は巡回兵が常に警戒しているはずなのだが、アカネ達がここに来るまでに出会った巡回兵達は、僅か三組のみだった。
「たまたま警戒する場所が違かっただけなのでは?」
「……リフィちゃんの意見も少しは関係しているのかもしれない。けれど、それにしても少なすぎる気がしてね。……コノハ、あなたの警戒範囲内に、兵はどのくらいいる?」
「固まって動いているのが六組。確かに、アカネ様の言う通り少ない気がしますが……」
「多分だけど、今って大聖堂にお祈りに来ている人が多いんでしょう? その警備に兵を出しているんじゃないの?」
「…………それも、そうかもしれないわね」
シルフィードがもっともなことを言い、アカネもその考えに納得する。
お祈りに来る教徒の数は千を超える。その中にアカネ達のような輩が混じっている可能性もあるので、それの警備にはより多くの兵が必要になる。
だから今この時間は巡回兵の数が少ないのかもしれない。
「とにかく、ここまで来て後戻りはできない。さっさと聖域に行って大暴れするわよ」
「『はいっ……』」
この時のことをシルフィードは後悔する。
自分が安易な考えを言わなければ、もっと警戒しながら進めたのに。
もっと警戒していれば、あのようなことにはならなかったのに、と。
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妖鬼は変わらずに日曜更新の予定です。




