表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/84

第77話 聖王宮侵入

 アカネ達は地下通路を歩いていた。

 目的はもちろん聖王宮への侵入。そして聖域の破壊、神降ろしの中断。


 アカネが呼び出した上級妖『天邪鬼』によって、全員の気配は空気同様に消されている。

 少しは会話をしても問題ないのだが、作戦任務というのが初めてだったシルフィードとリーフィアは、緊張から一言も口を開かなかった。


 コノハも多少の緊張はしているが、言葉を話せなくなるほどではなく、彼女は常に周囲の気配に気を配っているため、ずっと無口になっていた。


 アカネはというと、誰も話し相手になってくれないため、めちゃくちゃ暇そうに天邪鬼の後をついていく。


 いくらアカネであろうと狐人族(コノハ)の索敵能力には劣る。なので、コノハが警戒してくれているなら、アカネはやることが全くないのだ。


「アカネ様、角から四人、こちらに歩いてきます」


「……おそらく見回りの兵でしょうね。天邪鬼、幻術で壁を作ってくれるかしら?」


「わかった!」


 通路は横幅が狭い。アカネ達は気配を消しているとしても、実体まで消すことはできない。

 そのため、狭い通路ですれ違いになって接触するより、こうして壁を作って別の進路に行かせるほうが安全なのだ。


 目の前に本物の壁のようなものが出来上がる。触れられると解除されてしまう隠し通路のようなものだが、もし触れられてしまった場合は、瞬時に無力化すれば問題ない。


 ここの通路は些細な音でも響く。だから接触はなるべく避けるし、見回りの兵が戻ってこないというのも怪しまれる。


「なんだぁ? こんなところに壁なんてあったか?」


 見回り兵の一人がそう言う。


「ここは迷路だからな。どこに通路があるかなんて忘れちまったよ」


「全くだ。……おい? というと帰りはどうするんだ? 俺達は帰れるのか?」


「ばっかお前、来た道くらい覚えてるに決まってるだろうが」


「ははっ、そうじゃなきゃ、俺達の未来はないだろうよ」


 兵達は笑いながら元来た道に戻っていく。

 ガシャガシャという鎧の擦れる音が遠ざかっていくのが、アカネ達にも聞こえた。


「…………もういいわね」


 アカネは幻の壁に触れる。それは歪み、やがて存在があやふやになり、霧となって消えた。


「アカネ様、後どれくらいで目的地に着くのでしょうか?」


「……ふむ…………」


 アカネはその場で女郎蜘蛛達からもらった地図を広げる。


「ここをこうして、こっちに曲がれば……その後ここを左に……十五分ってところかしら?」


 アカネ達が地下通路に侵入してから、すでに二十分の時間が経っている。

 それだけこの通路は入り組んでおり、更に安全を最優先にしてゆっくりと歩いているので、それなりの時間がかかってしまう。


「今頃、上では朝のお祈りでもしてるんじゃないかしら?」


 ちょうどアカネ達は、日々沢山の教徒共がお祈りをする大聖堂の真下にいた。ここで最大火力を上にぶちかませば面白いことになるが、今はそれをやっている場合じゃない。


 警備が一番厳しくなるのが、人が多く集まるお昼時。その前にケリをつけなければならない。


「このまま進むわよ……コノハは変わりなく周囲の警戒を、シルフィとリフィちゃんは、はぐれないようにちゃんとついてきてね」


「ハッ!」


「わかったわ」


「了解、です」


 引き続きゆっくりと通路を進み、やがて上へと繋がる階段がアカネ達の前に現れる。


「コノハ」


「……扉の向こう側には誰もいません。巡回兵もいないようです」


「……ありがと」


 アカネが先行して扉を少しだけ開ける。そして、その隙間から何もいないのを確認して、手招きで先に皆を行かせる。


 ひとりでに扉が開かれると、誰もがそこを警戒する。だからこそ、こういう時は細心の注意を払って行動をする。


 聖域がある二階に昇り、アカネ達は何の問題もなく無駄に広い廊下を進む。


「……おかしいわね」


「何がおかしいの?」


 立ち止まったアカネに、シルフィードが問いかける。


「……兵の数が妙に少ないのよ」


 聖王宮は広い。そのため、普通は巡回兵が常に警戒しているはずなのだが、アカネ達がここに来るまでに出会った巡回兵達は、僅か三組のみだった。


「たまたま警戒する場所が違かっただけなのでは?」


「……リフィちゃんの意見も少しは関係しているのかもしれない。けれど、それにしても少なすぎる気がしてね。……コノハ、あなたの警戒範囲内に、兵はどのくらいいる?」


「固まって動いているのが六組。確かに、アカネ様の言う通り少ない気がしますが……」


「多分だけど、今って大聖堂にお祈りに来ている人が多いんでしょう? その警備に兵を出しているんじゃないの?」


「…………それも、そうかもしれないわね」


 シルフィードがもっともなことを言い、アカネもその考えに納得する。

 お祈りに来る教徒の数は千を超える。その中にアカネ達のような輩が混じっている可能性もあるので、それの警備にはより多くの兵が必要になる。

 だから今この時間は巡回兵の数が少ないのかもしれない。


「とにかく、ここまで来て後戻りはできない。さっさと聖域に行って大暴れするわよ」


「『はいっ……』」




 この時のことをシルフィードは後悔する。


 自分が安易な考えを言わなければ、もっと警戒しながら進めたのに。

 もっと警戒していれば、あのようなことにはならなかったのに、と。

いつもありがとうございます

面白いと思っていただけたら、評価や感想の方、よろしくお願いします


急な連絡ですが、別に公開している作品『少女は二度目の舞台で復讐を誓う』の更新日が変わります。

理由と詳しい更新日の日程は活動報告の方に記載するので、そちらをご覧ください。


妖鬼は変わらずに日曜更新の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ