第75話 認められた姉妹
妖の住む異界、そこに一つだけ存在する妖の集落。
中心に建つ木造の家の中には、重々しいオーラを纏ったエルフが二人、体育座りで壁に向かって座っていた。
「ほら、いつまで落ち込んでいるの二人共」
「「ヒャゥ!?」」
そんなエルフの姉妹、シルフィードとリーフィアの首筋に、キンキンに冷えた甘い固形物『アイス』をピタリと当てられた。
奇妙な悲鳴を上げた二人は、鋭い視線で後ろに振り向く。
「な、何をするのよ、アカネ!」
「二人がいつまでもそうしているからよ。もっとシャキッとしなさい」
「……シャキッとできる気分じゃないんです。完敗して元気でいられるほうが凄いです」
二人はアカネとの戦いに負けた。
それが心にズシリと重くのしかかってきていた。
「完敗じゃないわよ。二人は私をもう一歩のところまで追い詰めたじゃないの。あれは誇っていいと思うわよ?」
そんな慰めの言葉に、シルフィードは首を振る。
「妖の力を使わない条件下で負けたの。それでギリギリの戦いをしても、気持ちは嬉しくないわ」
「今回は私達の技を初お披露目でもありました。だからこそ不意をつくこともできました。けれど……次に戦った場合、そうはいきません」
「確かに、私は二人の切り札を知っているから、対策を練って戦いに挑める。次に戦うとしたら、全ての技を前もって潰せる自信はあるわ」
その言葉に姉妹は更に項垂れる。
「……だけどね、本当の戦い、殺し合いではそれは不可能なのよ。初めて会う相手との戦いでは、どんな手を使ってくるかがわからない。さっきの戦いは二人の切り札は知らず、そして本気でお互い殺そうとやっていた。ある意味、一番有意義な模擬戦だったと思うわ。
……わかるかしら? 私と二人が本当の戦いで敵同士だった場合、貴女達はたった二人で魔王を相手にして、あと一歩のところまで持ってきたの。何度も言うけれど、それはとても凄いことなのよ。だから、ね? そんなに落ち込まないで」
「あの嬢ちゃんがボロボロになる姿なんて、何年ぶりに見ただろうなぁ」
「修行したてのコノハとの試験で、アカネ様が一歩も動かず、加えて足技も使わない、という縛りをされた時以来でしょうか?」
「おお、そうだそうだ。ははっ、そう考えたら二人はすげぇぜ! 流石は俺の弟子だ」
『私の弟子でもありますよ。本当に鼻が高いです』
アカネが姉妹を説得させている裏で、上位妖のぬらりひょん、雪姫、コンが優雅にお茶を啜りながら昔のことを話していた。
それはアカネ達の耳にも入ってきた。
「あの人達は人の昔話を……恥ずかしいったらありゃしないわ。…………コホンッ、という訳よ。コノハでも難しかったことを二人はやり遂げたの。――ほら、こっちに来なさい」
アカネは強引に手を取り、引っ張って歩き出す。二人は突然のことに驚きながらも、すぐさま立ち上がってアカネに引っ張られるまま後を歩く。
そうして連れて来られたのは、家の裏手にある大きな庭だった。
そこにはアカネ達の戦いを観に来ていた全ての妖が集い、それぞれが先の戦いについて楽しそうに話していた。
そして、シルフィードとリーフィアの姿を見るなり、妖達は話を止め、大きな歓声を上げ始めた。
「凄かったです、お二人とも!」
「かっこよかったぞ!」
「母上相手によくあそこまで戦えたな!」
「流石は母上が認めたお方達だ!」
妖は決して諦めずに限界まで戦いぬいた二人を、心から褒め称えた。
「……ったく、勝手に人ん家の庭を占領しやがって」
『まぁまぁ、よいではありませんか』
「コンの言う通りです。今回はお二人が妖達に心から認められた記念すべき日なのですから」
「はぁ……それもそうだな。今回だけは二人に免じて許してやるか」
まだ鳴り止まない歓声。
シルフィードとリーフィアは、それを口を開けて見ていた。
「貴女達の頑張りはここにいる全ての者に感動を与えたのよ。それでもまだ、あの程度では……と落ち込んでいるつもりかしら?」
「………………そう、ね……まだまだだって思っていたけれど、今回の戦いでもっと伸びることができると確信したの。次は負けないようにより一層努力すればいいだけの話よね」
「私も、今までの弱かった私より格段に強くなれた気がします。次は真正面から戦っても負けないよう、もっともぉっと修行をしたいです!」
ようやく立ち直った二人に、アカネは満足気に頷く。
「そうよ、一度負けたくらいで弱気になっていてはダメ。次はどのように戦うか、それを実現するために強くなることが大切なの。それがわかれば、二人はきっと更に上に昇れる」
アカネは祝福するように拍手をする。
「――合格よ。二人とも、本当によく頑張ったわね」
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