第72話 作戦の前に
今回は短めです
エルシアの聖印は無事にアカネの呪印に結合された。
初めての体験に歩くことすらできなくなったエルシアは、とろけた虚ろな目でベッドに横たわり、アカネは満足したのかストレスも吹き飛んで元気になっていた。
「アカネって実は色魔でしたー、とかじゃないわよね?」
全てを見ていたシルフィードはそう言い、顔を赤く染めていた。
「あらやだ、私はれっきとした鬼族よ。この角が見えないの?」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ。行動がどう見ても……その……あぁもう! 早くあっちに行きましょう! なんかモヤモヤするから剣を振って落ち着きたいわ」
「あらあら……嫉妬かしら? 可愛いわねぇ……」
「そんなんじゃない!」
そう言ってはいるが、エルシアと行為をしていた時に股をもじもじとさせているのをアカネはちゃんと見ていた。
必要なこととはいえ、シルフィードとリーフィア以外の奴とキスをすることが許せなかったのだろう。
「ふふっ、それじゃあ行こうかしら。リフィちゃんも準備はいい?」
「――へっ? あ、はいっ! 大丈夫です!」
声をかけられるまでどこか上の空だったリーフィア。慌てて立ち上がり、アカネの近くに寄る。
「それじゃあ後はよろしくね、コノハ」
「はい、おまかせ下さい。アカネ様」
三人で手を繋ぎ、妖の住む異界へ意識を送り込む。
目を開けるとそこはさっきまで居た部屋の中にではなく、見渡す限りの草原が広がっていた。
『いらっしゃいませ、お母様、シルフィード様、リーフィア様。今日も特訓の方、よろしくお願いいたします』
「いつも出迎えありがとう。早速だけど時間がないの。五日間でこの子達を鍛えてあげて」
作戦の決行は一週間後。
それまでにシルフィードとリーフィアの二人が、アカネの認める力に達しなければ作戦に連れて行くことはできない。
それを事前に言ってあるので、二人のやる気は十分だ。
『五日……では今までよりも更に厳しい修行をしてもらうことになりますね……リーフィア様、覚悟はありますか?』
「もちろんです。アカネさんのためになるのなら、私は乗り切ってみせます!」
その答えに満足そうに頷くコン。
『その心意気はよし。私達の会話は翁にも聞こえています。シルフィード様、彼は初手から殺しに来るでしょうが、頑張ってください。……では、各々の場所に転送いたします』
「今、二人の力は着実に伸びてきている。それを我が物にするのは難しいことよ。それでもきっとやれると私は信じているから……頑張ってね」
二人は親指を立てる。
アカネを見つめる視線が「任せろ」と言っているように思えた。
そうして二人は淡い光に包まれ、消えていった。
『……それでは私も行きますので、お母様はどうぞごゆっくり』
「えぇ、リフィちゃんのこと、頼むわね」
『はい、お任せ下さい。必ず五日でお母様の認める実力にまで伸ばしてみせます。では……』
そう言い、コンも転移した。
残されたアカネは適当な場所に座り、一人ゆったりとした時間を過ごす。
そよ風が髪をなびかせ、自然の中に映えるその姿は、とても魔王とは思えないほど様になっていた。
「……この景色をゆっくりと見られるのも、最後かもしれないわね」
おそらく、今後は今までの平和な生活とは違ったものになる。
――聖教国と魔王軍の戦争。
「いえ、聖教国だけじゃない。もしかしたら全種族との戦争になる可能性も高い。そうなれば……」
そうなればシルフィードとリーフィアにも辛い運命が待ち構えている。
こうして巻き込んでしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、二人はそうなることを知って、それでもアカネに付いてきてくれると言ってくれた。
ならば、アカネが出せる全ての手段をもって、二人を後押ししてあげたい。そのためには過酷な修行をしてもらうことになるが、二人にも言った通り、やり遂げてくれるとアカネは信じている。
「だから……どうか負けないで…………」
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今回は本番前の休憩と思ってください
次回、ようやくアカネ達が動き出します




