第68話 教皇の娘
更新が遅くなって申し訳ないです
「どこでそんなの拾ってきたの。元あった場所に戻してきなさい」
捨てられた動物を拾ってきた子供を諭す親のように、アカネはそう言った。
魔王独特の有無を言わさぬ迫力に、リーフィアはたじろぐ。
「よりにもよってコレを持ってくるとはね……」
「アカネさんはこの子を知っているんですか?」
「もちろん知ってるわ。その子は――教皇の娘よ」
◆◇◆
「……ん…………ここ、は……ベッド? なんで、私……」
教皇の娘はゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。
中には四人の人物がいた。
少女の一番近くに座ってこちらを心配そうに見ているエルフ。
椅子に座ってお茶を飲んでいるエルフと、同じく座って少女を警戒したように見つめる獣人。
そして一番遠く、対角線上の部屋の角に立つ鬼族。
「お目覚めかしら?」
「――ッ!?」
鬼族、アカネが話しかけてきた瞬間、少女は心臓を鷲掴みにされた感覚がした。経験したことのない圧力を前に、少女は呼吸をすることすら忘れてしまう。
「…………ぷはっ、はぁはぁ……あ、あなたは、何者なのですか?」
「あら? 人に名を聞く時は、まず自分からじゃないかしら?」
「……失礼しました。私は――――」
「ああ、別に名乗らなくていいわよ。エルシア・シルドリンド。教皇の娘さん」
初対面の人に名を呼ばれたことが相当驚いたのだろう、呆然としてすぐに警戒の目でアカネを見る。その姿が威嚇をしている猫のように見えて、アカネは微かに笑った。
「私を、どうするつもりですか」
「どうもしないわよ。貴女には何も望んでいない。……それとも、自分がそんなに影響力があると思っているのかしら? ねぇ、末っ子さん?」
末っ子ということまで知られていることに、エルシアは戦慄する。
「……もう一度、聞きます。貴女は、何者ですか?」
その問いにアカネは口元を歪ませる。
しかし、簡単に教えてあげるほど敵に優しいアカネではない。なので、まずは質問を質問で返すことにした。
「ふふっ、私は何者だと思う?」
「…………貴女からはよくない気配がします。まるで、そう、魔王のような……そんな気配です。しかし、私が知っている魔王に鬼族はいません。もしや……魔王の幹部!?」
「あ~、そっちにいったのね……」
残念ながら不正解だ。
それでも掠ってはいるので、快く教えてあげることにした。
「私はカンナギ・アカネ。あなた達の最大の敵――魔王よ」
「…………へっ?」
「魔王よ」
「い、いやいや! だって魔王に貴女の名は――まさか!」
「そう、私は【妖鬼妃】、今まで謎に包まれた最後の魔王よ」
「――ヴッ!」
どこから声を出したのか、驚きすぎて奇怪な悲鳴を上げるエルシア。
さすがに心配になってきたシルフィードは、こっそりとアカネの元に歩み寄り、ひそひそと話し始める。
「ね、ねぇ大丈夫なの? 今、ものすごく変な音した気がするんだけど……」
「……ま、まぁ、生きているから大丈夫でしょう」
そう言って眺める二人の先には、信じられずにフラフラと体を揺らすエルシアの姿があった。その横でリーフィアが「大丈夫ですか?」と声をかけている。
「あ、あの……証拠は、魔王だという証拠は……」
「はい、これよ」
そう言って手渡したのは、アカネの冒険者カードだ。今は魔法の加工を解いてあり、全てが見えるようになっている。
しっかりと書かれているものを確認したエルシアは、震える手で冒険者カードをアカネに返す。そして、毛布を深々とかぶった。
「魔王……妖鬼妃……本当に、本物だった…………私を、殺すのですか? 私が死んでも、何も得られません」
「だからそんなもの知っていると言ったでしょう? 私は別に何もしようとは思ってないわよ。貴女がこちらに何かしない限りは、ね」
それは逆を言うと、もし何かしやがったら許さねぇぞ、という意思が込められていた。
「それを信じろと言うのですか? 敵の言葉を信じるのは、愚の骨頂です」
「あら? 偉いわ、しっかりと心得だけは勉強しているのね」
末っ子だからと甘く見ていたアカネは、素直に警戒心の高いエルシアを褒めた。どうやら一番下だからと甘えて育ってきた馬鹿ではない、と内心で評価を上げる。
「……どうも」
「けれど、本当に何もする気はないのよ? むしろ、助けてあげたのだから感謝してほしいくらいだわ」
「それは、どういうことです?」
「そこにいるエルフの子、リーフィアという名前なのだけれど、その子が貴女を運んできたのよ。命を狙われているらしいから、なんとかしてあげて欲しいとお願いまでしてね」
エルシアは驚いたようにリーフィアを見る。
その目には、何故? や、何の目的で? という困惑の色が見られた。
「なんで、魔王と行動をともにする貴女が、なんで私を助けたの?」
「なんでと言われましても……ただ心配になったのと、アカネさんに協力したかったというのもあります」
本当にリーフィアは優しい子だ。
役にたとうと健気に頑張ってくれるし、敵なのにまず心配するのが先に来てしまう。
そんな恋人が側に居てくれることが、とても嬉しくて誇らしい。
「……先程、貴女には何も望んでいないと言っていたけど、訂正させてもらうわ。私が望むのは情報よ」
「情報……?」
「そう、情報よ。――お前達は、何を企んでいる?」
「私は、何も知らない」
「何も知らないなら、命を狙われる必要はないんじゃなくて? すでに聖教国が裏で動いているのは伝わっているの。嘘はつかない方が身の為よ?」
「――ッ!?」
ずっと静かにエルシアを警戒していた獣人、コノハが音速を超えた動きで肉薄し、刀の先端を首元に突きつける。
アカネに嘘は通じない。
逃れられないと身をもって悟ったエルシアは、諦めたように、そして僅かな希望を持って全てを話すことを決意した。
「話します……そしてお願いがあります」
「敵に、魔王にお願いをすると? 教皇の娘が?」
「……はい、貴女方にしか頼めないことです」
エルシアはベッドの上で姿勢よく座る。
そして、深々と頭を下げた。
「どうか、お父様を止めてください」
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友人に「忙しいぃいい!」と相談したところ「ゲーム時間減らせよ」と言われました。
ばっきゃろうお前、それとこれとは違うんだよ……




