表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/84

第61話 哀愁漂う魔王の姿

 子供達との稽古は二時間ほど続いた。


 それだけやっていると、さすがの子供達も疲れが溜まってしまう。そこでアカネが一休みしようと提案した。

 ついでに雪姫が涼しい風を送り、子供達だけではなく、アカネもリラックスしている。


「はあ……私も年かしら。すぐに息が上がるようになってしまったわ」


 お茶を啜りながらそんなことを言う姿は、とても哀愁が漂っているように見える。

 見た目は麗しい美女だとしても、アカネは人間の何倍も生きているのだ。そのような格好になってしまうのも仕方ない。


「お母様、すぐに疲れるのは体質のせいなのですから、そんな悲しいこと言わないでください」


 静かに寄ってきて、おばさん発言を咎める雪姫。


「ただでさえお母様は魔力をギリギリに保っているのですから、本当は動かないことが最優先なのですよ?」


「それはわかっているんだけどね。それではつまらないでしょう?」


「……はあ……それがお母様の意思だというのなら、止めません。ですが……私達も心配しているのだということを、覚えて置いてください」


 雪姫の表情は、いつになく真剣だ。


「……わかったわ。無理をして皆を悲しませるのは、私としても遠慮したいからね」


 でも、とアカネは続ける。


「私にとって大切な人達……貴女達やシルフィにリフィちゃん、コノハ、部下、友人。皆が危険な目に合うのなら、私は無理をするわよ」


 これだけは譲らないし、揺らがない。


 力を抑えたことで誰かを失い後悔するのなら、無理をして死んだほうがマシだ。

 アカネの考え。それだけはずっと昔から変わらない。


 しかし、雪姫は呆れるのではなく、愛に満ちた笑顔で主人を見つめた。


「それでこそお母様です。そんな貴女が、大好きなのですから」


「ふふっ、ありがとう…………っと、ようやく帰ってきたわね」


 何が、とは聞かなくても雪姫にはわかった。

 アカネがずっと待っていた人物。それが該当するのは、三人しか思い浮かばない。


「お、おい! みんな外を見ろ!」


 村人の一人が声を荒げて、皆が休んでいるところに走ってきた。


「どうしたんじゃ!」


「で、デカい物影が、森から……!」


「――ッ、まさか!」


 村長が村の門へと走る。それに他の村人達も釣られて動き、残ったのはアカネと雪姫のみとなった。

 アカネは残りのお茶を飲み干し「さて、と……」と立ち上がる。


「行きましょうか」


「随分とゆっくりしておられますね。三人が負けたと思わないのですか?」


 そう言うが、全く心配した様子はない雪姫。


「雪姫もわかっているんでしょう?」


「……まあ、そうですね」


 あの三人を倒す魔物が居るのならば、アカネはすぐに気づく。そして、現在も強力な反応は認識できていない。


「あの三人にはご褒美をあげなきゃね。私が言い出したことなのに、全部任せちゃったから」


「別に気にしていないと思いますけど……お母様が思うのならば、そうした方がよろしいかと。きっと三人も喜ぶでしょう」


「と言っても叶えられる限度があるわよ?」


「大丈夫ですよ。きっと簡単なことを願うと思いますから」


「そう? 雪姫が言うのなら、そうなんでしょうけど……簡単なことって何かしら? まさか抱きしめ? いやいや、さすがにそれはないでしょう。そんなの頼むなら、もっと他に叶えたい願いがあるだろうし……」


 ブツブツと考え事をしながら、アカネは村人が走って行った方向へと歩く。雪姫はその後ろに、ひっそりと付き従った。


 村を出た少し先、そこには……


「あらら、大変なことになっているわね」


 村人に囲まれてオロオロしているコノハの姿があった。


 その後ろには、巻き込まれないように避難しているシルフィードとリーフィア、そしてピクリとも動かない魔物……ではなく竜がいた。


 竜は確かに大きかった。よくぞこんな奴が森に隠れていたな、と思うほどの巨体だ。


 これでは村人が敵わないのも道理。この世界で最強クラスの生物がなぜこんなところに? という考えは一旦置いておき、竜の状態を簡単に観察する。


 歯向かう者全てを容易く噛み砕く顎。鋭く尖った爪は、凶器より人を殺すのに適している。


(見たところ……中級の竜種って感じね)


 A級冒険者パーティー『不変の牙』なら、注意して挑めばそこまでの被害がなく倒せる程度だ。


 中級程度の竜種は何が厄介かというと、身を守る鎧のような鱗と皮膚だろう。


(でも、竜も相手が悪かったわね。自慢の皮膚も、全くと言っていいほど意味を成していない)


 見るからに硬質な皮膚は、首元が見事に切り裂かれていた。

 他に外傷がないことから、コノハが一刀の名の元に斬り伏せたのだと予想できる。



「どうやってこんな魔物を倒したんだ!?」


「え、あの……」


「すげぇよ! そんな小さい体なのによ!」


「いや、これは……」


 次々と質問攻めにあうコノハ。元々人との付き合いが苦手だった彼女は、ちゃんとした言葉を一言も話せてない。


 話そうとしても、次の言葉が来る。

 どうしようもなくなったコノハの目に、若干の滴が見えた気がした。


「――コノハ」


 ワイワイと騒ぐ場に、静かで凛とした声が通った。

いつもありがとうございます


同時に新作

『少女は二度目の舞台で復讐に踊り狂う』

の投稿を始めました。


どうかそちらもよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ