表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/84

第39話 認めたくない魔王

「正直、まだ信じられないわ」


 それがシルフィードの一言目だった。


「だって、アカネは私の知っている【魔王】っぽくないんだもの」


 圧倒的君臨者にして絶対悪。

 それが昔から教えられてきたことだった。


「シルフィード、だっけか? アカネが一番魔王っぽくない……ってのは間違いだぜ」


「それはどういう?」


「オレが思うに、アカネが魔王の中で一番魔王らしいぜ。こいつの復讐は――――」


「ターニャ」


 アカネから膨大な殺気が溢れる。


 それは怖いもの知らずのターニャでさえ、額に汗を浮かばせるほど本気のものだった。


 直接、殺気を当てられていないシルフィードとリーフィアも、漏れ出たアカネの本気に身動きができなくなっていた。


「それ以上は……覚悟しなさい」


「…………すまん。さっきの発言は忘れてくれ」


 先程の殺気が嘘のように消える。


「はあ……ごめんなさいねシルフィ、リフィちゃん。それは私の口から言いたかったの……けれど、もう少し待って。貴女達を信じていない訳ではない…………ただ、私の覚悟が足りないだけなの」


 シルフィードとリーフィアは、アカネのことを『信頼できるお姉さん』だと思っている。


 しかし、アカネの本当の過去を言ってしまったら、その認識を真逆のものに変わってしまう。そんな気がして怖いのだ。


 それでも答えられることはできる限り答えよう。それだけは決めていた。


「私が長々と説明するよりも、二人が私に聞きたいことを答えたほうがわかりやすいかしら」


「……そうね。それじゃあ、早速だけど、アカネの旅の本当の目的は?」


「それは言った通りよ。本当に『人』というのを知りたかった。そして私の友人の話を聞いて、私は旅をしたいと思ったのよ」


 そしてアカネはシルフィードと出会った。

 そこから様々な人と交流し、リーフィアからも信頼を勝ち取ることができた。


「あの……アカネさんは人を殺そうとは……思わないんですか?」


「基本的は必要以上に殺そうとは思わないわ…………隣の戦闘馬鹿とは違ってね」


「だって……戦いたくなるじゃん。殺し合いたくなるじゃん?」


「疑問形で言われても同意しないわよ」


 言い訳をするターニャに、呆れて適当に返した。


「必要以上ってことは、必要なら殺すってことよね?」


「もちろん。私は人を殺すことに躊躇いはないわ。私の邪魔をする者は殺す。私の友人を殺そうとする者は殺す。神の味方をする邪魔者は殺す。そして私は――神を殺す」


「…………ああ、アカネの言う通りだ」


 シルフィード達は息を呑み、ターニャは同意するように頷き、口を開く。


「オレ達は神を殺す。それがオレ達の……【魔王】の最後の復讐だ。ただ上から見ているだけの屑共は、苦しみ、嘆き、死ぬ寸前まで、オレ達に何もしてくれなかった」


「結局は自分の力が全てだったのよ。それから私達は、神に縋るのを止めたわ。手の届かない場所で己の安全しか考えない神は、いらない。……そう、思ったのよ。――――シルフィ、貴女も心当たりがあるんじゃないの?」


「――ッ、ええ、そうね……もしかしたら私はアカネ達と同じ……なのかもしれないわ」


「お姉ちゃん、何を言って…………」


「リフィ、あの時……貴女が暴走する私を命がけで抑えてくれたあの試合。私にはその記憶がないって言ってたけど……一つだけ、覚えていることがあるの。

 神の声とは違う……全く別物の声が言った。私の中に『魔王核』が宿った、と……今まで怖くて言い出せなかったけれど」


 アカネはそれを知っていた。その時から、シルフィードの魔力は明らかに異常なものへと変化し、彼女本来の質も上がっている。

 本人は強い魔物と戦っていないから、全く気づいていないだろうが、剣速も前とは比べ物にならないほどになっていた。


「……お? ってことは、あんたはオレ達の後輩ってことか?」


「いいえ、それは違うわ。シルフィは言わば『半端者』よ」


「あ? どういうことだ。意味わからん」


「彼女は確かに『魔王核』が宿った。でも、核の力の半分を私が取り除いたのよ。……心臓とほぼ同化していたから、流石に全部は無理だったけれど」


「私の心臓に『魔王核』が……」


「そうしなければシルフィは私達と同じ【魔王】になっていた。……貴女のような真っ直ぐな人に【魔王】は荷が重い。勝手だけど、そう思ったの」


 神に復讐をするという概念に囚われた、シルフィードの形をした何かになる。


 それはリーフィアとの約束にならない。

 だからアカネは危険を犯してでも『魔王核』を半分だけ取り除き、自身の体に入れた。


「……それでも半分は残っている。まず間違いなく【魔王】の影響は受けているはずよ。ま、本人は薄々気づいているみたいだけどね」


 あの日以降のシルフィードを見ていれば、誰でもわかる。多分、リーフィアも気づいていたが、わざと考えないようにしていたのだろう。


 それは、神に対しての思いだ。

 この世界の人々は、一日に一回は自身が信仰する神にお祈りをする。

 人によって祈りを捧げる神は様々だ。


 割合としては『創造神』リヒトを信仰する人が一番多い。何せこの世界『グロウス』を創った主神であり、事実上のトップだからだ。


 他には種族で祈る神は違ったりする。

 エルフならば『エルフ族の創造神』フェルドフリーデ。ドワーフならば『ドワーフ族の創造神』ガルガンダなどがそうだ。


 そして、シルフィードやリーフィアも例外ではなく、しっかりと朝に一回、フェルドフリーデに祈りを捧げていた。…………のだが、最近になってシルフィードだけが祈りをサボっていた。


 最初の二日目までは習慣として、しっかりとお祈りをしていた。

 だが、それが続くにつれて、これは本当に意味があるのか? と疑問に思ってしまい、結局は何十年と続けてきたお祈りを止めてしまったのだ。


 シルフィードはそれを隠すことなく、全てを話した。

 リーフィアは信じられないと目を見開いていたが、【魔王】の二人は「当然のことだ」と納得していた。


「奴らに祈りを捧げるなんて……例え滅ぶとしても嫌だわ」


「全くその通りだな。祈っている姿を想像しただけで、ここら一帯をぶち壊したくなる」


「ターニャ、気持ちはわかるけど抑えなさい。ちゃんと理性を保ちなさいと言っているでしょ?」


「――ハッ! どの口が言うんだよ。あの、森だった場所を吹き飛ばした張本人が」


「うぐっ……だって、仕方ないじゃない」


 それを言われると、アカネは反論できない。


「久しぶりに神の声を聞いて抑えられなかったのよ……」


 そして、人差し指をツンツンと合わせながら、仕方ないことなのだと言い訳をする。


「何? 声を聞いた? ってことはお前、何か増えたのか?」


「え……ええ、称号がね……」


「称号? なんだ? 殺戮者か? 真なる魔王とかか? まさか……お母さんとかじゃねぇよな?」


「違うわっ!」


 一つ目や二つ目はともかく、三つ目のお母さんは意味がわからなかった。

 ターニャにツッコミを入れるアカネだったが、何となく納得していたのがこの場に、後二人いた。


(アカネがお母さん……有りね)


(アカネさんがお母さん……似合います)


「――あだだだだ!?」


 そんなことを思っている姉妹に気づかず、アカネはターニャの頭をゲンコツで挟んで、グリグリ攻撃をしていた。


「やめっ、それめっちゃ痛い! ホンマすんませんっ!」


 人に恐れられている【魔王】とは思えないほど、情けない声を出して懇願をしている。


「……ったく、私がお母さんなんて似合う訳ないでしょ」


(((ええ……? 自覚なし?)))


 アカネ以外の三人は珍しく意見が合った。


「…………何よ。文句あるの?」


「「「い、いえっ、何でもないです!」」」


 半眼で睨まれた三人は、再びシンクロすることになった。


 ちなみにアカネは、しっかりと三人の心境を【邪鬼眼】で読み取っていた。


 アカネだって妖からは『母』と言われているし、何故か皆が彼女の元に来て甘えるから、お母さんと言われても若干の諦めはあった。


(なんでだろう。それを認めたら負けな気がするわ)


 アカネが【お母さん】という称号を手に入れるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。


 そう思い、ソッとため息を溢すアカネなのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ