第34話 魔王、墓穴を掘る
第二斑を希望する者は予想よりも少なかった。
数にして十人。
アカネ達三人、以前戦った『不変の牙』の五人、そしてアザネラ、最後に紳士の姿をした初老の男性。
最後の男性はアザネラと親しく話している様子だったので、おそらく同じパーティーのメンバーなのだろうと推測できる。
『不変の牙』はアカネが負わせた傷も癒えていて、対したことにはならずに済んでいた。
しかし、リーダーであるガッツとドワーフのビボップ以外は誰もアカネを見ようとはしなかった。
しっかりとあの戦闘で、恐怖心が芽生えてしまったのだろう。
……まあ、そんなこと今のアカネには、塵程度にどうでもよかった。
今はどうやってバレずにことを乗り切るか。それを必死に考えていた。
(もし、冒険者の中に【魔力探知】ができる奴が紛れ込んでいたら……それは本気で拙い)
普段は魔物の反応を確かめるのに使う魔法だが、それはかなりの実力がなければ扱えない。
なので、B級になれない一班の冒険者達が【魔力探知】を使えるとは思えない。
……思えないのだが、アカネは人間と触れ合って、見た目とランクによる実力だけでその者を判断してはいけないと思い知らされている。
例えばファインドやウォントだ。
ファインドは細い体をしているというのに、大剣を元気にぶん回す。シルフィードの剣速と正面からやり合うなんて、普通は不可能なことなのだ。
その逆はウォントだ。
奴はB級のくせにD級冒険者に負けそうな実力だった。様々な恩恵を得られる鎧を着ていても、だ。
もし、鎧を脱いだ状態で戦ったなら、もしかしたらちょっと強い子供に負けるかもしれない。それほどの雑魚だった。
それに、冒険者の中にはアカネのように実力を隠している者がいるかもしれない。
それが杞憂に終わったとしても、次は第二斑が待っている。
そこには魔法だけでS級に至ったアザネラがいる。彼女ならば間違いなく【魔力探知】を扱えるだろう。
そういう理由で逃げ道がないアカネは、誰から見ても放心状態となっているのだった。
それでもなんとかファインドからの説明は聞いていた。
それができたのは、単に頭脳系魔王としての意地だろう。
第二斑の仕事は異常事態の対処と、第一班が何も成果を発見できなかった時、交代で『魔獣の森』へ行って調査。
この二つだけだ。
つまり、前半に何もなかった場合は、暇なだけだった。
説明を終えたファインドは、一階から上がってきた職員から、一班が先程ここから出発したと報告を受ける。
「それでは、皆さんは何かがあるまで、ここで待機。本当に何があるかはわかりませんので、入念な準備をお願いします」
そう言ってギルドマスターは立ち去る。
「……ねぇアカネ。本当に大丈夫なの? なんていうか……顔色が悪いわよ」
シルフィードは初めて見るアカネの動揺した姿を心配していた。
それでもアカネは「なんでもないのよ……」と安心させようとしたが、どう見ても不安は拭えなかった。
「…………アザネラ、すこーし聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
初老の男性と立ち回りを話し合っていたアザネラに声をかける。
「――ん? どうしたの?」
アザネラは初老の男性を連れて近くに寄って来てくれる。
「貴女……【魔力探知】使える?」
アカネはこう思った。
――使えるかわからないなら、直接聞いてやろう。
そうすれば結果がすぐにわかるし、彼女が使えないと言った時は、アカネの心配も半減する。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「ああ、使えるわよ。……そうか、【魔力探知】で反応を見れば、森を消し飛ばした奴の正体がわかるわね。気付かさせてくれてありがとう」
「…………エエ、ヨカッタワ」
使えると判明した挙句、彼女が思いついてなかった手段を教えてしまった。結果的に自分の足を引っ張ったアカネは、阿呆な判断をした自分を殴りたい衝動に駆られた。
「あの、そちらの方は?」
シルフィードがアザネラの斜め後ろ、共について来た初老の男性に注目していた。
「紹介が遅れたわね。この人はウィード。現役時代の相方よ」
ウィードと呼ばれた男性は、前に出て丁寧なお辞儀をした。
「初めましてお嬢様方。ウィードと申します」
「やっぱり……」
どうやらシルフィードはウィードという人物を知っていたらしい。
「何、シルフィは知っていたの? 知り合い……な訳ないか」
そうだとしたら顔を知らないのはおかしい。
「この方はアザネラ様と同じS級冒険者よ。当時は【剣聖】と呼ばれていて、剣士なら誰もが憧れるお方なの。……戦闘時は鎧を被っていたから姿は見たことなかったんだけど、アザネラ様と一緒にいたからもしかしてと思ったのよ」
「なるほど、剣士はウィード様、魔法使いはアザネラをそれぞれ尊敬していると……」
「いやはや、昔はそんなことを言われていましたが、今はただの老体。エルフのお嬢さんとは五分五分くらいしか実力はありませんよ」
ウィードは謙遜でも照れ隠しでもなく、本気でそう思っているようだった。
それでもシルフィードには信じられない言葉で、驚きを隠せないでいた。
「そんなっ、私とウィード様が五分だなんて……」
「いえいえ、私は人の実力を測るのは得意でして、観察眼……とでもいいましょうか? それが外れたことはないのですよ。なので、五分というのは本当に思ったから言ったんですよ。
…………そして、真ん中の貴女。貴女にはどうやっても勝てる気がしません。現役時代でもよくて二分、今ですと開始直後に肉塊行きですかな」
「あらあら、ご安心を。S級冒険者様が死なれたら困るので、殺さないように手を抜きますわ」
アカネは先程から【剣聖】の鋭い殺気を受けていた。
もちろん彼も本気でアカネを殺そうとは思っていない。発破をかけて実力を測っているだけだ。
それをニコニコと微笑んで受け流しているアカネ。更には平然と手を抜く宣言をした。
ここで否定をしても、彼の観察眼というものを否定するだけになってしまう。
なので、ありがたく評価を受けることにした。
「アカネッ! さすがの貴女でもウィード様に失礼――」
「いいのです」
昔は憧れていた【剣聖】への物言いに、シルフィードは注意しようとするが、それを彼自身が止めさせた。
「アカネ様が言ったことは本当です」
本人が断言してしまっては、シルフィードも文句は言えなかった。
「それに、この間の試合――貴女は力の半分も出していませんでしたね?」
「――――ほぅ?」
初めてアカネの笑顔が破れた。
スッと目を細めてウィードを見る。
二人の視線が行き交い、その間だけ空気が変わった気がした。
先に目を逸したのはアカネだ。
この人を相手に誤魔化すのは得策ではないと判断し、目を伏せる。
「どうやらS級、そしてウィード様の観察眼とやらを侮っていたらしいですわ。その通り、私はあの試合で全く力を……それこそ大半を出していませんでした」
その言葉に一番驚いたのは、聞き耳を立てていた『不変の牙』のメンバーだ。
「おいおい、ちょっと待ってくれ」
そこでガッツが歩み寄ってくる。
彼は信じられないと言いたげに、アカネとウィードの間に割り込んでくる。
「あんたに負けた俺達が言えたことではないが、どうしても信じられないぞ」
その言葉に、シルフィードやリーフィア、残りの『不変の牙』のメンバーがコクコクと首を上下させる。
しかし、ここまでバレたのなら隠すのも不自然。アカネは真実を口にする。
「いいえ、私は本気で手を抜きました。皆様も思い出してください。私は戦闘中、攻撃系の技能やスキルを使っていませんでした」
アカネがあの試合で使ったのは【瞬天】、【空歩】、【邪鬼眼】の三つ。
どれも相手に直接的な効果があるものではない。
ウォントには【侵蝕之死視】を使ったが、あれは戦闘とは言えないものなのでノーカウントだ。
「そんな、ことが……」
「それほどの実力を持つ貴女は、一体……?」
ガッツが落ち込んだ様子で立ち尽くし、ウィードやアザネラがアカネを注意深く見る。
「アカネ、やっぱりあんたは――――」
「――し、失礼します!」
アザネラが何かを口にしようとした時、それを遮って一人の男性職員が階段を駆けのぼって来た。
「第二斑の、皆様は至急『魔獣の森』へ……お願いします!」
職員は息も絶え絶えになって指示を出す。
「【魔王】が現れました!」
1日2話投稿期間は終わりです。
これから、通常の毎日1話投稿となります。
きつかった……お昼に起きるのきつかった……




