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第2話 毒舌な部下に泣く魔王様

「別にいいですよ」


 後日、イヅナに「少し京を空けていいかしら」と相談しに行ったら、結果はまさかの即答。


 しかも、視線を作業台に向けたまま、書類の整理をしている手を止めていなかった。


 普段は感情的になると、可愛らしく動く耳や尻尾も微動だにしていない。


 それすなわち、アカネの一大決心に全く興味がないということだ。


「そんなあっさり!?」


 もうちょっと興味を持たれるとか、理由を聞かれるかな? とか思って、色々とそれらしい言い訳を考えてきたのに、それが全て無駄になってしまった。


「むしろやっと言ってきやがったかと呆れています」


「ええ……?」


「そろそろアカネ様はただの引きこもりなんじゃないかと心配でした」


「そんなぁ…………」


 酷い言われようだ。

 一つ、泣いてやろうか。


「私は皆のためを思って……」


 イヅナはいじけるアカネを見てため息を一つ。

 ようやくペンを机に置いて、アカネを視界に入れてくれた。


「この際だから言わせてもらいます。アカネ様は心配しすぎなのです」


「心配するのはいいことだと思うのだけど?」


 両手の人差し指をつんつんと合わせる。


 こいつ面倒くせぇなと、部下なのにも関わらずそう思っているイヅナ。

 言ったら更に面倒な態度になるから、それを言わずに心の中にしまう。


「アカネ様は心配の度合いが過ぎます。顔バレしないために百年以上も引きこもるなんて…………やはり人間界でいう『ニート』なのですか?」


「――ちゃんと仕事してるじゃないのよぉ!」


 ついにアカネはうわーんうわーんと泣いた。


「(うぜぇ…………)まあ、ニートなのか? というのは冗談です。アカネ様、よく考えてください。なぜアカネ様が顔バレしてはいけないのですか?」


「え、なぜって……私は【魔王】なのよ? 顔バレしたら京に来る客が減るかもしれないし…………」


 実は京を統治しているのは魔王でした。なんて知られたら、誰もその都を観光したいなんて思わない。


 他の魔王達はこぞって観光しにくるだろうが、奴らは基本自由人だから何をされるかわかったものではない。


 下手したら都が半壊なんてこともありえる。


「その考えがおかしいのです。アカネ様の顔バレと、京の経営がなぜ直結するのでしょうか?」


「……………………あっ…………」


 ようやく理解した。


 京の経営は表向きなら、イヅナが経営していることになっている。観光客の誰もがアカネのことなんて知らない。


 アカネの存在を知っているのは、イヅナの指導の元、京で働いている獣人族とアカネ直属の部下のみ。

 もし彼女が【魔王】として姿を見せても『和服を着た鬼族の魔王』という印象しか人間達は抱かない。


「なんで今までそんなこと気づかなかったんだろう…………」


 アカネは、【軍師】と呼ばれる人間の英雄とタメを張れるくらい戦術に長けていると自覚している。そのおかげで『和の都・京』を建ち上げた。


 それ故に考えすぎてしまった。というのが間違いだ。


(それがアカネ様がこの都を大切に思っているという証拠なんですけどね)


 イヅナの本音が聞こえてくる。


(なんてありがたい言葉…………また泣きそうよ)


 ホロリとアカネは涙ぐむ。


「なので、たまには全てを忘れて、貴女様のやりたいことをしてください」


 イヅナは笑顔で優雅にお辞儀をしてくれた。


 その本音には『寂しい』という思いがあって、アカネは少しの罪悪感を覚えるのだった。

おまけ。


「ねぇ、ニートだと思ってたって、本当に嘘なのよね?」


「……………………さぁ? どうでしょう?」


「その長い間は何!? お願いだから嘘って言ってぇええええっ!」

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