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第22話 終結

 神速の一閃がリーフィアの頭へ振り下ろされる。


 リーフィアは避けることもできずに、目をギュッと瞑って身構える。


 アカネの命令によって退避した職員や観客席の冒険者達は、最悪の結末を予想して助けるために動こうとする者と、悲惨な現場から逃れるために目を逸らす者に分かれる。


 だが、そんな結末はアカネが許さない。


「――全く、危ないわね」


 彼女は【瞬天】を発動してリーフィアの元へ移動し、抱きかかえる。

 そのまま息もつかぬ速さでフィールドの端まで移動して、一息つく。


(大丈夫だとわかっていても、いざその場面になる時肝は冷えるものね……)


 想像していた痛みがいつまでも来ない。

 それを不思議に思ったリーフィアは、恐る恐る目を開く。


「――あ、え? アカネ、さん?」


 そして、これまた不思議そうにアカネの名を呼ぶ。


「あれ……? 私、お姉ちゃんに……」


「ふふっ、安心しなさい。……私が守るって約束したでしょ?」


「…………私ではダメでした。私なんかじゃ……お姉ちゃんを止められませんでした…………ごめんなさ――」


 謝ろうとしたリーフィアの口を、人差し指を押し付けることで止めさせる。


「リーフィアちゃんは頑張ったわ。貴女のおかげでシルフィは理性の一部を取り戻せた」


 シルフィードは頭を抱えて動かない。

 しかし、その瞳は確かな理性が宿っていた。


 これはリーフィアが危険を顧みずに語りかけたおかげだ。

 もし、アカネが語りかけようとしても、この段階まで絶対に来ることはできなかっただろう。


「でも……ここからは本当に危険だから、後は私に任せなさい」


 先程までのシルフィードは、言ってしまえば機械のようなもの。

 憎き者は必ず殺す。邪魔する者も殺す。邪魔をしないなら気にも止めない。負の感情だけを原動力として動く。


 これが『復讐者第一形態』。


 この状態でも充分に危険だが、殺すことにしか考えが向かないので、動きは単調になる。

 だからアカネは事前に動くことができて、安心してリーフィアをシルフィードの元へ向かわせられた。


 だが、今はもっと危ない状態にある。

 周囲全てを敵と認識するようになって、全てに対する【復讐者】となる。


 それが『復讐者第二形態』だ。


 ――そして、それが次の段階へと移ったとき、その者は神をも憎む『復讐者最終形態』=【魔王】へ覚醒する。


 それを止められるのはアカネのみ。


 心配そうに見つめるリーフィア。

 それを微笑みで返してその場に降ろしてから、フィールド中央に立つシルフィードへと歩みを進める。


 その歩みはゆったりとしていた。


 怯えているのではない。

 常に余裕を保ち、いつだろうも強者の風格を漂わす。

 それが【魔王】としてのあり方なのだ。


「こんにちはシルフィ」


「う……あ、かね……?」


「ふむ……一応、認識はできているのね――っと、危ないわね」


 悠長に観察していたら、いつの間にかシルフィードが目の前に来て、剣を振り下ろしていた。

 それを横に避けて背後に回り込む。


「ううっ、あああああっ!」


「聞きや――っと、しないわね」


 次々と攻撃を仕掛けるシルフィード。

 アカネはそれを軽々と避け続ける。


 一振りの速さはファインドと戦っていた時より、異常なほど速度が増している。


 これで戦略等を考えられるようになれば、Aランク冒険者だろうと完封してしまう。


 それでもアカネは避け続けて、シルフィードに話しかけるのを止めようとしない。


「シルフィ貴女……ってちょっと、話を、聞いてっ」


 しかし、攻撃は鮮度を増して、さすがのアカネでも話しながら回避するのは辛くなってきた。


「聞い、き――――黙って聞きなさい阿呆!」


 とうとう堪忍袋の緒が切れて、力を緩めたグーパンチでシルフィードを吹き飛ばす。


(……予想より『魔王核』の侵食が早い。これは早期決着しなきゃ間にあわなくなるわね)


 現在、『第二形態』に移行しているシルフィードの中には、『魔王核』というのが存在している。


 それが心臓と同化すると、無事に覚醒して【魔王】となる訳だ。


 そうなってしまったら、アカネだろうと手出しはできない。

 唯一できることは「おめでとう」と同じ魔王として呪いの祝福をすることのみ。


(【邪鬼眼】で見ると……まだ大丈夫そうねぇ)


 そう結論を出している間にシルフィードは、よろよろと剣を杖代わりに起き上がる。


「うあぁっ!」


「【動くな】」


 諦めずに斬りかかろうとするシルフィードの体が、金縛りにあったようにピクリとも動かなくなる。


 アカネによる【言霊】のおかげだ。

 本当は仲間に力を使いたくなかったのだが、事態は一刻を争う。

 そう言っている場合ではなくなった。


 それに、これでわかりやすくなった。


 ――アカネの【言霊】が破られたら、こちらの負け。


 彼女の【言霊】は格下の相手にしか効果を得られない。

 つまり、同格――【魔王】になってしまったら、それは意味が亡くなってしまうのだ。


(……それまでに終わらせる)


「ねぇシルフィ? なぜ貴女は復讐を果たしたいの? ――答えなさい」


「…………にくい、から」


 アカネは内心ホッとする。

 これで対話が可能ではなかったら詰んでいた。


「なんで憎いの?」


「……リフィ、を……リフィのじゆうをうばった、から……」


「そう……でも、リーフィアちゃんは治ったわよ。それじゃあダメなの?」


「…………リフィをかんぜんにすくうには、ころすしか……ない」


 シルフィードの頭が――動いた。


「ころす。ころすコロスコロす殺ス殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」


 ドロリとした負の感情が彼女から溢れだす。

 それは言わば怨念だった。


「殺すんだ! わたしがリフィのかわりに殺してやるんだ!」


 シルフィードの体が軋みをあげながら、ジリジリと動き始める。


 彼女は【言霊】に無理矢理、抵抗しているのだ。

 そのため、体は軋み、全身から血は流れ、それでも憎しみの強さで動きを止めない。


 このままでは、【魔王】として覚醒する前に彼女の体が壊れてしまう。


「――――いい加減に、しろ! 小童がっ!」


 アカネはヅカヅカとシルフィードに近づいて髪を掴み、直で頭突きを喰らわす。


 両者の額から血が流れるが関係ない。


「リフィリフィうるさいのよ! あんたは三年間、勝手に思い悩んで怒りを、憎しみを蓄積した。それが爆発したのが今のあんたの姿よ!

 何がリフィの自由を奪ったよ。何がリフィを完全に救うよ。結局は全部あんたが救われたいだけじゃない!

 ――大切な妹を、お前の憎しみで利用するな!」


「う、うるさい! おまえになにがわかる。おまえにわたしのなにがっ!」


 離れようとするシルフィードの胸ぐらを、強引に掴んで逃さない。


「見てきたからよ! あんたみたいな【復讐者】を、この目で、何年も!」


 【魔王】になった後、まだ『和の都・京』を造ろうとしなかった時のことだ。

 数年の短い間。しかし、アカネには絶対に忘れられない反吐が出るような思い出。


「中には復讐を遂げた奴等がいたわ。皆が清々しい表情をして、復讐相手の死体を肉塊になるまで潰していた。

 …………でもね、結局は『人殺し』なのよ。理性を失った『人殺し』は、二度と世界の輪には戻れない。誰もが『元復讐者』を見放す。段々と思考が停止してやがては皆、楽になろうとした!


 シルフィード・フェルエル! 貴女はどうなの!?

 『人殺し』という汚名を被ってまで復讐を果たしたいの!? それでリーフィアちゃんに胸を張って自慢の姉だと言えるの!?」


「あ……ああっ――ウァアアアアアアッ!!」


 シルフィードは膝から崩れ落ちる。

 喚き叫び、頭を引っ掻き、考えるのを拒絶する。


 アカネはシルフィードの心にできた隙を逃さなかった。


 即座に顔を強引に持ち上げて――口を口で塞ぐ。


「――んむっ!?」


 シルフィードは驚いて暴れるが、鬼の腕力の前ではただの無力。


「んんっ!? ――んんんんっ!」


 アカネがやろうとしているのは、呪いの解除と同じだ。


 心臓付近に巣食った『魔王核』を、シルフィードの体内から直接吸い出す。

 核は形がある訳ではない。魔力が心臓と融合して核になろうとしているから、『魔王核』と名があるだけだ。


 だからこそ止めるのはアカネにしかできない。


 リーフィアの時のように優しくしようとは思わない。全身の魔力を吸い込むかのように、荒々しく『魔王核』を吸収していく。


「んっ、ぷはっ……アカ、ネぇ…………」


 もうシルフィードの体内に『魔王核』は半分ほどしか残っていない。心臓とほぼ同化していた核を、完全に取り出すのは不可能だ。だが、半分程度ならば、シルフィード自身で制御はできるだろう。


 次に急激に減った魔力を補填するため、アカネの魔力を流し込む。


「アカネ……んっ、アカネが、わたしの…………ぷはっ、中に……ん……ぁ――――」


 シルフィードは包み込まれるような安心感と幸福感に呑み込まれる。


 そして、アカネが魔力を渡し切った時、糸が切れたように彼女は気絶した。


「ふぅ……ったく、心配かけさせて……しょうがないんだから」


 気絶して眠っているシルフィードの頭を、今度は母親が子供にするようにそっと優しく撫でた。


「お姉ちゃ――うぐっ」


「――っと、ふふっ、姉妹揃って危なっかしいんだから」


 そこにリーフィアが駆け寄ってくるが、すぐにバランスを崩してアカネの胸にダイブする形になる。


「ごめんなさい。あの、お姉ちゃんは……」


「……大丈夫よ。今は気絶しているだけ。もう時期に貴女の姉は目を覚ますわ」


「そう、ですか……よかった、です。お姉ちゃんが無事で、本当に、よかったぁ……」


 リーフィアは安心して、塞き止めていた涙をボロボロと流し始める。


 それを眺めていたアカネだが、自分も結構無茶をしたせいで限界が来ていた。

 周囲から魔力を集めてギリギリを保っているアカネが、今回はそのギリギリを破って魔力を与えたのだ。


 引き裂かれるような痛みが全身を走り…………ぶっちゃけ、リーフィアを受け止めた時も地獄を見た。


(ああ……もう、ダメ…………)


「…………アカネ、さん? アカネさん! アカネさ――」


 リーフィアの呼び声が耳元で聞こえる。


 それを最後にアカネの意識は暗闇に落ちていった。

グダッた感を否めないこの話も、ようやくキリがよくなりました

けれど、登場人物紹介はもう少し待って……まず望んでいる人がいるのかわかりませんけどね


とにかく、いつも読んでくれる方、本当にありがとうございます!

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