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第1話 とある魔王達のお茶会

「どっかーんっ!」


 凄まじい破壊音がして扉が蹴破られる。


 部屋の奥で黙々と書類に目を通していた私に向かって扉が吹っ飛んでくるが、部屋の主がうっとうしそうに手を払うだけで、扉は粉々になった。


「アカネぇええええっ生きてるかぁあああ!」


「ターニャのせいで死にそうになったわよ。…………はあ、これで入る度に扉を壊すのやめてくれって言うの何回目?」


 部屋の主――アカネはお気に入りの羽ペンを置いて、開幕から器物破損をしやがった犯人――ターニャを睨む。


「ふっ、これで九百五十七回目だ」


「…………正解」


 覚えているならやらないで欲しい。


(はあ……無理か)


 ターニャはテンションが上がっていたり、上機嫌だったりしたらこのように扉を吹き飛ばす癖がある。


「もうちょっとで千回だな。頑張るぞ!」


「つまり私の部屋の扉は後四十三回壊されるってことよね。この生粋の【破壊王】め…………はぁ、頭痛い」


 ターニャは、人間で言うと十三の少女の見た目をしている。

 その容姿からは考えられない怪力と暴君のような性格に、頭を抱えて机に突っ伏す。


「大丈夫か? 頭痛いならリンシアに…………ってあれ? リンシアはいないのか?」


 彼女は部屋を見渡し、いつも自分が来る時に、必ずと言っていいほどいる人物がいないのに気づく。


「……ああ、リアならしばらく来てないわよ」


「え、なんで?」


「外の世界を見てくるって言って出て…………あら? 噂をしたらなんとやらってやつね」


「あん? それはどういう……ああ、そういうことね」


 視線を追ったターニャは、すぐにアカネが言った言葉の意味を理解する。


 目視では到底見えないような距離から、高速で飛来してくる反応が一つあった。

 アカネはソッと窓側に寄って、開ける。


 その数秒後。


「ア〜カ〜ネ〜!!」


 叫びながら飛び込んで入ってきたのは、高いテンションの割に気だる気な雰囲気を纏った女性。


 緑の長髪に紫のメッシュが掛かっていて、独特な雰囲気から怪しさを周囲に振りまいている。


「しばらく会えなくて寂しかったよぉ」


 そんな人物がアカネの頬にスリスリしているのは、少し……いや、かなりおかしい状況だと言える。


「あ~、はいはい。私も寂しかったよ」


「なんか親子みたいだな」


「ターニャ? それはどういうこと?」


「なんかわかる気がするわー」


「アカネさん!?」


 納得しないでよぉ。と肩を揺らすその姿は、まるで子供みたいで、アカネは少しだけ疲れてしまう。


 珍しくターニャの言っていることが正しいと思うけど、なぜかそれを認めたくなかった。


「それで? 外の世界――人間の街は楽しかった?」


「うーん、どうなんだろ」


「えぇ……?」


 リンシアが旅をする前に感想を言ってくれと頼んだのに、この反応は何なのか。


「なんかね……話すと色々あって長くなるのよね」


「じゃあ場所を移動してから聞かせてもらうとしましょうか」


「りょーかい」


 リンシアがパチンッと指を鳴らすと、書類ばかりだった私の部屋から一転。草原の丘の景色に切り替わっていた。


 丘の中心には白くて豪華なテーブルと、三つの椅子が設置してある。


 卓上にはティーセットが置いてあって、簡単に説明するなら『貴族のお茶会』だろう。

 大嫌いな貴族共と似たようなことをしているのは、アカネとしては少々反吐が出るが、仕方ないと思ってお茶会を楽しんでいる。




 ここはリンシアが作り出した世界。


 現実とは違う空間に対象を幽閉して、リンシアが任意で解くか死ぬかしない限り、現実に戻ることはない空間。

 名を【ユートピア】という。


 一種の夢のようなものだが、現実の体に影響がある。彼女を敵にしたならとても厄介な空間になるだろう。


 今はただのお茶会として使っているだけなので、単なる魔力の無駄使いだと言える。


「ようこそ。私の世界へ」


 ドヤ顔のリンシア。


「その言葉いつも言ってるけど、飽きないの?」


「気分ってのは大切なんです」


「あっそう……」


「リンシアは変人だからなっ」


 ターニャは一番乗りで椅子に座る。


「あんたには一番言われたくないわ」


「なんだとぅ!? やるかっ!」


「やったるわぁ!」


「二人とも落ち着きなさい」


「「あだっ!」」


 興奮し始めた二人の脳天にゲンコツを降らして、強制的に落ち着かせてからアカネも席に座る。


「痛え……ったく、鬼の馬鹿力はずるいぜ」


 ターニャはアカネの頭部、そこに生えている二本の角を見て恐ろしげに唸る。


「私は鬼の中では腕力は弱い方よ」


(まあ、嘘だけど)


 確かに鬼族全員が()()アカネと同格の強さを持っていたなら、彼女は鬼族の中で一番腕力は弱かった。


 だが、アカネ以外の鬼族はただの鬼族。

 本当は彼女にとって赤子程度の腕力しかもっていない。


 普通ならすぐにバレる嘘も、三度の食事より戦闘が大好きなターニャは、それを簡単に信じてしまう。


「マジかよ……鬼族とは仲良くしよう……」


 驚愕しているターニャを置いといて、アカネとリンシアは紅茶を淹れ始める。


「さて、女子会を始めましょうか」


「女子ってほど若く…………すいません。なんでもないっす」


 何かを口走ろうとしたターニャをギロリと睨み、またもや強制的に黙らせる。


 女子はそんな威圧出せねぇよ。やっぱ鬼だな。とターニャは心の中で呟く。


「貴女の心の音、聞こえてるわよ」


「うげっ!? なんで……って、アカネに眼があるの忘れてた!」


 アカネの全てを見通す【邪鬼眼】は、誰であろうと逃れることはできない。


「ふふっ、後で覚えてなさい?」


 ターニャが絶望に染まる。

 ただでさえアカネの部屋の扉を壊したんだから、ドぎついお仕置きをしてやろうと企む。


「程々にしてあげなさいよ……」


「……コホンッ、冗談よリア。それじゃあ貴女は旅の感想を話してくれる?」


 アカネはそれがずっと気になっていた。

 気になりすぎて、いつもの書類整理を終わらせるのに五時間もかけてしまった。……いつもは三時間で終わるのに。


「ええ、まずは最初の人間都の出会いから話そうかしら…………」


 リンシアが野道を歩いていたら、気の良い商人が心配して話しかけてくれたこと。

 その商人と仲良くなって、近くの街まで馬車で送ってもらったこと。

 その後、街で一時的に冒険者登録をして、本来の力を隠しながら人間達と冒険をしたこと。

 それを続けていくうちに沢山の出会いをしたこと。


 どれも楽しい思い出だけど、逆に嫌なことや悲しいことも沢山あったらしい。


 だから、最初の答えは「どうなんだろう」だった。


「時には人間の欲深さがわかったりね。結局は私達と同じくいい部分と悪い部分があるってことよね」


「わかるぜー。だから人間って面白いんだよな」


 ここでまさかのターニャから衝撃の事実が。


「なに、あんたも人間と交流したことあったの?」


 そんな話、本人から一度も聞いてなかったが、戦闘馬鹿だと思っていたのに意外だと結構失礼なことを思うアカネ。


「おう、よく殺し合ってるぜ」


「「……………………うん」」


 自信満々に言うターニャに、二人は「それは交流じゃない。戦争や」とは言えなかった。


 今日も脳筋は平常運転だなぁ……とアカネは悠長に紅茶を飲む。


「人間と殺りあってると戦い方でわかるんだよ。こいつは悪いやつだ、こいつはいいやつだってな」


「私みたいな魔法専門にはわからないことね」


「リンシアの魔法は騙し合い上等って感じするよな」


「うっさい。効率よく安全に殺せるんだからいいでしょうが」


「ハッ! 違いねぇや」


 なぜ、アカネは人の交流に関してこんなにも興味を持っているのか。

 それに、人と殺しあっているというターニャの発言に、二人は異論を唱えないのか。




 それはアカネ、リンシア、ターニャの三人がこの世界に生きる全種族と対立をしている【魔王】だからだ。




 なので、交流は簡単にできないことであって、人を殺すのは当然のことなのだ。


「二人はいいわよね。私は外に出ることすら難しいんだから」


「天下の魔王様が『和の都・(きょう)』を経営しているとわかれば大変だものねぇ」


「むしろ、一番交流しそうな環境だよな」


 『和の都・京』

 その名の通り『和』を主体とした国で、全世界から客の足が絶えないほど絶好の観光場所となっている。


 表向きは私の秘書である『獣人族』のイヅナが京を統治していることになっている。

 そしてアカネが見えないところから経営を動かしているというのが、本当の京の姿だ。


 だがらこそアカネは顔バレしないように、と『和の都・京』を建設した時から細心の注意を払って生活していた。


「別に【魔王】ってバレなきゃ大丈夫なんじゃないか?」


「そうよ。最近は京も安定してるんだし、たまにはイヅナに任せて羽をのばしたら?」


「そうかしら? うーん……そうね、少しイヅナに相談してみるわ」


 その後、リンシアとターニャの人間との交流を沢山聞き、アカネの人間に対する興味はより深くなっていったのだった。

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