妹大先生
「僕のこと避けて楽しい?」
「あ、の、話したくないです」
「僕なにかした!? 近くにいないと朱音のこと守れないだろ!」
ヒソヒソ。ヒソヒソ。
「ついてくんなって言ってるだろ!?」
「同じ方向なんだから一緒に帰ったっていいだろうが!」
ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。
「朱音、今度、僕の家来ない? ロールキャベツ作る予定なんだけど」
「い、行かない」
「じゃあ朱音の家に行っていい?」
「だめ!」
ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。
「おい、朱音! お前また同じブラしてたじゃねぇか!」
「はぁ!? 黙って!? マジで!」
「2個しかないだろ、今度の休みに買いに行くぞ」
「誰がお前なんかと買いに行くんだよ!」
ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。ヒソヒソ。
「無理、ほんと無理、あいつら」
自室で机につっぷしていると、妹が励ましに来た。
今まで妹は僕の部屋に一歩も入ろうとはしなかったが、姉になったとたんよく出入りするようになった。
「お姉ちゃん、モテ期?」
「はぁーお前がグアムに行ってなかったらなぁ」
クリスマス、独りじゃなかったらあの神社にも行かなかったのだ。
腹いせにわしゃわしゃと、きれいにセットされた妹の頭を撫でた。
「ん?」
しかし、妹はまったく気にせずボサボサの頭で僕の目をじっと見つめてくる。逆に罪悪感。
「ほんとお前はかわいいな」
「お姉ちゃんは全然かわいくない」
「わかる」
妹はもこもこの部屋着で、片手にアイスを持っているが、僕はジャージ姿だ。
「まず、髪がバシバシだよ。トリートメント使ってないでしょ」
「うん」
女子って大変なんだなと思う。化粧水と乳液というやつを妹からもらって、どうにか生きているがたまにつけるのを忘れて怒られている。
「まぁでも、僕はお前がいてよかったよ」
「私もお姉ちゃん大好き」
「大好きとは言ってねぇ」
「じゃあ直矢くんが大好きなの?」
きょとんとした顔で妹が言う。
僕はすぐさま否定した。
「僕はあいつは好きじゃない。むしろ迷惑だ」
「私は直矢くん、好きだなぁ」
「やめとけ、あいつカノジョ候補七人いるとか聞いたぞ」
そんな男にかわいい妹はやれん。
「でも、最近、全員と縁切ったらしいよ」
「そうなのか?」
「この前会った時に、お姉ちゃんと付き合いたいからだって言ってたよ」
「・・・・・・・・・・・」
「何その顔、いやそー」
くすくすと妹が笑った。
「じゃあ柊さんがいいの?」
「遥希ぃ? やだよ」
「お姉ちゃん、イケメンも好きじゃないし、お金持ちも好きじゃないし、どういう人がいいの?」
妹にはだいたい全部を話しているので、遥希が金持ちだということも知っている。
「ボクのことを好きな人、だったんだけどなぁ」
「二人とも条件は満たしてるね」
だったらなんだろう。僕はしばらく考えて、ひらめいた。
「ボクのことを大切にして、ボクのことをわかってくれる人かな!」
「お姉ちゃん」
ため息をつきながら、妹は僕に言った。
「理想が高すぎるよ」