神様、お願い
僕もさみしいが、神社もさみしいだろう。
クリスマスはキリスト教のイベントだ。
僕は謎に親近感を抱き、スクールバックから小銭を取り出した。そして、5円玉をお賽銭箱に投げ入れる。続けて手を合わせて、簡単にではあるが参拝をすます。さて、そのあとどうしようかと考えていると、声をかけられた。
「参拝きてくれてありがとうね?」
「へ?」
そこには、髪が地面につきそうなほど長く、薄そうな白い着物を着た女の子がいた。僕と同い年くらいだろうか。なんだか浮世離れしたような人だなという印象だ。
「この日と明日はいつも参拝客が少ないの。年始は多くて大変なんだけどね!」
「はぁ」
この神社の関係者だろうか。それにしてもかわいい。
「特別に君の願いを一つだけ叶えて上げるよ」
彼女はにこっと笑って僕に言う。こんなかわいい子に話しかけられるだけでも、ここに来てよかったななんて思う。
「そうだな、僕は恋人が欲しい」
僕は即答した。クリスマスだって、カノジョがいればこんな寂しい思いをしなくてもよかったんだ。
「ふむふむ、どんな恋人でもいいの?」
「いや、僕のことを好きな人かな」
「君のことを好きな人はすでに三人いるよ」
え!? そ、そうだったのか!
三人も!?
「でも、とある理由から君に告白できないでいる」
「なんでそんなことわかるんだ」
断言する様子が不思議で、僕が聞くといたずらっぽく彼女は答えた。
「だって、わたし、神様だから」
「か、神様」
「信じられないよね、でもいいよ。お願い事叶えてあげたら信じてくれると思うし」
まぁ、神様か神様じゃないかということはあまり重要ではない。いま、この瞬間が大事なのである。
クリスマスイブにかわいい女の子と会話していることが事実だ。
「じゃあ、僕に告白できない原因を取り除いてください!」
僕はかわいい女の子が好きだが、そんなにかわいくなくても僕に好意をよせてくれている子がいるならその子と付き合いたい。顔が全てではないのだ。
「わかった! 任せて!」
女の子がそう言うと、まぶしい光が僕を包み、思わず目を閉じる。
まさか、彼女は本当に神様だったのか……!?
しばらくたって目を開ける。
「な、なにが起きたんだ……」
「ふふふ」
彼女が笑っている。
あ、あれ……。体に違和感がある……ような。
「背、伸びました?」
彼女と目線があまり変わらなくなり、僕がたずねると彼女は首をふった。
「あなたが縮んだのよ、姿を見てみて」
僕が視線を落とし、自分の服装を見ると、なぜかスカートを履いている。高校指定のスカートだ。
「うっわ! 足元寒いと思ったらスカート! 家に帰るまでに通報されちゃうんですけど!?」
「大丈夫よ、ちゃんと女の子だもの」
そう言うと、彼女はお守りとか売ってる机から鏡を持って来て僕に見せた。
覗き込むと、その変化に驚く。髪が肩まで伸びた、完全に女の子だった。
「うぇえええ!? なんで!?」
「みんなはあなたが生まれてから今までずっと女の子だと思っているけど、あなたを想っていた人たちは、あなたが男だったときの記憶を持っているわ。だから、それを頼りにあなたの想われ人を探してね」
彼女はやりきったというような顔をしているが僕は冗談じゃない。
「も、戻してもらうことは……」
「あら、あなたのお願い事が叶ったのでしょう。存分に人生を謳歌してね」
言い切ると、彼女はすっと暗闇に消えていった。
僕は、女の子になり、その場に立ち尽くす。
もはやクリスマスとかどうでもよくなってしまっていた。