最後の戦い(後編)
女子に連れて来られたのは、学校の裏。
ほぼ森。
そこで私は、再び暴言を吐かれつつ暴力振るわれた。
「男たぶらかしてばっかで恥ずかしくねぇの!?」
「もうお前学校やめろよ!」
さすがに10人以上いるので逃げられもできず、殴られたり蹴られたり、もう散々である。
「っ・・!」
この前、左腕のギプスが取れたばかりだというのにみんな容赦はない。
「寝てんじゃねぇよ!」
痛みで地面に倒れていると、バケツに入っていた水をぶっかけられる。
「げほっ、ぐっ、うう」
「はぁー殴るの疲れた、ねぇ、もう終わりにしない?」
「だねー、ストレス発散もできたし」
やっと終わるのか・・。
どこか折れてるのかな・・くっそ、医療費請求してやる・・。
そう思っていると、ド派手ギャルが古びた倉庫を指差した。
「あそこにいれとこ」
「あ、閉じこめよ、出て来ないように」
「ぇ・・?」
私は引きずられるように倉庫まで連れて行かれ、ぽんっとそこにいれられる。埃っぽくてじめじめしている。多分、もう使われていないのだろう。
そのまま無慈悲にも倉庫の扉が閉められた。
「これで閉められんじゃない?」
「あーやってみよー!」
慌てて開けようとするが開かない。なにかで閉めたようだ。
「じゃーねー、もう二度と会わないかもしれないけど」
「あははうけるー!」
ま、待て待て、こんなとこ私も初めて知ったようなところだぞ!?
見つかる確率が低すぎる!
ガタガタ扉を叩いても、女子たちは去って行ったのか笑い声も足音も聞こえなくなった。
叫びたくても、喉がやたら痛くてもう声がでない。たぶん、叫びすぎたんだろう。
っていうか、どうしよう、このまま誰にも見つけてもらえずに餓死しちゃったら・・。
春だから、凍死の心配はないけど、水もかけられて結構寒い。
「・・」
これは、もしかしたらバチが当たったのかも。
人の好意に甘えてばかりいたから、報いを受けているのかもしれない。
直矢のことだって、ちゃんと向き合わないでここまできてしまったし。
一瞬しか明るくなかったのでわからないが、倉庫には箒やちりとりがあった。ほかにはなにもない。あとは蜘蛛の巣くらいだ。
することもなく、端の方で座り込む。
ポケットに手を入れたがスマホも入っていないし連絡手段はない。
体も痛むから脱出しようなんて気も起きないし、助けを呼ぶ声も出せない。
「・・」
しばらく、同じ体勢でいたけど、お腹がなって意識を取り戻した。
もう何時間くらいたったんだろう。ずいぶん寒くなったから夜かな。
両親がそろそろ心配する時間だ。
* * *
前にも夢で見た海の景色。
私は砂を足ですいて、振り向いた。
「久しぶり、朱音」
そこにいたのは男の私。
白いシャツに、薄い色のジーンズを履いている。
裸足だけど、まったく水ににはつかっていない。
「久しぶりだな、朱音」
私が言うと、彼は口元を少し上げて笑う。
「女の人生は辛いか」
女になってからいやなことばっかり起きた。
女子から暴力は受けるし、遥希と直矢とはギクシャクするし。
どうせなら戻りたい、そう思うほど。
だけど、私は・・。
* * *
「ぁ・・」
しばらくぼんやりしていたらしい。
声が出せるようになって、私はドア付近に近づいた。
そうすること数十分、足音が聞こえてくる。
私は倉庫のドアを揺らしながら、叫んだ。
「助けてーー!!! 助けて! 閉じ込められているの!」
その声が聞こえたのか、足音はこちらに近づいて来た。そして、荒々しく開く。
「朱音!」
月明かりの逆光で顔は見えなかったが、声で誰だかすぐにわかった。
「直矢・・!」
直矢は、私の腕をつかむと力強く引っ張って抱き寄せた。
「ごめん、遅くなって、ごめん」
「ううん、来てくれてありがとう」
安心して、殴られている間一切流さなかった涙があふれた。
「っ直矢、わ、私の方こそごめんね、ずっと、・・ごめんね」
涙がとまらず、うまく話せない。
「なんで朱音が謝るんだよ」
「も、もう、私には、あっ、愛想尽きた・・んじゃ・・ないかって・・」
私のこと、好きじゃなくなったんじゃないのかって。
ずっと思っていたから。
「なんでだよ、俺は朱音のこと守るって言ってただろ」
「で、でも、私のこと好きじゃないだろ・・」
「どうしてそう思ったんだ?」
怒るわけでも、呆れるわけでもなく、直矢は純粋に質問した。
「私が、昔から女じゃなかったのかって聞いただろ。男だと知ってる人は私のことを好きだという証だって言われて・・、だから・・」
「そうか、朱音、まだ思い出してないのか」
「え?」
「俺と恵太と遥希は思い出したぜ」
思い出す・・?
なにを?
「朱音、お前は女だった。だけど、いつの日からか男になっていた」
「前から女だったってこと・・?」
「記憶の節々におかしなところはなかったか? それ、全部お前が女だったら納得がいくと思うぜ」
「・・なるほどね」
『女の子なのにずっと一緒にいるのはおかしいよ』
私はクラスメイトにそう言われたのか。
そうだ、それで私は女の子と遊ぶようになったんだ。
だから女子に囲まれて過ごして、直矢とは疎遠になってしまった。
男子だったら直矢と一緒にいれたのに。そう思ったんだ。
恵太と部活をしていたときもそうだ。
私は剣道がうまく、なかなか上達できない恵太を教えていた。
熱心に聞いてくる恵太に、私も全力で付き合っていた。一緒に帰り道、遊びながら帰ったのも覚えている。
だけど、男子が女子に教わるのがおかしいってからかわれている恵太をどうにかしてやりたくて、男子になれたらなと思ったんだ。
遥希とも遠征で知り合って、仲良くなったものの、あの父親にどこの生まれかもわからん女子と会話なんてさせられん! と門前払いを受けていた。
電話をかけても繋いでもらえない。
ごめん、僕は違うって言ってるのに朱音が遺産目当てで僕に連絡をとっていると思われている、と遥希からメールがきてせめて男子だったらと思ったんだ。
いろいろ組み合わさって、私はあの神社にお願いをしに行ったんだ。
「とにかく、俺はお前がずっと好きだったし、男になってからも好きだったぜ」
目の前には、私の初恋の相手。
「私もずっと好きだったよ」
直矢はふっと笑って私の頭を撫でてくれた。
そしてスマホを取り出して、どこかに電話をかけた。
「うん、朱音見つかった。そっち行くから」
直矢はそう言うと、私に背を向けてしゃがんだ。
「帰ろう」
「うん」
少し戸惑ったが、私は直矢の背に乗っかった。
背負われて、学校を歩く。
「探しただろ、今何時だ?」
「結構遅いから、怒られるだろな」
「お前はいっつも夜遅いだろ」
「ちげーよ、朱音が怒られる心配してんだよ俺は!」
そんな話をしながら、私たちは他愛もない話を続けた。
まるで、まだ誰にも干渉されなかった頃のように。
正門につくと、恵太と遥希がいた。
「はー、見つかってよかったよ。でもまた派手にやられて・・痛そうだよ」
遥希が眉をよせて直矢におぶられてる私に近づいて来た。心配かけたみたいで、心が痛む。
「高菜さんは?」
「高菜は夕方には帰らせた」
直矢の質問に恵太が答える。
高菜も探してくれていたのか・・。
私は、本当にいい友達を持ったと思う。
「で、朱音は女だったときのこと思い出したぜ」
「じゃあ、朱音、直矢が好きだったことも思い出したの?」
さらっと遥希に問いかけられて、私は叫ぶ。
「な、な、なんの話だよ!?」
「よくメールで僕に相談してきたじゃないか。僕は脈なしなのかと毎晩落ち込んでいたから覚えているよ」
「それは初耳なんだけど」
直矢の耳が赤くなっている。私もきっと真っ赤だ。
「だが、遥希も好意をもたれているじゃないか」
恵太が言う。
「恵太もな。で、朱音、誰と付き合うんだ?」
直矢に言われて、私は心臓がばくばく鳴る。
悩む。
どう答えたらいいんだろう。
「それとも誰とも付き合いたくない?」
遥希が私の顔を見て聞いた。
私は首を横にふる。
「俺たちのことは好きなのか」
恵太にも聞かれて、今度は首を縦にふった。
「・・好きだよ・・」
私が言うと、彼らは顔を見合わせた。
「・・俺たち、3人で話したんだけどな」
そして、直矢が覚悟を決めたように私を背中から下ろしながら言う。
私は自分の足で立って、直矢を見た。
「朱音、俺たちと付き合ってくれないか」
「は・・?」
思わぬ提案に間抜けな返事をしてしまった。
「さ、3人と付き合うってこと?」
問うと、彼らはうなずいた。




