最後の戦い(前編)
春休みが終わって、高校三年生になった。
クラス替えだ。
表が貼られている廊下に行くと、人だかりで見えない。
と、去年のクラスのグループメッセージに誰かが画像を添付した。どうやら、クラス表のよう。
小さい画像を廊下の隅の方で拡大していると、肩をぽんっと叩かれた。
「あーかねちゃーん! おはよぉ!」
「高菜、おはよう」
元気な声で挨拶する高菜は、とても機嫌が良さそうだ。
「ねぇねぇクラス替えのネタバレしてもいーい?」
「え? ああ、いいよ」
「なんとー、高菜と朱音ちゃんは同じクラスですぅ!」
「うおおおおおおお! マジか!!!!」
私は喜んで高菜の手をにぎった。
「えへぇ、嬉しいよぉ」
「ほんとに! ついてるなぁ」
なんて騒いでいると、小突かれた。
「俺も同じクラスだ」
少しむすっとした恵太だった。
「俺も同じクラスだって言ってたのになんで自分だけ報告してるんだ」
「えー? だってぇ、そんなこと言ったら朱音ちゃん、そっちにばっかり意識いくじゃんかぁ」
「いやいや」
高菜の言葉に苦笑いしていると、恵太がふっと笑った。
「そうだ、それに遥希も同じクラスだぞ」
「え、そう、なの」
「どうしてそんな複雑そうな顔してるのかな」
ぱっと顔を上げると困ったように笑う遥希がいた。
複雑な気持ちだからそんな顔になるんだよ。
「ちなみに、直矢も一緒だよ。もはや呪われてるよね」
直矢も一緒・・か・・。
ちらっと人混みに目をやると、直矢とばっちり目があう。
これだけ人がいてもすぐ見つけてしまうんだからいやなんだよな。
すぐさまそらしてしまった。
「ラッキー! イケメンいっぱいいるクラスじゃーん!」
「えぇー! ずる!」
女子がなにやら騒いでいる。イケメンがいっぱいいるのはどうやらうちのクラスらしい。
まぁ、こいつらがいるしな・・と思って恵太と遥希を見ると、二人はにこっと私に笑いかけた。
「・・」
ふ、普通に恥ずかしい。
「あれ、朱音ちゃん顔真っ赤だよぉ?」
「も、もう行こう」
高菜の手を引いて私は教室に荷物を置きに行った。
直矢の席は、遠い。話す機会はあれから結局なかった。
その後、ホームルームが始まり、そのあと私たちは始業式のため体育館へ。
今日は始業式しかないので、これが終われば自由解散となる。
なるのだけど。
校長先生の話もなんだか色々な挨拶も長く、眠気がマックスまできていた高校三年生たちが、一気に目覚める事件が起きてしまった。
体育館から教室へ帰ってくる時に、再び私たちはクラス表の貼ってある廊下を通った。
なぜか、みんなクラス表は見たはずなのにそこに人だかりができている。悲鳴もときどき聞こえて来た。
そして、ちらちらと私を見る視線。不審に思って、私は人だかりをかきわけて、そして見た。
「え・・」
そのクラス表の隣に私の写真が十枚ほど貼られていたのだ。
恵太と抱き合っている写真と、そして遥希とワンピースとスーツで支えてもらいながら歩いている写真、遥希の家に出入りしている写真。
「なに・・これ・・」
呆然と立ち尽くしていると、強い衝撃を背中に感じて私は倒れた。
「ビッチじゃん!」
「二人も股にかけてんの!?」
「うわーやばそー、女子キレてんぞ」
「恵太真面目そうだったのに彼女いたんだ」
「あいつまだ懲りてなかったのかよ」
ざわつく廊下、私がしりもちをついて戸惑っていると、手が差し伸べられた。
「朱音、立てるか?」
無理やり人だかりを分けてやって来たのは直矢だった。
「な、なおや・・」
「ちょっと! 直矢、なんでこんなやつ助けんの!?」
「直矢が好きって言ってもこいつ、二人も男たぶらかしてんじゃん!」
女子がそう叫んで、私ははっとした。
そうだよ、私が直矢に合わせる顔なんてない。
なのに、またこうして甘えているなんて・・。
私は、直矢の手は無視して、違う方向へと走った。背が低くなっていたため、くぐればすぐにこの集団から抜け出すことはできたのだ。
走り去る際、何人かが私の名前を呼んだ気がしたが、振り向けなかった。
どうしよう、どうすれば、私は・・。
きっと恵太と遥希もあの写真を見る。そしたらなんて言うだろう。
最低な浮気女と罵られてしまうだろうか?
学校の目立たない階段の踊り場にひとまず腰をおろして私は考える。
こんな形でみんなに知れ渡るなんて、最悪だ。
だけど、全部事実だから言い訳できない。
私がなにも言わなかったから、余計あの場は混乱しているだろう。
戻れないよ・・。
「あっれー、二股女じゃない?」
「うわ、聞こえるってー!」
「前もあれだけ言われてたのに続けるから写真なんて撮られんだよ」
耳が痛くなるような高い声が聞こえて私は、顔を上げた。
そこには女子・・ええと・・10人以上いる・・。
「ちょっとツラ貸しな」
ド派手な金髪女子に言われ、私はついて行くしかなかった。




