悩み
「おい、朱音」
「・・っ」
窓越しに直矢と目が合ってもすぐそらすようになってしまった。
喧嘩もしない。
恵太に告白してしまってから、僕は直矢の顔がまともに見れなくなっていた。
なんでだろう、とても悪いことをしているような気持ちになる。
別に僕は悪くないはずなのに。
しかも、遥希には申し訳なさがないのだからよくわからない。
「お姉ちゃん、どうしてこうなるの」
妹は怒り通り越して呆れていた。僕の傷を見ての感想だった。
左腕はギプスをつけている。お風呂がめんどくさくて仕方ない。
それでも、そこまでひどくなかったので全治一ヶ月半くらいだそうだ。
ちなみに、高校の授業は終了し、春休みに入ったのでそこまで不備はない。
僕は部活がない日は昼まで寝て、ゲームしたり妹と話したりというダラダラした日々を送っていた。
というのも、部活で恵太と話すたびに赤面して疲れてしまっているからだ。
「け、恵太、はい、水」
高菜につつかれて水を渡すと、優しげな笑顔でお礼を言ってくる恵太に僕の心臓はもたなかった。
「朱音、ありがと」
「う、うん」
「ほかでやれよ!」
ほかの部員からはやしたてられながらも、それでも僕らは付き合ってはいなかった。
恵太はなにか思うところがあるらしい。
「まだ俺たちは思い出せていないことがある。それがわかったら付き合おう」
思い出せていないこと。言われて見ればあるような気がする。
僕たちの思い出がどこか危ういのは、そのせいだ。
だけど、思い出していないことを思い出す方法なんて・・。
ピロピロリン♪
メールがきて、僕はスマホを見る。
遥希からだ。
『頼みごとがあるんだ、今すぐ来て欲しい』
今すぐ・・?
僕は妹に出かけるとだけ言って、遥希の家に向かった。
* * *
遥希の顔は少しやつれていた。
いつものとは違うパーカー姿で、余裕のなさが伺える。
部屋に入るやいなや、肩をつかまれた。
「どうしよう、朱音!」
「ど、どうしたんだよ」
「お見合いさせられちゃうんだよ! っていうか傷まだ治ってなかったんだね、呼び出してごめん!」
「え!? お見合い!?」
僕は驚いて、思わず大きな声を出してしまった。
「さすが柊家だな」
「僕、朱音以外と結婚したくないよ!」
おいおいと思いながら、僕はクッションの上に座った。
「お前はお見合い相手のこと知ってるのか」
「2回会ってるし知ってるよ、知った上で嫌なんだよ」
「ひどいな」
どんな子なんだよ。
「その子が嫌っていうよりは朱音がいいんだけど、朱音が僕のことを好いてくれるかはわからないだろう」
「以外と現実見てるんだな」
遥希は、ため息をついた。
「でもお見合い相手に結婚の希望をもたせ続けるのもひどいよね。今度会ったら、たぶん誓約書を書かされる」
「誓約書?」
「絶対結婚するっていう約束の紙だよ、婚姻届は年齢的にまだ書けないしな」
高校生になんてことさせるんだ。
っていうか、ううん・・好きじゃない子と結婚させられてしまうのか・・。お金持ちも大変だな・・。
さすがにそれはかわいそうだと思う。
遥希は、紅茶をいれると僕の前に置いてくれた。遠慮なく飲まさせてもらう。
「あのさ、無理を承知で頼むんだけど」
おずおずと遥希は言う。
「うん」
「僕の彼女として父に紹介させてくれないか」
「うえっ!?」
思わず紅茶を吹き出しそうになった。
「恋人がいるならこの話は先延ばしにしてくれるらしいんだ、頼む。こんなこと頼めるの、朱音しかいなくて」
「え、え、いや、ボク!?」
「フリでいいから! 頼む、とりあえず、執行猶予を伸ばさせてくれ!」
「ちょ、頭をさげるな!」
土下座一歩手前の遥希を起こす。こんな御曹司に頭下げさせられない。
助けてやりたい気持ちはある。
だけど、父親に紹介って・・こいつの父親はデカイ会社の社長、会うだけで震え上がる。
「隣にいるだけで、話さなくていいから!」
「・・わ、わかったよ、いるだけだからな・・」
結局、おされて約束してしまうことになった。
「巻き込んじゃってごめんね、絶対お礼はするから」
「ほんとだよ・・」
紹介されるまでに、ちょっと女子らしくする訓練でもするか・・。
とりあえず、一人称を「私」に変えて話すようにしよう・・。




