高菜
きれいな海辺で、誰かが呼んでいる。
振り向けば、すむけれど。
いまはまだこの海に浸かっていたい。
* * *
マネージャなう。
心の中でつぶやいた。んー、ひまだな。
高菜は雑巾を濡らしに水道へ。
マネージャの仕事は特に今することはない。
そろっと練習場をのぞくと、みんな素振りを行なっている。
なつかしいな、とエアー素振りをしてもなかなか時間は過ぎてはいかない。
しょうがないのでぼんやり練習風景を見ていた。
やっぱり段違いで恵太はうまい。それにかっこい・・。
「おいおい・・防具で顔見えないじゃん」
苦笑いしながら練習場の扉をとじた。
これはまずいな、ずいぶん惚れてしまっているらしい。
「頭冷やすか」
顔でも洗って、気分を切り替えよう。
僕は、高菜がいるはずの水道に来た。
「あれ?」
しかし、高菜はいない。雑巾はあるのに。
どこに行ったんだ。
「高菜?」
高菜がマネージャの仕事さぼるなんてことなかったのにな。
不審に思いながら、雑巾を回収して周りをうろついてみる。
ガタン!
体育倉庫の方からでかい音が聞こえて来た。
なにごとかと思い、かけつける。
「あたしの彼氏があんたのこと気になるっつってたんだけど!」
「地味でブスのくせにチョーシのってんじゃねぇよ!」
「やっ、いたっ」
女子五人に囲まれているうずくまった女の子。がんがん蹴られてる。
あれ、高菜じゃねぇか!
「やめろよ!」
僕が叫ぶと、女子は一斉に僕を見た。
「は? なにあいつ」
「朱音じゃん、こいつ美優がうざいっつってたんだけど」
「ってことはこいつもやっちゃっていいってこと?」
三人の女子が僕のほうにきて、二人はいまだ高菜に暴力をふるっている。
女子にビンタされたり殴られたりしながらも、僕は狙いを定める。
僕は雑巾を高菜のほうにいる女子に投げつけた。びちゃっという音とともに残りの二人も青筋たててこっちにやってくる。
五人に袋叩きにされ、骨折してもおかしくないほどの激痛を感じながらも高菜の無事を確認する。
のそりと起き上がった高菜は、僕のほうを見ると、大きな目を見開いて僕の方へかけよろうとしてこける。
「ぁ、あかね、ちゃ・・」
僕は一人の女子をはったおして高菜に叫ぶ。
「逃げろ高菜ぁ!!!」
「・・!」
高菜は驚き、そして力強く頷くと走ってこの場を去って行った。
「うわ、あんた見捨てられてるじゃん」
「あいつサイテー、ってあたしたちが言えることじゃないけど」
容赦なく蹴られ、僕はついに口から血を吐いた。
結構やばくないか、口のはしが切れただけならいいけど。
しばらく痛みに耐えて、もう意識とぶかもというところで
「なにしてんだ!」
いかつい声。低い声だ。
朦朧とした意識で視線を上げると、道着を着た男子たち。
高菜、部員呼んだのかよ・・。
「やば!」
女子は逃げるが、すぐつかまっていた。
「うぅううう」
次に目を開けると、泣いた女の子の顔。
高菜だ。涙が顔の傷口にしみる。
「ううううう」
ひたすら泣く高菜をおしのけて、恵太が顔をのぞかせた。
「大丈夫か、病院行くぞ」
「・・高菜は」
「あいつはたぶん大丈夫だ、まぁ一応一緒に行くか」
「朱音ちゃん、本当にごめん・・」
「お前のせいじゃないだろ」
僕は高菜に言う。
「わ、私、き、嫌われてて・・」
「うん」
「と、友達が朱音ちゃんしかいないのに、なのに、こんな」
「ボクも友達、高菜しかいないよ」
そう言うと、高菜は少し微笑んだ。
「ごめんね、私、前朱音ちゃんに、嘘ついたの」
「え・・?」
「好きな人、嘘教えたの」
僕は「?」を頭に浮かべる。
高菜は泣きながら笑って僕に言った。
「私、朱音ちゃんが好きなの」
「え!?」
「おい、高菜」
恵太が怖い顔して高菜を睨んでいる。
「だってずるいよぉ、恵太ばっかりぃ! わたしだって伝えたいー!」
ちょっと待て、ぜんぜん整理できてない。
「朱音ちゃんが好き」
「ご、ごめんなさい」
僕はすぐに謝った。というか断った。
「フラれちゃった・・」
目に見えて落ち込む高菜に心は痛むが、こればかりはしかたない。
以前の僕なら喜んでいたと思うけど、僕は好きな人ができてしまっていたのだ。
「ご、ごめん、高菜。ボク、実は・・」
そしてちらっと恵太を見る。
「け、恵太が好きで・・」
言った瞬間、恵太に抱きしめられた。
ぎゅっと腕に包まれて、幸福感を感じたがそれ以上に
「痛い! こっちは怪我人だぞ!?」
「悪い」
「知ってたんだぁ、朱音ちゃんが恵太のこと好きなの」
高菜は悲しそうに笑っている。
「恵太はいいやつだからぁ、今回は特別諦めようと思ってたんだぁ。だけど伝えたくてぇ・・。朱音ちゃんありがとね」
「こちらこそ。好いてくれてありがとう。これからも仲良くしてくれるか」
「当然だよぉ」
「じゃあ、病院行くぞ」
そう言って、僕たち三人は仲良く病院へと向かった。
ちなみに、左腕にひびが入っていた。




