遥希との過去
実はひっそりと、高菜とのツーショットはホーム画面にしていた。
いやぁ、あの時は純粋に楽しかったなーなんて思い出す。
「なににやけてるの?」
マグカップを両手に持った遥希に聞かれて、僕はスマホの画面を消した。
遥希は薄手のニットに、チノパン。相変わらず、スマートな格好だ。
僕はこの前みたいな男子と変わらぬ毛玉のついたボルドーのニットに、黒いストレッチパンツ。
そして、ここは遥希の一人暮らしの部屋。僕は、遥希の家に遊びに来ていた。相変わらず、きれいな部屋だ。
掃除が行き届いていて、家具もグリーンで揃えられている。
「それにしても、もう二度と話せないかと思ったよ」
「悪い」
ピンク色のマグカップを前に置かれる。
「あれ、こんなのあったっけ」
「女子呼ぶって思ったから買って来たんだよ」
「え、今まで女子呼んだことないの?」
遥希が恥ずかしそうに笑った。ほんとらしい。
あれから恵太に言われて、僕はまずは遥希に連絡をとった。
そして、今こうして遥希の部屋にいるというわけだ。
「でも、恵太から聞いたよ。女子からいろいろ言われてたみたいだね。直矢と恵太はわかるけど、僕がそんなに女子の好意を受けていたとは思えないなぁ」
「な、お前もボクの敵だったわけだ」
「えぇー・・」
マグカップの中には紅茶。遥希の持つコップからはコーヒーの香りがしている。
「ケーキ焼いたんだけど、食べる?」
「え、お菓子は作れないって言ってたのに、ケーキ焼いたの。女子力すごいな」
「練習したんだよ」
そう言って、遥希が出したのはアップルパイだった。一口食べると美味しく、どんどんフォークが進む。
「朱音からしてみれば、僕は疎ましかったかもしれないけど、話さなくなってから、少し罪悪感を持って僕を見てたのに気づいてたよ」
そりゃ、あれだけ悲しそうに見られたら罪悪感抱くよ。
「ごめんね、助けてあげられなくて」
「助けられたほうが反感買うんだよ」
そう言いながら僕はケーキを食べて、紅茶を飲む。
「それにしてもこんなに仲良くなるとは思わなかったね。初めて会ったのって中学のときだっけ」
「そうだったな」
たしか、僕が剣道部の練習試合で遥希の中学に行ったのがきっかけだった。当時、遥希も剣道をしていたのだが、その態度があまりにも悪く、休み時間に質問しに行った。
「あのときは、びっくりしたよ。『なんでそんなにいやそうに剣道してるの』って純粋な目で聞かれて、僕は息がつまるかと思ったんだ」
遥希がくっくと笑いながら言う。
「『だって剣道を頑張ったって僕は剣道の選手になるわけじゃない。僕はどうせ決められた職について父の後を継ぐだけなんだよ』とか言っちゃって、朱音を怒らせたんだよな」
「あー」
そうだった。僕は、背も低いのに遥希の胸ぐらをつかんで言ったんだ。
『どうせとか言うなよ! 自分のしたいことがあるならやればいい! 誰も文句が言えないところまで先に行けばいいんだよ!』
すごい剣幕で言う僕に、遥希は頭を殴られたような衝撃を受けたと言っていた。べつに遥希は剣道の選手になりたいわけじゃなかった。彼は、一度自分の力で外に飛び出して見たかっただけだったのだ。
連絡先を交換した僕らは、どこを受験するか教えあい、結果はるきは僕と同じ高校に来た。
「けど、僕は朱音と試合をした記憶がないんだよね」
不思議そうに遥希が呟く。
「どうしてだろう、あんなこと言われたら絶対手合わせをお願いすると思うんだけどな」
「うーん、チビすぎて見えなかったからとか?」
最近、過去の記憶におかしいところがある。
なんだかピースがうまくはまっていないというか・・。
女子になったからだろうか。
「まーあのときから、僕は朱音が好きだよ」
「・・そうかよ」
僕も、自分の力で外に出て来た遥希のことすごいと思ってるよ。とは言わなかった。




