ずっと前から
「なついてない猫みたいな感じ。毛を逆立てて拒否されてる感じ」
「うるせぇ、そこから僕に近づくな」
僕と直矢は部屋の端と端にいた。だいたい2メートルほどの距離があいている。
男子らしい部屋だ。少し散らかっていて、漫画が本棚に並んでいる。
恵太に言われ、僕は誰にも目撃されないであろう早朝に直矢の家にお邪魔した。おかげで眠い。
「ていうかどうしたんだ、お前から連絡くれるなんてさ」
「今のボクの状況を言っておいたら、もう朝まとわりつかれないかと思って」
「まとわりつく!? 人をストーカーみたいに!」
叫び出した直矢に向かって、僕は慌てて人差し指を口に当てた。まだ家族が寝てるだろうが。
「とにかく、お前がすんごいモテるから一緒にいると反感買うからもう勘弁してほしい」
「やだ」
「やだってお前・・」
「俺の気持ちは無視かよ」
直矢が泣きそうな顔で見るが、僕のほうがさらに涙をためていたらしい。
「う、うそうそ! 気持ちを無視してるのは俺のほうだよな! お前が女子からハブにされて悲しんでるっていう気持ちをわかってやれてないよな!」
「そこまでわかってるならなんでボクを困らせることばっかりすんだよ」
「ごめん」
素直に直矢は謝るが、僕は許すことができない。
「俺は、ずっとお前だけを見ていたんだ。だから、ごめん、周りが見えてなかった」
「・・ボクだけ見てたとか嘘だろ、どんだけカノジョ作ってたんだよ」
「来るもの拒まずでいたらああなってた」
「最低」
心底幻滅した。冷たい目で見ても、直矢はくじけない。
「お前と結ばれることはないと思ってたから、もうどうでもよかったんだ。男を好きになることなんてないって言ってたし。でも女子になって、望みがあると思ったんだ」
そんな理由が通じるかよ。僕は、腹が立ち思わず怒ってしまった。
「お前は女子にもボクにも失礼だ!」
「じゃあどうすればよかったんだよ! 俺だってお前を好きになんてなりたくなかった!」
「・・っ」
好きになってって言った覚えはないんですけど!
「ずっと前から好きなんだよ・・」
「ずっと前からっていつから」
僕は、まっすぐ直矢を見て尋ねた。
「はっきりとは覚えてない・・けど、小学五年の頃くらいから・・お前がかわいく見えてきた」
小学五年の頃・・。
だったら、僕の方が早い。
僕の方が、先に直矢を好きになった。
「失敗してもくじけずに何度も挑戦するところとか、男子にからかわれる女子をかばって、優しくて」
「ん?」
「あれ?」
と、僕たちは首をかしげた。
僕は女子とまったく話せなかったはずだけど、昔はむしろ女子のほうが話す機会が多かった?
逆に男子といえば恵太とくらいしかまともに話せなかったような気がする。
いつから女子と距離を置くようになったんだろう。
「昔はお前の方がモテてた・・んだっけ・・?」
「えぇ? そうだったかな」
なんだか腑に落ちないな・・。
「ま、今は女子の友達できたんだろ。恵太から聞いたぞ」
「あぁ、高菜のことか」
「高菜・・って、崎野高菜か?」
「ん、たぶん」
そういえば、苗字知らなかったな。
「この前はびっくりしたな、あんなアクティブな崎野、見たことなかったし。崎野、クラスで友達いなさそうだから意外だったよ」
「え、あんないい子なのに友達いないのか」
そういえば恵太もそんなこと言ってたか。
「城崎、ぶりっ子してるって言われてたぜ。お前の見解は?」
「かわいいと思う」
「ま、一般的な男子の意見だな。あいつはああ見えてわりと人気だ」
つまらなさそうに直矢は言う。
「気をつけろよ、モテる女子が二人そろって恨みを買わないようにな」
モテるつったって、僕は直矢と遥希と恵太以外の男子とは話してない。
「はぁー抱きしめたい、こんなに近くにいるのに」
「無理、近寄るな」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ、な?」
「ふざけんな、ボクは帰る!」
キレながら部屋から出ると、直矢は強引に抱き寄せてきた。
「っ!!」
殴ってやろうとしたが、強い力で抵抗できない。
「好きだから触れたいし、ずっと一緒にいたいって思う。ずっと思ってたけど、女子になってから・・」
そこまで言いかけて、直矢は僕の体を離した。
心臓がばくばくいってる。その感じから恵太のことを思い出し、僕はこいつのことも好きなのかと疑ったが、だれに抱きしめられたって強くされたらこうなる。たぶん。
「ごめんな、これからは、みんなの前ではおとなしくする。じゃあ、また来いよ」
「う、うん」
あれだけ悩まされていたのに許してしまいそうになる。
なぜだろう。
僕の初恋が直矢だからなのか。




