マネージャ
マネージャ生活はすぐに始まった。
速攻で、部室へ挨拶しに行き、ほかの女子マネにも紹介された。
「朱音だ、仲良くしてやってくれ」
「朱音ちゃん〜? やったぁ、女の子だぁ、マネージャだよね! 選手じゃないよね!」
「これ、高菜」
恵太はそれだけ言うと、練習場へと行ってしまった。僕は、高菜という女の子と二人だけになってしまう。
「体操服ある? 選手は道着があるけど、マネージャは体操服でやってるんだぁ」
「あるよ、着替えてくるね」
「マネージャの部室わかんないでしょう? 一緒に行こう!」
高菜は、ホワホワした女の子だった。色素の薄い髪に、白い肌。力もあまりなさそうに見える。
後ろ姿を見ながら、この子もさっきの女子みたいに豹変するのかななんて考える。
「これがぁ、雑巾でぇ、これがぁ、コップでぇ」
間延びする声で高菜は部室にあるものを色々教えてくれた。そして、着替え終わると、必要なものを一緒に運ぶ。
「わぁ、すごいよぉ、朱音ちゃん! いっつも4往復してるところを2往復で済ませられるよぉ!」
「よ、4往復もしてたの・・」
見ると、高菜は少ししか荷物が運べていない。それでも腕がぷるぷるしているのでそれが限界なのだろう。
か弱い女の子だな。
すべて運び終わって、ドリンクの準備をし終わり空きの時間になる。僕は高菜に質問をした。
「なんでマネージャやってるの」
「恵太に誘われたからだよぉ。恵太とは小学校のときから友達なんだぁ」
「へぇ。こんなかわいい友達がいるとは知らなかったな」
「かわいい? えへ、ありがとぉ」
僕も直矢ではなく、こんなふらふらしてる幼馴染がいたら心配で自分の近くに置いておきたい。
ん? なんで恵太は大事にしてる幼馴染がいるのに、僕のこと好きなんだ?
「朱音ちゃんはなんで?」
「ボクは、中学のとき剣道やってたから、その経験が生かせると思ってやってみることにした」
「そうなのぉ? すごーい!」
この子と話していると、なんだか気が抜けるな・・。
そのあとも、少し雑談しつつマネージャの仕事もこなしつつで、その日を終えることができた。
帰りは高菜と僕で帰らせてもらった。
「いつもは恵太と帰ってるのか?」
「ううん、恵太は残ってまだ練習してるから一緒に帰れないんだぁ。でも待ってたら怒られるの」
直矢と帰らなくても済むし、高菜とも話せるし、マネージャをするのは一石二鳥だった。
* * *
「おい、昨日、響子に呼び出されてただろ」
「・・」
「おい、朱音」
「・・」
「こっち向けよ!」
「もうお前とはしゃべんなって言われてたんだよ!」
朝、登校時、僕は直矢と喧嘩していた。
「は? なんで?」
「っ、すぐ掴む癖やめろよ!」
腕でも肩でもすぐ掴んでくる直矢に僕はブチギレていた。
「離せ!」
「じゃあちゃんと話してくれって!」
「いやだ、こんなとこ見られたら・・!」
ばたばたと暴れていると、遠くから声が聞こえてきた。
「朱音ちゃーん! どうしたのぉ!」
もたもたと走るその姿、完全に高菜だ。直矢といるところを見られたら高菜も気分を悪くしてしまうかも。
「早く離せ!」
「それよりあの女は誰だ? お前のこと呼んでるけど」
結局、解放されないまま高菜は至近距離まで来てしまった。
「た、高菜、これは違うんだ、こいつが無理やり・・」
訴えると、高菜は眉をひそめた。怒っているようだ。
やっぱり、直矢は疫病神だ。せっかく高菜とは仲良くやれそうだと思ったのに・・。
「朱音ちゃんが嫌がってます、やめてください!」
高菜はいつもの口調とは違い、はっきりとそう直矢に言った。
「朱音ちゃんを離して!」
そしてぐいぐいと直矢の腕を引き離そうとするが、力がまったくなくほぼ無意味。
しかし、直矢はあっけにとられその手を離した。
「逃げよう、朱音ちゃん!」
そう言って、高菜は僕の手を引いて教室まで連れて行った。
僕が女子と手をつないだのはこれが初めてである。




