器用
文明が発達した社会で、ロボット達は”一人”と、数称されていた。随分と昔にロボット法が改定され、
IQ
PQ
SQ
の所謂、3Q(Three Quotient)が一定値を超えた機械をロボットと呼び、それ以外は工業製品や装置と区別されたからだ。
さらに、ロボットの中に名前を与えられる人達がいた。その、ロボット達にはそれぞれに特化能力を身につけている。
都会を歩く人、商店街を抜けていく車、活気溢れる色や音や匂い。
そこに一匹の鉄蠅が乱雑に飛んでいた。しかし突然、鉄蠅の軌跡は一人のもとへ猛スピードで飛んでいき、そして、手にピタッと付いた。
「あ、すまない。」
と、男は言い、再び鉄蠅は飛んでいった。彼の名前はマグネットワン。
特定の方向に磁力を作用出来るのが彼の特化能力だ。名前を持つ彼の仕事はとても地味だった。
それは清掃ロボットには出来ない、細かいゴミを片付ける事だった。
清掃作業には社会の余分なゴミを集める事と、清掃ロボットの手伝いが含まれていた。
この発達した社会では、優れた名前を持つ彼もサラリーワンズとしての価値しかなかった。
※IQ
Intelligence Quotient:知能指数
※PQ
Performance Quotient:性能指数
※SQ
Safety Quotient:安全指数
※鉄蠅
機械生命体の昆虫の総称である機虫の一つ。ロボットと同じように虫としての3Qが存在する。
鉄蠅はなんらかの社会的管理の為に使われる事が多い。
※マグネットワン
多くのロボット同様、能力を指し示す名前とワンツーのように数称の組み合わせで名前が決まる。それぞれには更に個別識別コードが存在するが、大抵のマグネットワンはどれも3Qに対する個性が違う。
※サラリーワンズ
現代のサラリーマンのようなもの。