好いて消える
私の想い人はいつも消える。
病気なのか、私の頭がおかしいのか分からないけども、好きだと思った人は大抵消える。
例えば両親。
二人とも存命だが、私の目には二人とも死んで見える。幽霊よろしく、透けて見えるのだ。これは物心がついた頃からそうで、一度だけ両親のことを「幽霊みたいだ」と言った時に得た右頬の痛みは時折思い出す。自分が異常だと知ったのも多分この頃からだろう。もう少し自分に対して無知であれば、ここまで擦れてはいなかっただろう。奇異な目で見られることはあっても、そこそこうまくいっていたはずだ。
とは言え、人が透けて見えたのは両親ぐらいだったので、私の目のことが周囲にもそして自分にも露見することなく生きてきたのだが、終わりは突然やってきた。いくらませていようと小学生であることには間違いなく、友情関係で気が沈むこともあれば、恋愛関係で気が狂うことだってある。まあつまりは初恋をしたのだ。今では顔どころか名前すら忘れてしまった人だけれども、この私が誰かを好きになるぐらいなのだから良い人だったことに間違いない。昔から思い立ったらすぐに行動するタイプで、いざ告白せんと早速彼を探したまでは実に微笑ましい思い出だが、そこから先はただのトラウマだ。
何を思ったのか、いや恐らくは何も考えずに、その淡い恋心に気づくや否や等の彼に告白せんと、友人に居場所を訊いたのだ。この年頃の子供と言うのは、異性の名前を出したらすぐに恋愛沙汰に結び付ける習性があるもので、失敗したと自覚した私は言い訳を考え始めたのだが、友人は皆、呆けた様子でこう言ったのだ。
「誰、それ? そんな子、いた?」
彼と仲良くしていた男子にも当時の担任にも訊いたが、誰も彼も彼のことを知る人はおらず、極めつけは彼の家族ですら彼のことを忘れていたのだ。
ここまで言えば、ネタは分かるはずだ。まあつまりは、私が好きになった人は消えてしまうのだ。その思いの程度に拠るらしく、残酷なことにその恋心と共に彼の存在を忘れた頃に例の彼が戻ってきたのだから、その恐ろしさたるや、それ以降私は二度と恋をするまいと決めたのだった。
はずだった。
「あなたのことが嫌いよ」
これが最近の私の口癖である。
本日何度目かのそれを私は言うが、隣を歩いている彼は意に介さず、「雪が綺麗だね」と騒いでいた。
この地域は滅多なことで雪が降らないと言うのに、降ったどころか何十年ぶりの積雪だった。
息を呑むような銀世界は確かに綺麗だったが、だからこそ私は雪が嫌いだった。
「まあまあ、せっかくの雪なんだし、今日ぐらいはその仏頂面を捨てなよ」
「生憎、私は冬が嫌いなの」
出来るだけぶっきらぼうに私は言うが、「それは残念」と彼は透き通る笑顔を見せた。
柔らかく、そして淡い彼の顔を見るたびに、忌々しげに呟いた。
「そう言うところ、大嫌い」
ああもう、本当に嫌いになってしまえば良いのに。