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HeavenよりHellな愛しい世界(仮)  作者: crooze
Scene1-UnderCity
3/7

笑う二人、嘲笑う一人

「この契約内容ではどうだろうか……」


 目の前のソファに座るのは気が弱そうな中年の男。タキシードをきちんと着こなした所謂「正装」であるが、他の権力者達のような威光やカリスマがあるわけではない。唯の「成り上がり」という印象を受けるような男だった。

 口調こそ丁寧なものの、彼の表情からは明らかな嘲りの色が浮かんでいる。当然か。「アンダーシティの主」がまさかこんな幼い少女だとは思いもしなかったのだろう。

「アンダーシティの主」という大層なネームヴァリューを持っているボスが、こんなひ弱そうな少女なんて誰も思うまい。


 ……私はそこまでひ弱ではないのだけれど。それに、見た目で全てを判断しないで頂きたいわ。


 そう思いながらも、顔には出さす主たる少女……リアルは男を見てこっそりと溜息をついた。

 漆黒の美しいつやのある長い髪をのばし、大きな胸を強調するように大きく胸の部分が開いた漆黒のエレガントなイヴニングドレスを着てヒールの高いミュールを履いた、怪しい色香を醸し出す美しい少女。


 この少女こそが、「明けない夜の街」――アンダーシティの主でありボスの「リアル」であった。



 豪奢な装飾のされた革張りのソファーにもたれ掛って、彼女は考える。

 断るのは簡単だ。何せ彼の持ってきた商売内容というものはあまり容認されていないもの。


――人身売買。

 アンダーシティの近くにあるリート王国ではさかんに行われているものの、それ以外の共和政を敷いた国などでは嫌われている商売だ。

 宗教的にもよくないとされるそれを、アンダーシティで合法にするわけにはいかない。


 アンダーシティは確かに「欲望」と「金」の街だが、その実態は余りに危ない均衡の元成り立っているものなのだ。

 これ以上アングラに手を染めてしまえば、面倒臭い事になりかねない。

 勝手にやってもらうのは結構だが、此方まで手を出すわけにはいかないという事をこの男は理解しているのだろうか。


 全く、面倒臭い。

 本当はこの後、自分の持ち物であるカジノに行って楽しむついでにあの兄妹を可愛がってこようと思ったのに。

 にしても、あの狸髭男の紹介だなんて……何を考えているのかしら、こんな怪しい男に紹介状を書くなんて。

 …………やっぱり怪しいわ、後で「アマルティア」にでも依頼しておこうかしら。



 思考はカジノから目の前の男を手引きしたであろう人物へ。

 ここは商談の交渉の場だが、リアルは全くその事を気にしていない。断る事が確定しているのだから、これ以上考える必要もないのだ。


 利益と代償が釣り合っていないなんて、考えるだけ馬鹿らしい。

 態々こんな危ない橋を渡る必要が何処にあろうか。

 何時もだったらこんな商談なんて受けないのだが、紹介した人物の手前断れなかったのだ。



――ウォルター・ワード・ヘルナンデス。

 いかにも「偽名」と言った名を持つこの男こそが、アンダーシティにおける第二権力者であった。

 アンダーシティの功労者の一人であり、リアルに意見できる権力者の一人である。


 ……だが、そんな肩書きとは裏腹に、此の男、ものすごく子供の様な所があった。ノリと気分で行動する、どこかの情報屋のような性格であり、リアルもそんな彼のノリに付き合わされたことが何度かある。苦手ではないが、もう少し自覚を持って行動してくれないかな……というのがリアルの彼への思いであった。


 唯――彼がそんなノリで此処に紹介状を書く訳が無い。ノリはいいが、きちんと区別はつける人間だ。私事を仕事に持ち込むような人間ではない。

 故に、この男には何かがある。


 そう結論に至ったリアルは、テーブルに置かれた書類を一瞥して断りの言葉を発した。

「残念だが、この商売は私達にそう利益がありませんわ。今の世界情勢を見れば、この商売がどれほど危ないかお分かりでしょう?他の商売で出直してきて下さいな。……ああ、勿論私達に関係なく商売をするのは結構ですわよ?」


 丁寧に語ってはいるが、要約すると「話にならない。ほかのもので出直してこい」である。


「くっ……」

 その言葉に、目に見えて狼狽えてリアルを睨み付けてくる男。

 しかしリアルはあっさりと受け流し、ドア……出口の方を指差した。

「ふふ、お帰りはあちらですわ。此方は貴方と違って忙しいので……さっさとお帰りになられたら如何ですか?」


 リアルの挑発の言葉。


 足元を見られたと思ったのか、男が激昂した。

「…………ふざけるなあ!たかが小娘があっ……いい気になりおって」


 そう怒鳴った男性が何かを呟いたとたん、足元に黄色に輝く「魔方陣」が生まれた。

「あらあら、この程度の挑発に乗ってしまうとは……ウォルター卿も落ちたものですわ。やっと目でも腐ったかしら」

 輝く魔法陣を見ても、リアルは笑みを崩さない。


――優雅に、華やかに軽やかに。

 彼女はその信条の通りに、余裕を崩さない。

 男はそんな少女の様子を見て、益々激昂して魔力を高める。


 強まる光。

 小さく音を上げる電撃。


「殺してやる……!!」

 そのとたん、電撃が部屋全体に降り注いだ。

 眼を焼くほどの光が一斉にリアルに襲いかかる。

 豪奢な部屋が、放出された魔力で陽炎のように揺れた――


 リアルの言葉は無い。

 電撃によって巻き起こった破壊によって、周りをまだはっきりとは確認していないまま男は手を広げて勝利に酔いしれた。


「ははっ……この程度の奴がアンダーシティの主だとはなあ!」



 そして――


 嘲笑う男の首もとに、突如冷たいものが当たった。


「――――え?」


 突き付けたのは――男ではなく、其処に居た筈の少女だった。

 突然のことに固まる男の後ろで、リアルはどこからか取り出した金で出来た蛇の装飾のされた豪奢な杖を男性の首に当てながら嗤う。


「チェックメイト。もう少し確認すべきですわね、愚かな商人」



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