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HeavenよりHellな愛しい世界(仮)  作者: crooze
Scene1-UnderCity
2/7

カジノの一角

――その空間は、まるで別次元の世界だった。



 豪華で華美な外装と内装に、ドレスコードを守り正装している男性に女性達。

 美しく、光沢が出る程に磨き上げられた大理石の床に、新品同様の多種多様なスロット台が鎮座している。


 同じく磨き上げられた、新品同様に輝く一目で高価なものだと分かる一品物のカジノテーブル。綺麗に並んだテーブルにつくのは、客と同じく正装した美しい少女、少年、女性、男性のディーラー達。皆気品があり、これだけでこの空間が唯の場所ではない事が分かる。


 今もタキシードに身を包んだ身なりのよい男性が、カクテルドレスに身を包んだ女性をエスコートしてカジノに入っていく。

 ここのカジノはゲームの前、現場で両替する形式を取っているらしく、入り口から入ってきた男性と女性の二人組はそのまま興味のあるテーブルに向かっていった。



 他とは一線を画した異世界。

 特別な人間しか入れない特別な空間は、今日もセレブやお金持ち、貴族で賑わっている。

 アンダーシティのほぼ中央に位置する、この街の主の所持品は金に塗れたアンダーシティ内に立つ建物の中でも随一に目立っていた。




――そう、ここは所謂「カジノ」である。

 この街「アンダーシティ」でも一番の規模を誇る、今一番人気のある賭博場であった。


 その一角で、まさに勝負と言う名の賭けが行われていた。



 言葉と共に、ポーカーテーブルに出されるのはバラバラのトランプ。

 その声は、三者三様でそれが彼らの結論を決定づけていた。


「フォア・カード」

「ツウ・ペア」

「······なし。ノー・ペア」

 最初の一人は期待まじりに、次の人は溜息をついて、まあこんなものかと表に出す。

 最期の一人は言いにくそうに呟いて、投げるように五枚の記号(スート)も数字も揃っていないカードを公開した。


「残念でしたあ」

 一人、楽しそうな声がそのゲーム中に響く。


 綺麗な金髪をサイドで結び、胸の谷間が大胆に見える黒を基調としたカクテルドレス。

 まだ成人しておらず女としても未成熟だが、その姿は年頃の少女が醸し出す幼い色気と艶めかしさに包まれている。

 サファイアのような蒼き瞳に桃の様な赤い唇は蠱惑的で、目の前にいるいい年をした男性でさえも顔を赤く染める程だ。


 成人したら、どれほどの美女となるのだろうか。

 そんな予想をしてしまう程の美少女ディーラーは、笑みを浮かべて五枚の記号(スート)も数字も揃ったカードを場に出した。

 公開されたカードと宣言の言葉。さっきまで少女に見とれていた男達はそれを見た瞬間、絶望の表情で項垂れた。


 彼らの手札では、どうやっても少女に勝てないという事が分かってしまったのだから。

 いや、彼女と同じポーカー・ハンド()でなおかつスペードの記号(スート)で揃えられれば勝てたのだが……そもそもこのポーカー・ハンド()自体が60万ハンドに1度の確率で完成すると言われる程のとんでもなく運と引きを必要とするものである。


 ロイヤル・ストレート・フラッシュ。

 ストレート・フラッシュでなおかつ同一記号(スート)で揃えた、ポーカーの最上級ポーカー・ハンド()であった。

 勿論、三人の男性達が作ったポーカー・ハンド()よりも強い。

 ……ファイブカード?5枚とも同じ数、ジョーカーを入れるか、トランプを2組以上使わない限りできないからありません。



「ロイヤル・ストレート・フラッシュでーす」

 10.J.Q.K.Aの揃った数字に、全てハートで揃えられたカードの組み合わせ。

 記号(スート)ことスペードではないものの、そのポーカー・ハンド()は最上級のもの。

 このポーカー・ハンド()が出来た時点で、彼女の勝ちは決まっていたのだ。


 ポーカーテーブルに積まれたチップを見て、少女は嬉しそうに笑った。

 もうすでに何度も見た光景だが、やはりこうして見ると嬉しいものだ。



――神に愛されたディーラー。


 兄と共に、このカジノに雇われたのは三年前の事である。

 捨てられていた兄妹を拾ったのは、このカジノの持ち主であり街の主たる少女。

 漆黒の闇の様に美しいつややかな髪を持った、この街を取り仕切るボスたる美少女。



 どこのカジノにも、そのカジノを取り仕切るボスがいる。

 なかでもこのカジノを取り仕切るボスたる少女は、アンダーシティの主たる美少女。

 数あるボスと出資者の中で、最上位に位置する存在。


 本来ならば、お目通りすら敵わない程の雲の上の人物だろう。

 そんな存在が何故自分達に目をつけたのかは分からないけれど、確かに彼女は、ボスは兄妹の命の恩人であったのだ。

 それに、この街の主がボス。

 街の主に逆らうような、愚かな人物何ていやしないのだ。

 逆らったらどうなるかなんて、アンダーシティでは暗黙の決まり事。



――この街、「アンダーシティ」では金が銃と同等の価値を持つ。

 金が全ての街で、態々この街の主に楯突くような真似はしないだろう。

 そんなボスの下につけるなんて、なんて僥倖。なんて幸運なのだろうか!


 故に彼女、ヴァイスはボスを尊敬していたし感謝していた。

 客は彼女と兄を「神に愛されたディーラー」だと呼ぶが、そもそも二人をボスが拾う事はなかったら、いくら神に愛されるほどの運があったとしても兄弟は早いうちに餓死していただろう。その辺でのたれ死ぬ他の子ども達と一緒だ。


 兄妹達は偶々ボスに拾われただけの、単に運が良かった子ども達なのである。

 それを少女、ヴァイスも兄であるシュヴァルツも知っていたからボスの為に働くのだ。

 それに今、ボスは兄妹の事を気にしてくれているらしい。

 期待してくれている、それだけでヴァイスには笑顔が浮かぶ。



 彼女が信じるものはボスと兄であるシュヴァルツだけ。

 とぼとぼとチップを吐き出し、出口へ向かっていく男達を見送って次にやってきた客を見た。


 次にやってきたのは男性と女性の二人組、そして男性の三人。


 男性はドレスコードによってタキシードで正装し、女性も落ち着いた色合いのイヴニングドレスを着ていた。おそらく夫婦なのだろう。

 アンダーシティは金と欲望と退廃の街、とよく言われるが別に全てが全てそういう訳では無い。

 確かに黒い事もあるが、基本アンダーシティはカジノシティでありこの夫婦達のように「リゾート」で楽しみに来る客も大勢いるのである。

 金儲けではなく、各地の貴族たちが暇つぶしにやってきた楽しむ、そんな「遊び」でもあるのだ。

 暇つぶしに小銭を稼いだり、ゲームをして勝利の余韻に浸ったり。



 座った客を見て、彼女は微笑みを浮かべながらカードをシャッフルする。

 この目の前に座っている客達とは、どれだけいい勝負(賭け)ができるのだろうか、と楽しみにしながら。


「ポーカーテーブルにようこそ。ゆっくり楽しんで行って下さいね」



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