3章 I MY ME MINE
「ハァハァハァハァ」
「ここ、どこだ?」
自分勝手にユキとあの女の子を置いて
きちゃった。あー、過去に戻りたい。
いい歳してこんな子供じみた事...
振り返るだけで顔が赤くなる。
なんであそこにあの女の子がいたん
だろうか。今考えると不自然だ。
僕に嫌いとか罵倒して屋上を去ったのに
「お兄ちゃーーーーん!」
もう、お兄ちゃんどこにいったの。
私のせいだ。私のせいで、お兄ちゃんが
「低空性飛行魔法」展開!
今は魔法を使うしか方法はない。
「あ、あれは。」
やっとユキ・アレクレイターを見つけた
のに、魔法で飛んで行ってしまった。
「て言うか、 低空性飛行魔法?!」
「あんな高難度な魔法も使えるのね」
低空性飛行魔法とは、上級魔法師に
しか扱えない代物。元々は警備用に
作られた魔法で、
《魔法記号入力用小型端末》
と言う魔法学校の生徒一人一人に
持たされている魔法の入力に加え出
力をする端末におよそ、何十通りの
記号を打たなければならない。
そして、それには才能も加わる。
魔法の名前を言って、展開
を完了する。
名前の通り、低空を自由自在に動き
回る事ができる、人間の理想から生
まれた魔法だ。
「早く追いかけて謝らなくては。」
「あの兄弟に.........」
「はぁー」
僕はいつもこうだ。後先考えず、そして
ユキの気持ちも考えず、すぐに行動に移
してしまう。過去にも何度かこんな事が
あった。気がするような.....
「君は、シュン・アレクレイター君かな?」
一般男性よりも少し低めの声で冷たく僕
に呟く。
突然現れたその男に動揺した。
気配も音もなかった。
「そ、そうです。」
咄嗟の事で震え紛れの返答が相手に伝わ
る。
「あなたは?」
「私の名前は、シュタイナーと申します。」
どこかで聞いた事のあるような名前だった。
「どこかで、お会いしました?」
シュタイナーと名乗るその男はニヤッと
笑い、言う。
「......いや、初対面です。」
爽やかに笑い、和やかに言う。
「さぁ、本題に入りましょう。」
男の表情が、一変する。
「......」
「今日ここに来たのは、あなたとお話をしたいと、思いまして。」
「話?」
「はい。」
「もしよければ、私と一緒に来ませんか?」
「来るとは。ど言う意味ですか?」
............
「簡単に言うと裏社会です。」
僕の頭の中は今現在処理が追いついていな
い。だが、裏社会。この言葉はどこか引っ
かかるところがある。アレクレイター家の
先祖は暗殺組織。すなわち裏社会の存在だ
ったど言うことだ。
「なぜ、僕なのでしょうか。」
「君は唯一暗殺術を教わった逸材だからです。」
「この、平和で安全が保障された街は、 殺傷の類いは禁じられています。魔法警備隊による犯罪者の処刑は愚か正当防衛での殺傷さえも許されない。私達はそんな腐ったルールを壊変する!」
「なっ。」
「私達の組織名は。PERIODです。」
「ピリオド?」
「はい!ピリオドとは英語の文章の文末に
うつ、黒い丸。つまり、私達が文末に使
う『。』と同じようなものです。」
「この世の中に終止符をうつと?」
男はニヤッと笑い言う。
「ご名答。」
〜回想〜
さっき、あの男が言っていたように、僕は
唯一、暗殺術を知っている。いや、知って
いるのではなく、叩き込まれたと言った方
が正しい。過去に起こった三代大陸戦争の
最終決戦、第三次の真っ只中に生まれた僕
は天下の大企業のアレクレイター家ではな
く、暗殺組織のアレクレイター家として育
てられた。記憶は薄いものの、生まれて間
もない頃にはもう暗殺術の基礎知識を毎日
繰り返し聞かされていた。
その翌年、最終決戦も終戦を迎えたと同時
にユキ・アレクレイターが生まれた。
ユキが生まれた時にはもう暗殺組織のアレクレイター家ではなく、天下の大企業のアレクレイター家として生まれたため、もう暗殺なんて技術を教えられなくてすんだ。
大企業が暗殺組織だったなんて情報が回ると
国民の不満を買うことになるからだ。
終戦後は多くの国民が食料やお金に困り、
この国は治安が不安定だった。
だが、アレクレイター家は戦争の大きな貢献
により、食料にもお金にも困らないよう、国
から資金援助や食料の援助を受けていた。
そのため、終戦後のボロボロの国でもなんら変わらず普通の生活を送っていた。
その代わり僕は外の状況などが全くと言っていいほど知らなかった。ゆえに社会とは無関係の中、隔離された部屋で幼少時代を過ごした。そのため、他人との触れ合いやコミュニケーションの取り方なども分からないまま。
《国立魔法技術統合学校》
に入学した。もともと10歳から入学できる
この学校には13歳の時に編入という形で入
学した。
普段の生活とは一変し、身近に他人がいる。
他人とは話したことがない僕にはキツすぎ
る現状だった。まさに地獄絵図だった。
その上、アレクレイターと言う文字が名前
の後ろについているだけで、教師や生徒か
らは特別扱いされ、休み時間となればクラ
スメイトが僕に何人も何人も視点を合わし
もてはやす。近寄れば逃げる。話し掛けら
れれば話せない。そんな事を何度も繰り返
し、最終的には耐えられなくなり....
不登校となった............
「なぜ今更暗殺術なんかが必要なの?」
「この世界で絶対的であるものは魔法。だけではないんですよーーーー?」
意味ありげに言う。
「だけど今更体術なんて......」
「そりぁー、真正面からヤリ合えば確実に負けます。ですが、背後からやきずかれずになら...」
最強かと............
「むやみに使うのではなく、特性を生かし分相応に使い分ける事がミソなんです。」
確かに僕はこの世界で指で数えられる
くらいしかいない、暗殺術の持ち主だが
犯罪を犯すことについては気がひける。
「僕は、行きません。」
「......そうですか。残念です。 では、またいつか......」
男はそう言い残し、突然と姿を消した。
「おにーーーーーちゃーーーーーん!」
そして、どこからともなく聞こえてくる
その声に反応し、辺りを見渡すが、どこ
にもいない。声の発信源をもう一度探知
し、その方向へと目をやる。
「え............」
ぼくはその瞬間目を丸くした。
その先には泣きながら空から落ちてくる
1人の少女の姿があった。
「ちょ!やば...やばいって!おい!」
「おにーーーーーーちゃーーーーん!」
「止まれユキ!!あーーあーー。」
「おにーーーーーーちゃーーーーん!」
「ガハッ!」
減速もせず勢いよく落ちてきた妹が僕の
お腹めがけて激突。
その瞬間視界が眩む。何秒か目をつむった
ままだったが目を開けてみれば.........
はだけた妹が僕の体にまたがった状態だった。
「あの、えー、ユキさん?」
「心配したんだよ?お兄ちゃん!」
僕の話は全く耳に入ってないらしい。
「心配かけたなー・・・、ねぇユキさん? 」
「お兄ちゃんがどこにいったか分からなく て、もしなにかあったらどうしようって 何度も何度も思って、考えるだけですごく悲しくなって......」
やはり俺の行った事は耳に入っていない。
「わかった!わかったから!まず僕の体から降りようか。」
顔が赤くなっていくのがわかる。
怒るとおもいきや、
「お兄ちゃんなら......いいよ......」
まるで恋する乙女。そんな表情で言う。
「バカ言うなーーーーーーーーー!」
そして極め付けはこれだ。
「あ、あ、あんた達!そういう関係?!」
僕を罵倒した屋上のあの子が目撃し、
震えながらも言う。
はぁ.........
泣きたい。