家に帰る
私が目覚めて三日が経ち、ついに退院の日がやってきた。お世話になった柳沼先生にお礼を言い病院を後にした。お父さんの車に乗り、家に向かっていると嫌な過去ばかり脳内をよぎる。
「あんたさえいなければ。」
昔そんなこと言われたな・・・。家に近づくにつれてフラッシュバックしていく。どんどん暗い表情になっていく。それをみたお父さんとお母さんが複雑な顔をしている。二人を支配しているのは罪悪感。そんな気持ちが私に伝わってくる。伝わるぐらいに濃い感情なのだ。見慣れた風景を過ぎていくと、そこには私が今まで虐待され続けていた家があった。庭には、山茶花、椿、躑躅など花木系が多く植えられていて彩り豊かにされている。カーポートにお父さんが駐車して車から降りる。そしてドアを開けてくれる。
「桜、家に着いたよ。荷物もとうか?」
お父さんが、手をさしのべてくれている。私は、荷物を渡そうとして一瞬硬直してしまった。目の前に見える我が家。よみがえる罵声。痛み・・それらが一気に私に押し寄せてくる。それらのすべてが私を追い詰め、命を絶とうとさせそして殺されたんだと思うと恐くなった。変わろうと決めたのに恐怖が私を足踏みさせる。それでも前に進みたいそんな一心で言った。
「ありがとうお父さん。じゃあこのかばんをお願い。」
とその恐かったお父さんの手に荷物を預けた。私の命は限られているから後悔はないようにしたい。その頃お母さんは、他の荷物をまとめて玄関前で立っていて私たちを待っていた。
「早くなかにはいりましょうよ。今日は退院祝いをするわよ。」
なにやらせかせかとしていた。それをみた私とお父さんはなんだかおかしくなってきて笑いながら後に続いた。最初に気になったのは私の部屋だ。最期に見たときは、机もベッドもない窓に鉄格子までついてる監禁部屋みたいなところだった。
「私の部屋・・どうなってる?」
「・・あれは私たちの過ちを具現化しているようなへやだったな。お前に辛い想いばかりさせた部屋だが今は違うはずだよ。好みは知ろうとすらしてなかったから気には召さないかもしれないが見てきてくれ。」
と懇願するように二人は言う。私は、複雑な気分になってはいたが自室に向かう。私の部屋は、二階にある隅の部屋だ。扉に前に立ち恐る恐るドアノブを回して開けてみた。そこには、監禁部屋のような雰囲気があった前とは全く違う空間があった。柔らかそうなベット。ナチュラルカラーの絨毯がひかれたフロア。勉強をするのにうってつけなテーブルと座椅子。小さいが木のぬくもりが感じられそうな本棚。あのころとは全然違う普通の女の子が住むような部屋があったのだ。それを見た私は、涙が止まらなくなった。
「こんなにたくさん・・。私の部屋じゃないみたい・・。」
「年頃の女の子だから気に入ってくれるか不安だったけど・・これでいいか?」
私は、涙をこぼしながら無言で何度も頷く。そしてふたりはこういったんだ。
「我が家へ、おかえりなさい。」
その言葉で私は、ついに膝から崩れ落ち声をあげて泣き出してしまうのであった。今まで流せなかった涙を全部流すように・・・。