キセキ
扉を飛び出て目を開くとそこには見慣れないしろい天井が見えるだけだった。体を動かそうとすると、体に鈍い痛みがはしり顔をしかめた。あたりを見回すとそこはどうやら病院のベッドにねていることが分かった。そこに看護師の人がやってきた。目を覚ました私を見るなり、カルテを落とし、駆け寄ってくる。
「霧島さん!わかりますか?!病室ですよ!」
声が出しにくかったから私は、首を縦に振る。それを確認した看護師は、大慌てで走り去っていく。
「先生!霧島さんが目を覚ましました!」
そのような声が病院に響く。なにか近づいてくる音がきこえる。足音だけでは判断できなかったのだが、それを私は知ることになる。そう死んでからようやく私を見てくれた両親であった。
「桜・・・桜・・・桜ー!!」
お母さんが、泣きながら走ってくる。その後ろを、少し仏頂面のお父さんが追ってきていた。私は、それを見たとき、戻ってきたんだ・・と実感がわいた。そしてお父さんとお母さんは、ベッドのそばにやってきて・・私に抱き付いたんだ。
「生きてる!ちゃんと生きてる!桜・・ごめんね。いままで本当にごめんね。でも、これだけはいわせておかえりなさい・・。」
「とんだバカ娘だ・・。・よく帰ってきてくれた。おかえり・・桜。」
衝撃だった。いつも蔑んだ言葉しか出なかった二人の口からこんな言葉が聞けるなんて・・。温かい・・。これが、お母さんとお父さんの温もり・・。私の目からも一縷の涙が流れ落ちる。声が震えることはわかっているけど、今言わなきゃ後悔する。
「た・・ただ・いま・・。お、お母さん。お父さん。私・・帰ってこれたよ・・。長い夢を見てるようだった。お父さんとお母さんの泣いてる声、聞こえたよ・・。謝ってるのもわかったけど・・私は許せない。だから今度こそは、最後まで愛してね・・。」
そうそれは、初めて口にする相手を許せない気持ち。感動的なシーンではあるけど、私は時間が限られているんだ。今度こそは、胸をはって生きた!と言えるよう悔いは作らない。扉の前で決めたことの第一歩だ。それを聞いた、お母さんは、完全に泣き崩れ今までの謝罪の言葉と私と約束をしてくれると言わんばかしにうなずいていた。お父さんすらも、片手で顔を隠し泣いていた。それをみた私は、満足だった。ひとつ願いが叶いそうだから。そこへ先生がやってくる。
「そ、そんなことが・・。ついさっきまで何度も危険な峠の中にいたのにいったいなぜ!?なにはともあれ目が覚めてよかった。わかるかい?病院だよ。僕は、柳沼啓だよ。わかるなら反応して?」
「はい・・。聞こえますし、わかりますよ?柳沼先生・・私はどうしてここに?」
屋上から突き落とされたことはわかっているがあえて聞いてみる。すると先生は言う。
「君は、自殺をしようとして屋上を飛び下りたんだよ。覚えてないのかい?」
やっぱり、そんな風になっていると思った。それなら突き落とされたことは伏せとくのがいいだろう。
「そうですか・・。先生、たすけてくれてありがとう。」
私は、上辺だけになってしまうがお礼を言う。先生は、無言で頷く。
ここから、私の見返すための半年が始まるのであった。