第二話 過去、そして急患
ーーーー母は人間で、父はインキュバスだと聞いている。
インキュバスは本来人間の女性を襲う淫魔として恐れられていたが、父は母を本当に愛しており、母も父を愛していた。まさしく相思相愛だったという。
そして2人の間から生まれた子が俺だった。しかしインキュバスと人が混同した俺はカンビオン、という存在としてこの世界に生まれ落ちた。
カンビオンは天使のようなその美貌と高い知識を宿す。だが性格は冷酷かつ非情と言われている。
だが、生まれてきたのは人の形すら成していない醜い肉塊だったらしい。
原因は母が強力な魔法使いで尚且つ俺との魔力の相性が合わなかった為に拒否反応を起こしたのだ。
普通の人の子なら親から魔力を受け継ぐが故に拒否反応なども起こるはずもなかった。だが俺は母と父の魔力が混ざり合いさらに母のお腹の中で既に自分自身の魔力を錬成したことが原因だった。
本来、魔力の供給は母親から延々と送られるのだが俺は胎児の時点で自らの固有の魔力を生み出していた。本来個人の魔力の錬成は母の胎内から出され、へその緒を切断されたところから始まるのが自然の理、それが普通である。
だが、俺はイレギュラーとして生まれた。
ただの肉塊だった俺を母と父が必死に治療魔法や蘇生、できる限りのことを尽くし、俺は人に戻るができた。
俺が無邪気な笑顔を見せる赤ん坊になったのは生まれてから6年後だった。そして俺が笑顔を向ける先に、母の姿はなかった。
俺にありったけの魔法を行使した母は、偉大なる魔法使いといえどもほぼ休まず魔法をつかったことによる魔力の低下とかつ拒絶反応を起こしたことなどが原因で体が衰弱しきっていたため、亡き人へと変わってしまった。
そして父は俺を抱き抱えて必死に逃げ回った。
母は魔法使いだったがその傍ら上級貴族でもあった。国にとっても重要な人物だった彼女を死なせた原因だとといいがりを付けれた父は俺を連れて国から逃げ出した。元々悪魔と人が愛し合うことを蔑視していた国の人間にとっては好機だったのだろう。
父は様々な国を渡り、逃げ出したが、最終的に教会の魔法使いに見つかり殺された。その時俺は5才だった。
俺は教会の魔法使い達に連行され国に戻った。そしてそのまま俺も処刑されるはずだった。だが国はそれどころではない状況に陥っていてた。
魔王がこの世界に再びやってきたのだ。国は混乱し、急いで兵力を増大などできる限りの防衛手段を取っていた。そして好機と見た国王が俺に直々に告げた。
「死にたくはないだろう?ならば貴様は強力な魔法使いになり、この国の為に戦え。」と。
子供の俺はただ頷くしかなかった。そして俺はほぼ監禁された状態で魔法の勉強をした。牢屋の中で魔導の書物を読む日々ばかり続き、気づけば俺は18歳になっていた。
そしてある日俺にある人物が訪ねてきた。かの名をレイアス、魔王打倒を掲げ、聖剣を振るう勇者であったーーーー。
「メデューサ様ぁ!」
彼を運んだゴブリンは勢いよくドアを蹴り開け叫ぶ。
「ダメよゴブちゃん、ドアを蹴るなんてはしたない。」
簡易的なベッド、ガラス製の器具、どこか薬の匂いが漂う部屋の中、椅子に座っていた女性が呆れたようにゴブリンを見る。
「今はソレ所じゃアリマせん!急患デす!体二!勇者の剣、聖剣が突き刺さっタ人間ノ!」
メデューサはグラースを見ると急ぎ指示を出す。
「今すぐ彼をベッド体を横向きに寝かせて!あと魔王様に連絡を!」
「了解デす!」
一人は彼をベッドにそっと寝かせ、もう一人は魔王がいる王室へ向かう。メデューサは彼の生存を確かめる。息はまだある。だが時間の問題かもしれない。彼の魔力がだんだん弱くなっていくのを感じた。
「取り敢えず、できるだけの事はしないとっ!」
彼女は棚にある薬を取り出し傷口付近に塗る。これが効果があるかはわからない、ただの刺し傷などなら兎も角、胸に、かつ勇者の剣が刺さった状態の患者など今まで見たこともない。頼れるのは、魔王様しかいない。
「魔王様!魔王様!」
ゴブリンは王室に着くと扉を力任せに叩く。すると扉はゆっくり開く。
「どうした?」
そこから現れたのは5mを超す巨体、コウモリのような翼、鋭利な角を生やし、厳つい顔をしたまさに悪魔、と言わしめるような魔王だった。