第一話 裏切りの日
「くそっ!何で・・・何でだ!」
フードをかぶり、ローブを身にまとった人が走り回っている。顔や腕、足が傷つきならがも死にそうになってる体に鞭打ち、息を切らして走る。先も見えない程真っ暗闇の森の中を何処へ向かっているのかも分からず。
「あいつら・・・何のつもりなんだ!」
怒り、憎しみが湧き上がると同時に、今の状況が分からない自分がいる。いや、分かりたくない、受け入れたくない、そう思っているのだ。
「何で・・・何で裏切った!」
涙から頬からつたわる。何故だ、何故俺は【仲間】から殺されかけている?アイツらはそんな奴だったのか?分からない、まったくもって不可思議だ。分かりたくもない。だが、今の俺にできるのは逃げることだけ。
無我夢中で走り続けた。すると川岸に付いた。どうやら森を抜けたようだ。だが、此処は不味い。視界が開けておりさらに今日は満月。簡単に見つかってしまう。そう思い、森へ急いで引き返そうとしたその時ーーーー。
「・・・見つけた。」
声が聞こえた方を見る。木の枝の上に乗る一人の耳が尖っているエルフの少女。獲物を見つめるような目をした彼女は俺に矢を放った。
「ッ・・・!」
小さい悲鳴をあげつつ痛みを堪える。俺は少女を睨めつけ、矢を引き抜く。
「セリア、君もか・・・!」
するとセリアと呼ばれた少女はビクッと肩を揺らし宝石のような綺麗な瞳に小さな涙を浮かべた。だが今の彼にはそんなこと気づきもしない。彼は矢が刺さった部分に手を当て、治癒魔法を掛ける。
「グッ・・・毒か・・。」
体が痺れ、目が霞む。麻痺毒が塗られた矢で射られた彼はその場でよろける。
「うおりゃあああああ!!」
その隙を付こうと森の茂みの中から鎧を身に付け、巨大な剣を俺に振りかざす女戦士。俺はその一撃を辛うじて避ける。
「セレスティア・・・!」
「テメェ・・・!」
双方は睨め続ける、俺は反撃しようと魔法を唱えた。炎の玉を相手目掛けて放つ簡単な魔法だ。いや、体力が尽きて集中力が掛けている自分にはこの程度が精一杯だった。しかしセレスティアは巨大な剣で火を切り裂く。
「フンッ!この程度かよ!」
視界がぼやける・・・だが、俺はここで死ぬわけにはいけない。いや、死ねない。微かに残る意識を集中させ魔法を唱えようとした、その時だった。とてつもなく眩しい光の一閃が彼の体を貫いた。
「大人しく死を受け入れろ、グラース。」
金色の髪に緑の瞳、赤いマントを羽織り月明かりにきらめく剣、そしてその剣から赤い水のような物が付着していたーーー。
体のバランスを崩して後ろの川に落下する。自分の腹に剣が刺さっていた・・・勇者の剣が。彼は剣を抜き、俺の体は川の方へ落ちていていった。高い水しぶきを上げる。川の流れが早く、水上に這い上がろうにも体力が尽きた今ではどう足掻いても無駄だった。せめてもと思い、剣が刺さった部分に治癒魔法を掛けた。
そして透き通った水から見上げる。仲間が、かつて共に戦い、笑い、泣き、苦しい時も楽しい時も共にした友が俺を見ていた。そして俺も霞んだ意識の中で彼らを睨んだ。
許さない、俺が何をした、何故君らは俺を裏切った?全て演技だったのか?俺だけが君らを信じていたのか?俺はただ踊らされていただけか?俺は・・・結局1人だったのか?
心が憎しみと悲しみで溢れたまま、俺の意識は無くなった。
小さな波の音、彼はある孤島に流れ着いた。魔物が住まう島にーーーー。
「ふっふふーん♪」
「オイ、その下手ッピな歌はヤメろヨ!」
「ナンだトー!」
赤い肌の鬼、ゴブリン。ランタンを手に持ち島の岸部を巡回していた。
「俺の歌を聞ケー!ボエー!」
「うるさイ!・・・ってアレなんダ?」
「ん・・・何か動物デモ流れて・・・。」
彼らは驚愕で目を見開く。そこには腹部から大量の血を流した人間が横たわっていた。
「ドドどどドドどうしヨ!」
「お、オチツケ!」
「う・・・。」
グラースが小さなうめき声を出すと彼らはお互いを見つめ合う。
「「!!」」
「・・・まだ息がアル!医務室へ!メデューサ様のトコへ!」
一匹のゴブリンは彼を運ぼうと担ごうとした時、もう一匹が焦いで止める。
「オイ気をつけろ!傷から聖属性の気を感ジル!」
「エェ!何故ダ・・・!?」
「いいか、傷口ガ開かナいようにユックリ運ぶゾ!」
一人は両肩を、もう一人は両足を掴んで島の内部へ運んでいった。運ぶ時の衝撃で彼のフードが取れる。
銀髪のショートヘア、整った顔立ち。しかし彼の額に2本の角が生えていた。
ここは魔物が住まう孤島。魔王が住まうこの島。皮肉にも勇者一行である彼もこの島を目指していた一人の魔法使いだった。