ウェントス設定SS
創作フランス料理店『胡桃』では、和服姿の美しい妙齢の女性が、呆れた眼差しをカウンターに座る少女へ向けていた。
「千住様? 私、まさか自分の父親の身元引受人となるとは思っていませんでした」
千住と呼ばれた少女の前に稲荷寿司の乗った萩焼の皿と、伊万里焼のお銚子と杯を並べる。
細くたおやかな腕が優雅に動く様を見ることなく、千住はお銚子をむんずと掴み直に口付け、日本酒を飲み干した。
「売られたケンカを買って何が悪い?」
「大人げないですよ?」
この千住という娘、中学生ほどの身なりをしているが、その実は九本の尾を持つ『雄狐』である。所謂九尾の狐とも呼ばれるアヤカシであり、『彼』の数多くいる子供の一人が、胡桃の女将である恵理である。
歌舞伎町にて暴力団の闘争に巻き込まれ、警察に保護された千住の身元引受人として新宿警察署から店に連絡が有った時には、恵理は驚き、慌てて警察署へと駆け込んだ。
実際のところは、暴力団の組織員に喧嘩を売られた千住が、ムカついてリンチをしていた所を警察に見つかり、外見から『千住が、暴力団に拉致監禁させられそうになった』と勘違いされ、保護されたのだ。
千住の足元に伸びていた屈強な男たちは、同士討ちか、分け前等を揉めて喧嘩になったのだろうと結論付けられた。
男たちにした所で、中学生にコテンパに伸されたなど口が裂けても言えないだろうから、真実は文字通り闇にまぎれて行ったのだが、気にする者は誰もいないだろう。
「今回は開店前ですから何とかなりましたけど……こんな事が続いては困りますわね」
「ばぁちゃんも、ジィさんの世話で大変っすねぇ」
店の奥から、お仕着せの和服を着崩した巨乳の金髪娘が現れた。
「ウェントス……みっともない」
胸が服に収まりきらず、胸の谷間が和服の合わせからバッチリと覗いているウェントスの姿に、眉をしかめる恵理。
キャミソールの上からお仕着せを軽く羽織り、適当に帯で結んだだけのウェントスは、恵理の厳しい眼差しに、「和服は着方が難しいっす」とあっけらかんと笑った。
「キチンと着つけは教えたでしょう?」
「胸を抑えて、腹にタオル巻きつけて……苦しいんっすよ?」
「仕事中くらい我慢しなさい」
徐にサラシを持ち出しグルグルと胸を締めつける。
ウェントスは「ギブギブギブっす!」と叫んでサラシを両手で掴むと、バリバリとサラシを破いてしまった。
「……」
一瞬でボロボロとなったサラシに、溜息を零す恵理に「ばぁちゃん、わりぃ……」と申し訳なさそうな顔をするウェントス。
「オマエ、警官になれ!」
いい考えだと千住はウェントスに告げた。
「はぁ? じぃさん、ボケっすか?」
「あぁ、それがいいかもしれないわね」
ウェントスが素っ頓狂に叫べば、恵理は軽く手を打ってイイ考えだと頷いた。
「20歳くらいの若い娘さんの戸籍を用意すればいいかしら?」
「日本人の姿に変えるか?」
イソイソと調べ事を始める恵理。
ウェントスの姿を眺めながら千住が呟けば、恵理が「大丈夫よ」と応える。
「欧州あたりにいる日本駐在員が孕ませた子供で、認知はしてるけど干渉しないって感じで……海外で妖怪がらみの事件に巻き込まれて、っていう身元があったはずだわ」
「よく覚えるっすね」
「彼女に同行してたのが、うちのネットワークの付喪神なのよ」
「……さいですか」
「あの時は、後始末が大変だったわ……その女の子は風間仁美ちゃんって言うんだけどね、とっても良い子なのよ」
長い話が始まりそうだと察した千住は、「じゃぁ、まかせたっ」と、その場から消える。
恵理の苦労話を聞かされる羽目になったウェントスは、「じぃさん、ずりぃっす」と涙目だったが、それを知る者はいなかった。
そして、その年の警察官採用試験に、そこそこの成績で採用になったウェントスは、警察学校で問題児となりつつも、晴れて交番勤務となる。
渋谷駅そばの交番にて、「あぢー」と制服のボタンを外したウェントス。惜しげもなく胸の谷間を通行人に晒した彼女は、上司から大目玉を食らい、毎度おなじみとなった始末書と格闘する事になるのだった。
ちなみに、ウェントスが始末書を書くのは公共風俗の妨げとなる行為だけではなく、お人好しが服を着て歩いているかのような彼女が「やってない」という犯人の言葉を信じてしまい、一度捕まえた犯人を逃がすと言うポカを何度もやっているからだったりもする。
それでも首にならないのは、ひとえに十数ヶ国語をスラスラと話し、理解する言語能力があるためだったのだが、ウェントス個人としては「じぃさんの陰謀だ」と固く信じて疑わなかった。
なぜならば、ウェントスの元へ保護された少女の身元引受人依頼の連絡が、頻繁に来るからだ。
初めは千住一人だけだったのだが、そこに青い髪の高校生もどきが加わり、ウェントスの頭痛の種が二人になるのだが、この時のウェントスは知らなかった。




