酒は飲んでも呑まれるな 2
タイトルのまま、酔っ払って倒れたアオイとカイルの方です。
部屋を出ると、2人が駆け込んだ部屋を確認し、デュラルースもまたその部屋へと足を運んだ。
扉の前に辿りついたところで、曲がり角の方から慌しい足音が聞こえ、そちらに顔を向けるとカイルが水の入ったピッチャーとグラス、そして何故か果物を抱えてやってくるのが見えた。
カイルもこちらに気付き、軽く手を上げてくる。
その拍子に果物が彼の胸元から転げ落ち、カイルは慌ててそれを拾うと服の裾で拭いながら、部屋の前までやってきた。
「アオの様子見に来たのか?」
「当たり前だろう。彼女の様子は?」
「まあ、吐くものは吐いたからな・・・つーか、お前俺のいない間に結構強いのあいつに飲ませたろ?」
「さあ・・・どうだったかな?」
唇の端を持ち上げ、首をかしげながら応えるデュラルースに、やれやれとカイルが肩をすくめた。
扉を開き中へ入り込むと、開け放されたままの寝室の扉の奥から、うーんと唸る声が聞こえた。
「アオ、どうだ~?」
そちらに声をかけながら歩くカイルの後ろに続いて歩を進めていたデュラルースの足が次の瞬間、ぴたりと止まった。
中から聞こえてきた声のせいで。
「もう本当無理・・・デュラのせいでっ! 本当あいつ最悪っ!」
カイルが一瞬こちらを振り返り、にやっと意地の悪い笑みを浮かべる。
彼女の言葉よりも、その表情にむっとしてデュラルースは彼を睨んだ。
そんな彼の様子にカイルは再度笑った後、ベッドの脇に立つ。
「そうだな、あいつはしょうがない奴だ」
「しょうがないじゃない、しょうがないじゃないんだよ」
「ああ、そうだな」
「わかってない! 本当にあいつは、本当に・・・」
「わかってるから、ほら水持ってきてやったぞ」
酔っ払いの言葉に相槌を打ちながら、グラスに水を注ぎ、果物を懐に持っていたナイフで器用に半分に割ると、その果汁を水の中に絞り落とす。
ナイフで豪快にグラスの中の水をかき回した。
「・・・ちゃんと味ついてる?」
「ついてる」
「・・・飲む」
そう返事をしながらも、一向に身体を起こそうとしないアオイの背に、カイルは腕を回して起き上がらせた。
だるそうに顔を上げる彼女の口元にグラスを寄せると、彼女はようやく自分の手を使ってそれを受け取り、一口それを口に含んだ。
「デュラの奴、弱いって言いながら、がんがん飲むんだよ?」
「そうだな、あいつ別に弱いわけじゃねえからな」
「やっぱりそうだよね!? くそー騙された・・・」
別に騙すつもりはなかったのだけれど。
彼女の思惑が見えたので、それに乗ってほんの少し悪戯しようと思っただけで・・・
と、デュラルースは思いながら、やけに親しく見える二人の様子に面白くないと眉を顰め、自分も彼女のベッドの傍まで歩み寄った。
彼女はまだ彼の存在に気付いていない。
カイルは、デュラルースの姿を横目に確認しながら、口を開く。
「じゃ、デュラの奴に会ったらどうする?」
「殴る」
そんなの決まっていると、きっぱりと言い切った彼女の言葉に、先日浴室で彼女に殴られたデュラルースは目を丸くした。
彼女の答えに、カイルは楽しげに笑う。
「そうか、殴るのか」
「ただの殴るじゃないよ。殴りまくる、だから」
「なぐ・・・殴りまくる、のか・・・」
「・・・・・・」
笑いを堪えようと肩を震わせていたカイルが、とうとう噴き出した。
その傍で先日の後頭部の痛みが思い出してしまったデュラルースは、彼女に気付かれないように、そっと後ろに下がる。
揺れるアオイの手がグラスを落としてしまわないうちに、カイルはそれを受け取りながら、もう片方の手でひらひらとデュラルースに出て行った方がいいと合図する。
ここは確かに分が悪いと判断したデュラルースは、大人しくそれに従い部屋の外へと出た。
扉を閉めて、ほっと一息ついてから、それでも彼女の様子に思わず頬が弛んでしまう。
「次はそんなに簡単に殴られないけれどね」
全く悪びれた様子のないデュラルースが、殴られたかどうかは、秘密である