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酒は飲んでも呑まれるな

タイトル通り、本編の酒は~のあたりです。

 やばい。


 カイルが部屋を出て行った瞬間に、そう思った。

 普通だったらここで、危険を感じて酔いも一気に醒めるといきたいところだけれど、そうそう世の中うまくは出来ていない。

 身体は未だお酒の熱を持ったままだし、先程進められるままに飲んだお酒は本当にアルコール度数が高かったらしい。


 口当たりのいい甘いお酒こそ気をつけろって本当だよね。


 酔った割には、そんなふうに何処か冷静に考えられる自分もいる。

 まだ大丈夫。

 私に危機感を思い出させた男、デュラをちらりと見ると、カイルの出て行った扉を見て何やら思案顔の

彼だったけれど、私の視線に気付くと途端に笑みを作り上げた。

 その目に、明らかに酔いとは違う妖艶な光が見え隠れしている。


 わあ、まずい☆


「そっそういえば、私ばっかり飲んでデュラ全然お酒飲んでなくない?」

「私はあまり強くないので」

「そうなの? 男はやっぱりお酒に強くないと」


 口元が引きつってしまなわないように笑顔を作り上げながら、酒瓶とグラスを手に取り、デュラの手に無理矢理グラスを押し付けた。

 彼の返事を待たずに、並々とお酒を注ぐ。


「ぐいっと飲んじゃって、ぐいっと」


 こうなったら、酔わせて潰す。

 自分の身を守るにはこれしかない。


 そう思った私は、怪しまれないためにも自分のグラスにもお酒を注ぎなおす。


「はい、乾杯」


 かちんとグラスを合わせ、自分は今までと違い一口だけ。

 デュラはそんな私の思惑に気付いているのか気付いてないのか、目を細めて微笑んだ後に、ぐいっと勢いよくお酒を飲み干した。


「凄いっ! デュラ全然飲めるじゃない。もうこうなったらどんどんいかなきゃだよね」


 有無を言わせず空いたグラスに、同じ様にお酒を注いだ。

 そんなやりとりを六回繰り返したところで、ふと思う。


 ・・・こいつ、お酒に弱いって嘘なんじゃ?


 本当にお酒の弱い人間だったら、ちびちび飲むか、やけになってこうやってぐいっとあおってもすぐに顔に出たり、途中でやっぱり無理と弱音を吐く。

 まれに、顔色一つ変えずいきなり倒れるパターンもあると聞くけれど、今の所そういう人を見た事がない私としては、信憑性にかけるというか、対処に困る。

 ちなみに、相手に飲ませておきながら自分は飲まないなんて事が出来ない私は、ちびちび付き合っているわけだけど、はっきり言って相当酔いが回り始めていた。

 デュラのグラスが空くのを見て、とりあえずもう一杯注ごうと酒瓶に手を伸ばした指先が、目測を誤って、気付けば大きな音を立てて酒瓶がテーブルの上に転がった。


「わあっ!」


 慌てて酒瓶に手を伸ばし、今度はしっかりと力を込めて持ち上げる。

 瓶口が狭いため、被害はそこまで酷くないけれど、しっかりと手がお酒に濡れてしまった。


「ごめんっ何か拭くものある?」

「まずはあなたの手を」


 いや、それよりもまずテーブルでしょ!


 そう私が抗議するよりも早くに、デュラの手が私の手を捕らえた。

 握り締めていた酒瓶は簡単に取り上げられ、ことんと音をたててテーブルの上に置かれた。

 そして次の瞬間指先に感じる柔らかな感触。

 お酒に濡れた私の指先に、何の躊躇いもなくデュラが唇を押し当てたのだ。


「ちょっ何するの!」


 慌てて引こうとする手を、それ以上の力を持って止められた。

 つっと指先から根元へと舐め上げられ、思わず背筋に甘い悪寒が走る。


「デュラ、ちょ、やめてよ」

「・・・私にお酒を飲む様に勧めたのは、アオイだったでしょう?」

「それはそうだけどっ! これは違う、明らかにちがっ・・・!」


 デュラの舌が、指先から手の平へと移った時に、思わず艶めいた声というものが出てしまった。

 それをデュラが聞き逃すわけもなく。

 彼の細い瞳にも、艶めき甘い笑みが浮かんだ。

 丁寧に手の平を舐め上げ、また指先へと彼の舌が戻ったかと思うと、そこが彼の口に含まれた。


「ちょっ・・・噛むなっ!」


 指先から走った甘い痛みから逃げるように慌てて立ち上がった。

 途端に、くらりと足元が揺れる。

 立ち上がって初めてアルコールが全身まで回っている事に気付くというのは、よくある事。

 倒れかけた身体を、デュラの腕が引き寄せた。


 わあっ更にまずい方向です!


 抱きしめられそうになったのと、神業といえる速度でデュラの肩に手を置いて逃れた。

 彼の肩を押し、それを支えにしながらもう一度立ち上がる。


「ごめん、デュラ、本当に酔ってるから、私そろそろ・・・」


 ここは逃げるしかない。


 そんな私の思惑は、あっさりとデュラの手によって封じられた。

 というか、押し倒された。

 気付けば私の身体はテーブルの上で。

 見上げる視界には、白い天井と私を見下ろすデュラの、なんとも楽しそうな笑み。


「まだ私は飲み足りないので」


 付き合ってくれるでしょう?


 そう言って、流れ落ちる灰群青の髪を耳にかけながら、寄せてくる顔の艶かしい事。

 デュラって本当、黙ってればくらっとくるいい男・・・


 なんて、見惚れてる場合じゃないっ!


 唇が触れ合いそうになった所で、その間に手をねじ込んだ。

 セーフ!


「残念。後少しだったのに」

「デュラ、お酒飲むって言ったじゃない」

「そうだったね」


 言いながら、口元を押さえる私の手の甲に唇を押し当てる。

 手の平一枚の距離で見つめられ、デュラの唇がその手に何度も音をたてて口付けた。

 柔らかな感触に、ぞくぞくと私の背筋に甘い刺激を走らせる。

 この甘さに流されてしまったら、本気で危ないと、私はその感触から逃げるように口を開いた。


「いやもう、私の手お酒残ってないから、普通の飲みなよ」

「私はこれがいいので」

「私が良くない! あ、ほら舐めるの好きなら、テーブルの上舐めていいから。うん。私誰にも何も言わないし」


 酔いで思うように身体に力が入らないため、口でデュラを負かしてみようと思ったけれど、冷たい目であっさりと却下された。

 いや、わかっていたけど。

 至近距離で睨んだところで、全く効果もないし、どうしたものかと本気で焦る私と違い、デュラは身体を起こすと私の肩を片手で押さえたまま、もう一方の手で酒瓶を手にした。


 ん? 何するの?


「こういうお酒の嗜み方も、いいね」


 言いながら、手にした酒瓶を私の手の甲へと傾ける。

 ちょ、まさか・・・


 驚きに目を見開く私の耳に、部屋の扉が開く音が響いたのは、その時だった。


(本編に続く)



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