番外編 第3話「初めての喧嘩と『巣』の閉鎖」
「出て行ってください!」
僕がアレクに対して、これほど大きな声を出したのは初めてだった。
原因は、アレクが僕の大切にしていた「実家から持ってきた使い古しの毛布」を、勝手に捨てようとしたことだ。
「あんなボロボロの布、王妃となる者の部屋には相応しくない。新しい最高級品を用意しただろう」
「あれは僕が子供の頃から使っている、精神安定用の毛布なんです! 匂いが染み込んでて落ち着くんです!」
「俺の匂いがあれば十分だろう。過去の男の匂いがするようで不愉快だ」
「毛布に嫉妬しないでください! もういいです、今日は巣作りしません! この部屋は閉鎖です!」
僕は寝室からアレクを追い出し、鍵をかけた。
「ルカ! 開けろ!」
「開けません! 頭を冷やしてください!」
それから三時間。
僕は意地になって部屋に籠もっていたが、そろそろ寂しくなってきた。
それに、アレクは重度の不眠症だ。
僕がいなくて眠れるだろうか。
(……言い過ぎたかな)
ボロボロの毛布を抱きしめながら反省する。
彼が僕のために新しいものを揃えたがるのは、愛情の裏返しだということはわかっている。
ただ、表現が不器用で俺様すぎるだけなのだ。
「……アレク?」
そっと扉を開けてみる。
廊下には誰もいない。
執務室に行ったのだろうか。
僕は廊下を歩き、執務室へ向かった。
扉の隙間から中を覗き込む。
アレクが、ソファの上で小さくなっていた。
しかも、何かを抱きしめている。
それは、ゴミ箱行きを免れた、あのボロボロの毛布だった。
「……ルカの匂いがする……」
彼は毛布に顔を埋め、独り言をつぶやいている。
「……悪かった。捨てようなんて言って……」
王国の支配者が、たかが古びた布切れに向かって謝罪している姿。
それがあまりにも愛おしくて、僕は涙が出そうになった。
「……アレク」
部屋に入ると、彼は驚いたように顔を上げた。
「ルカ……」
「ごめんなさい、僕も言い過ぎました」
僕は彼に近づき、そっと抱きついた。
「その毛布、返してもらえますか?」
「……嫌だ。これは人質だ」
「じゃあ、僕と一緒にその毛布を使って寝てくれますか?」
「……仕方ないな」
彼は拗ねたように言いながら、僕のためにソファのスペースを空けてくれた。
狭いソファで、ボロボロの毛布を二人でかぶり、僕たちは仲直りのキスをした。
「やっぱり、お前がいないと駄目だ」
「僕もです」
その夜の「巣」は、少し古臭い匂いがしたが、今までで一番温かかった。




