番外編 第1話「王弟殿下の家出と移動式巣作り」
王宮での生活にも慣れてきたある日、僕とアレクの居住区画である「離宮」の前に、小さな人影がうずくまっていた。
「……おい、起きろ」
アレクが足先でツンツンとつつく。
「うぅ……兄上のいじわる……」
顔を上げたのは、アレクによく似た金髪に、少し垂れ気味の緑の瞳を持つ少年。
アレクセイ殿下の弟、第二王子のレオナルド殿下(十歳)だった。
「レオ? どうしてこんなところに」
「兄上が……兄上が僕のおやつを勝手に食べたから、家出してきた!」
「そんな理由か」
アレクは呆れたように息を吐いた。
「たかがプリン一つで。器の小さい男だ」
「あれは限定品の『極上トロトロプリン』だったんだぞ! 兄上なんて嫌いだ! 僕は今日からルカ兄様のところで暮らす!」
レオ君は涙目で僕に抱きついてきた。
「えっ、僕?」
「うん! ルカ兄様の周りはいい匂いがするし、この前作ってくれたお昼寝マット、すごく気持ちよかったから!」
どうやら、以前彼が遊びに来た時に即席で作ってあげた座布団が気に入られたらしい。
王族の遺伝子には「ルカの巣を好む」という特性でも組み込まれているのだろうか。
「いいだろう。だが、ここにはお前の寝る場所はない」
アレクが冷たく突き放す。
「そんなことないですよ。レオ君、とりあえず中に入ろうか」
僕はアレクを睨みつつ、レオ君を招き入れた。
しかし、アレクの独占欲は大人げなかった。
「ルカの隣は俺の場所だ。お前は廊下で寝ろ」
「やだ! ルカ兄様と一緒に寝る!」
「なら、勝負だ」
なんと、王太子と第二王子による「ルカの隣争奪・枕投げ大会」が開催されることになった。
結果はもちろん、体力と経験で勝るアレクの圧勝だったが、泣きじゃくるレオ君を見て、僕は提案した。
「じゃあ、今日は特別に『キャンプごっこ』をしましょう」
「キャンプ?」
「はい。部屋の中ではなく、庭にテントを張って、そこでみんなで寝るんです」
僕の提案に、二人は顔を見合わせた。
僕は庭に大きなテントを張り、その中に持ち出せる限りのクッションと毛布を詰め込んだ。
テントの中は狭いが、それが逆に秘密基地のようなワクワク感を演出する。
「うわあ……! すごい!」
レオ君が目を輝かせて飛び込む。
「下がふかふかだ! 壁も柔らかい!」
「地面の凸凹を感じさせないように、干し草と羊毛を三層構造にしてありますからね」
僕も中に入り、ランタンを灯した。
狭い空間に、大人二人と子供一人。
「……悪くない」
アレクも満更でもなさそうに、僕の右側に陣取った。
「ルカ兄様、こっち向いて!」
レオ君が左側に潜り込んでくる。
僕は左右から王族に挟まれ、温かいサンドイッチの具になった。
「兄上、ルカ兄様は渡さないぞ」
「百年早いわ、小僧」
「まあまあ、二人とも。今日は仲良く寝ましょう」
僕は二人の頭を撫でた。
テントの布越しに聞こえる虫の声と、風の音。
普段の豪華な寝室とは違う、少し不便で、でも最高に密着した夜。
「……おやすみ、ルカ」
「おやすみなさい、レオ君、アレク」
翌朝、国王夫妻が「息子たちが庭で団子になって寝ている」のを発見し、微笑ましくスケッチしていたのは言うまでもない。




