第16話「王太子、公の場で暴走する」
舞踏会での隠れ家デートから数日。
僕とアレクセイ殿下の関係は、学園公認のものとなりつつあった。
「ルカ様、本日の『巣作り』のスケジュールですが」
「ルカ様、こちらの高級羽毛はいかがですか?」
今や、僕の周りには侍従や商人までもが集まってくる始末だ。
モブとしての平穏は完全に消滅し、僕は未来の王太子妃候補として扱われていた。
しかし、問題は山積みだった。
一つは、アレクの独占欲が日に日にエスカレートしていること。
もう一つは、彼が「オメガの巣作り」という行為を、性的なメタファーとして理解しすぎてしまったことだ。
ある昼休み、中庭でのこと。
全校生徒が見守る中、アレクは僕を膝に乗せ、僕が作った芝生とブランケットの即席の巣で堂々と昼寝をしようとした。
「殿下、見られてます! 先生も見てます!」
「構わん。ここは俺たちのテリトリーだ」
彼は僕のうなじに顔を埋め、深呼吸をする。
「……いい匂いだ。最近、少し香りが甘くなったな。……発情期が近いのか?」
その言葉を、彼はあろうことか通常の声量で言った。
周囲がざわつき、悲鳴にも似た歓声や驚きの声が上がる。
僕は顔から火が出るどころか、全身が爆発しそうだった。
「デリカシー!! 王族としての品位!!」
「俺の品位など、お前の安眠効果の前では無に等しい」
「比較対象がおかしいです!」
彼は聞く耳を持たない。
それどころか、僕のシャツのボタンを一つ外そうとしてきた。
「匂いがこもっている。風通しを良くしてやろう」
「やめてください! これ以上やったら、僕は巣作りストライキをします!」
「……ストライキ?」
ピタリと彼の手が止まる。
「そうです。今後一切、殿下の枕の調整もしないし、シーツの素材選びもしません。部屋の温度管理も放棄します」
アレクの顔が青ざめた。
「……それだけは困る。死活問題だ」
「なら、場所をわきまえてください!」
「……チッ。わかった」
彼は不満げに手を離したが、その目は「後で覚えていろ」と言っていた。
周囲の生徒たちは、王太子がただの一学生にやり込められている姿を見て、唖然としていた。
こうして、「猛獣使いルカ」の異名は、さらに確固たるものとなったのだった。




